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アンタでいいから行ってこい!  作者: 一奏懸命
第1章 アンタでいいから行ってこい!
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第5話 イエス!? ノー!?

「えっと……」

 純平の思考回路がパンクしそうなくらいフル回転している。間違いない。この堀越という男、純平を晴海だと思って告白しているのだ。しかし、男と付き合うなど純平にはありえないことだ。

 ところが、思い返してみると恐らく、晴海はこの堀越というヤツのことが好きなんだろうと純平は予想した。あの時の電話の態度からして、興味がないとは到底思えない。断らないだろう、普通。

 けれども、今まで純平は告白を(もちろん女子から)受けたことなどなかった。それに、女子が男子から告白を受けたとき、どのように振る舞えばいいかなどわからない。

「ねぇ、校庭で告白だよ!?」

「あれ、1年生だよね?」

「ヒャー、入学していきなり告白!? ロマンティック〜」

 気づけば、注目の的になっていた。いつのまにかひとみと美砂も遠巻きに二人を見ているだけだった。

「あっ、あの!」

 純平はとりあえずこの場から逃げたくなり、翔希の手を引いた。

「恥ずかしいので……どこか人のいないところでお話しませんか!?」

「あ……そ、そうだね、ゴメン。じゃあどこか……」

「あたしいいお店知ってるんです! そこへ行きましょう!」

「え、あの高垣さ……うわ!?」

 純平は必死になって翔希の手を引いて門を飛び出した。100メートルほど全力疾走して、ようやく生徒が少ないところへ着いた。

「よ、よし……! これで平気」

「あっ……あの……」

 気づくと、息を荒くしている翔希の姿があった。

「ワッ! ご、ごめん……なさい」

 女らしく、女らしくという言葉が純平の頭を巡る。ここで失敗して翔希を幻滅させるようなことをすれば、純平は無事では済まされない。イメージアップを図らなければ。

 純平はポケットからハンカチを取り出し、翔希の額を拭いた。

「汗、かかせちゃいましたね。ごめんなさい」

 純平はおしとやかな素振りで翔希の額を拭いた。背が高い翔希の額はなかなか届きづらく、しんどいものがある。足がつりそうだ。

「あの……晴海さん」

「はい?」

「その……む……」

「む?」

「胸が当たって……恥ずかしい」

 よく見れば、翔希のおなかの位置に偽胸がモロに当たっていた。

「わ! あの、ご、ごめんなさい!」

 純平は慌てて翔希から見えない向きでボールの位置を修正した。今ので右と左で高さがズレてしまったのだ。

(バレたら絶対ヤバいから……バレないようにしなきゃ)

 ボールの位置を戻して、翔希のほうを振り向く。

「あの……それで、晴海さん。さっきの話の続きなんですけど……」

 答えを言うのは避けたい。できるなら、この瞬間は晴海にYesかNoか(まぁ、Noはありえないだろうと純平は思うが)を決めさせてあげたい。いくら横暴な姉とはいえ、それくらいの権利は十二分に持っているはずだ。そう考えた純平は、もっともらしい答えを返した。

「今は、あたし、まだ高校生活に慣れなきゃって思うの。ねぇ、翔希くんもそう思わない?」

「え?」

「まだお互い高校生活始まったばかり! 今は、勉強とかしっかり頑張って、落ち着いてきた頃に考えない? あたしは、そうしたい」

 今のはなかなかいいぞ。純平は心の中でニヤニヤしていた。

「そっか……そうだね。晴海さん、考えてることが大人だよ」

「アハ! なんかそう言ってもらえると嬉しい」

「俺も嬉しいよ」

「へ?」

「初めて……晴海さんが俺のこと、名前で呼んでくれたから……」

「あ……そ、そうだっけ?」

「うん!」

 翔希は本当に嬉しそうに笑った。なるほど、ここまで純粋でイケメンで頭が良くて、この笑顔があるんだったらどんな女の子でもイチコロだろうな。そう純平は思った。せめて、背だけでもいいから彼から分けてもらいたいものだ。

「あたしね、堅苦しいの苦手なんだ。だから、あたしのこと、晴海さんなんかじゃなくって、晴海とか呼び捨てでも言いし、あだ名で呼んでくれてもいいよ」

 よし、今のもごくごく自然だ。OK。

「い、いいのかな」

「あたしはOKよ」

 だいぶと女言葉も慣れてきた。

「じゃあ……晴海ちゃんで」

「嬉しい! ありがと!」

 もう今のなんか最高じゃねー!? 俺って天才!

 純平は自己満足だったが、女の子らしくなってきたのではないかと嬉しくなっていた。しかし、そんなものも翔希がいなくなったあとは、空しさばかりが残った。

「俺……何やってんだろ。つーか、また来年受験しなきゃなんないのに……。塾とか予備校考えないとなぁ」

 もうすぐ家に着く。こんなスースーした気持ち悪いスカートをもうすぐ脱げる。そう思って足が速くなる。しかし、後ろから聞きなれた声が聞こえてきて、純平は足を止めた。

「あれ? ハルじゃね?」

 マズい。賢輔だ。気づけば全力疾走していた。ここでバレるわけにはいかない。とりあえず、賢輔を撒かなければいけない。幸い、純平の家の周辺は路地が入り組んでいてわかりにくいようになっている。

「おーい! ハルだろ!? 骨折してんのになんで制服着てウロウロしてんだよ!?」

(しつこいな! いい加減諦めろって!)

 純平は小学校からラグビーを続けている。足には自信がある。しかし、賢輔は野球部だった。彼も足には自信がある。けれども、地の利は純平にあった。なんとか賢輔を撒いて、自宅へ駆け込んですぐに晴海を呼んだ。

「晴海! ヤベェ、賢輔にバレそう!」

「なんですって!?」

 晴海が読んでいた雑誌を放り投げた。

「顔は見られてねぇけど、絶対疑われた! アイツがウチに来ないうちに着替えて、入れ替わらなきゃ!」

「早く! 早く制服脱いで! クローゼットに放り込むから!」

「晴海は外出てろよ!」

「アンタの貧弱な体なんか見たって萌えないわよ! 早くしてよ!」

 下でインターフォンが鳴った。

「ヤバい! アイツ、入ってくる!」

 幼なじみだから、家へ勝手に入ってくることに慣れているのだ。

「早く早く早く!」

 足音が近づいてくる。ドアをノックする音が聞こえた。

「ハル?」

「はぁ〜い? なに〜?」

「開けてくんない?」

「あたし今、動くだけで痛いの。自分で開けてよ。入っていいから」

 賢輔はドアをゆっくりと開ける。そこには、クッションに腰掛けて雑誌を読んでいる晴海がいた。

「どうしたの? 賢輔」

「いや……あのさ、純平は?」

「純平? 隣に決まってるじゃない」

「ふぅん……」

 賢輔はいちおう、純平の部屋もノックしてみた。

「はいよ。あ、なんだ、賢輔じゃん」

「よぉ」

「どした?」

「いや……なんとなく、顔見たくってさ」

「? 変な賢輔」

「悪いな。また来るよ」

 賢輔は首を傾げながら、階段を降りていった。純平はそれを確認してから、ドアを閉めてヘタヘタと座り込んだ。

「こんなんじゃ、寿命持たねーっつの」

 長くとも、3ヶ月はこの生活が続く。純平の悩みの種は、まだまだ絶えない雰囲気を呈していた。

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