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アンタでいいから行ってこい!  作者: 一奏懸命
第1章 アンタでいいから行ってこい!
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第4話 お申し込みは校庭で

「ゲッ!」

 純平が教室に入ると、なんとあの落合という女教師がいた。

(なんでアイツがここにいるの!? ま、まさか)

「高垣さん。早く座りなさい」

「えっと……あの、落合先生は、このクラスの……?」

「そうです。1年4組の担任です」

「ウッゲェ……ありえねぇから」

「なんですか!?」

 ボソッと呟いたつもりが、丸聞こえだったらしい。周りの生徒もクスクス笑っている。

「いいえ! なんでもありません!」

「なら、早く座りなさい」

 純平はスカートの違和感が拭いきれないまま、自分の席へ座った。ちなみに、同じクラスには津田ひとみ、江島 美砂がいる。とはいえ、美砂はあくまでも晴海の知り合いだから、本当の意味での知り合いはひとみくらいしかいなかった。

「それでは、今から今後の行事についての説明を……ちょっと! 高垣さん!」

「はっ、はい!?」

「脚を開いて座らないで。見苦しいわ」

「あ、はいはい!」

「はいは一回!」

「はい!」

 純平は慌てて脚を閉じる。

(内股のほうがいいか?)

 とりあえず内股で座ってみた。

「高垣さん!」

「はい!」

「内股は体によくないから、まっすぐ座りなさい! それからあなた、猫背の傾向があるわ」

「はい!」

 とりあえず脚をまっすぐにし、背筋も伸ばす。まったくもってこの学校の意味がわからないと純平はため息を漏らした。

「それでは、今後の行事の説明をします。明日は授業登録の説明をします。それから、各委員会に所属していただきますので、なりたい委員の立候補を募ります。こちらは推薦でも構いませんが、できるかぎり立候補をお願いします」

 面倒なことが苦手な純平は、(はな)から委員になる気などない。この説明は正直、どうでもいいと思ってスルーしておいた。

「それから、明後日は身体測定があります。体操服は明日から販売しますので、今日は月曜日で、4組は水曜日にありますので明日中にしっかり購入しておいてください。木曜日から授業が始まります。授業登録は明日明後日中に済ませておいてください。それと、この学校は原則お弁当持参になっています。健康管理をしっかりしていただきたいので、親御さんにはご迷惑をおかけするかもしれませんが、事前に学校説明会において説明はしていますので……」

 眠い。

 眠すぎる。

 説明が多いと人間、退屈になる。もっとわかりやすく、端的に物事は述べるべきだ。

 そんなことを考えているうちに、大いびきをかいて純平は眠ってしまった。

「そこーっ! 居眠り厳禁!」

 チョークが鋭い音を立てて純平の頭を直撃した。

「痛ってえええ!」

「また高垣さん!? 入学早々、粗忽な行動が多すぎますよ!」

「は、はい! すいません、今後気をつけます!」

「すいません、ではなく申し訳ございません!」

「はい! 申し訳ございません!」

 純平は何度もペコペコお辞儀をしながら、ため息を漏らす和沙の目を見つめた。ずいぶん怒っているようで、釣り上がって見える。今後、こんなことばかりしていたらきっと晴海が退院してからきっと怒られるのを通り越して半殺しにされるかもしれない。

「冗談じゃねぇ……」

 純平はブルブルと体を震わせた。


「ねぇ、晴海」

「……。」

「晴海?」

「……。」

「は・る・み!」

「え!?」

 純平は自分のことだと気づくまでにまだ時間がかかる。自分は純平だけど、晴海。意味がわからなくなりそうだ。

「な、なに!?」

「あんたさぁ、最近変だよ絶対」

「そう? 気のせいよ、きっと」

 お、今のいいんじゃない? 女の子らしかった。

「悩みあるの?」

「悩み?」

 強いて言うなら、今の環境。いつかバレたら大変なことになる。

「えーっと……まぁ、それ相応に」

「悩みがあるなら、あたしにでもいいから言ってよ? 中学校からの友達なんだし」

「あ、ありがと」

 まさか女装して学校に来てるんだけど、どうしよう?なんて聞けない。そんなことを聞けば、友情関係にもヒビが入るだろう。そしてゆくゆくは――。

「冗談じゃない!」

 気づけば叫んでいた。美砂とひとみが目を丸くしている。

「どうしたの? 晴海ちゃん」

 ひとみが心配そうに顔を覗き込んだ。

「なっ、なんでもないのホント。なんか学校の環境に慣れなくってさぁ……」

 正直なことを吐露した。

「え? そうなの?」

 美砂が驚いた顔をした。

「とてもそんな風には見えないけど……。っていうか、中学時代よりはっちゃけておもしろくなったよ、晴海」

「え?」

「なんか中学の頃は堅くて怖い感じだったけど、今は近づきやすくなったよね」

「……そ、そっか」

 このままではマズい。晴海の退院後には今の自分との間にギャップが生じて違和感を抱かれるのは確実だ。しかし、今さら再び晴海っぽく演じるのも変な話だろう。いったい誰に相談したらいいのか。

「頭おかしくなりそう……」

 すると、ひとみが「キャッ!」と黄色い声を上げた。ボーッとしている純平の横で、同じように美砂が「わぁお!」と同じような声を上げた。

「ちょっと、どうしたの?」

「知らないの、晴海! あれ、あの門のそばにいる男子! あたしたちと同じ系列の高校、星蘭男子高校の制服だよ! ちょっとひとみちゃん、ヤバいね彼! イケメンだよ!」

「ホントだ! スゴいスゴい! 誰か待ってるのかなぁ〜。うらやましい!」

 関係ない。イケメンなんて興味ナシ。興味あるほうが変だろう、普通。

「晴海ちゃんは? どう?」

 ひとみが興奮した様子で純平の制服を引っ張った。

「興味ない」

「なんだ〜……冷めてるなぁ」

「え? そんなだっけ?」

 美砂がキョトンとした様子で聞き返した。

「だってあれ、堀越くんだよ? よく見た?」

「堀越?」

 純平はいろいろ思い返してみる。堀越。ホリコシ。ほりこし。

 不意に記憶が蘇った。


 ――俺、堀越 翔希と申します

 ――堀越?

 ――晴海さんですか?

 ――いえ。違います

 ――でっ、でっ、電話、誰から!?

 ――へ? 堀越とかいう……

 ――それはあたしが出るべき電話〜!


「あっ!」

 思い出した。きっとアイツに違いない。しかし、顔なんて知らない。

「キャッ! ちょっと、こっち来るよ」

 ひとみが声を上げる。堀越はまっすぐ、純平に向かってくる。

「高垣さん!」

「へ?」

「あの……あの!」

 堀越の顔が真っ赤だ。次の瞬間、堀越の大声が校庭に響いた。


「オレと、付き合ってください!」


「……は?」

 純平の思考回路が一時停止した。

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