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アンタでいいから行ってこい!  作者: 一奏懸命
第1章 アンタでいいから行ってこい!
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第3話 天国か、地獄か

「うっお……!」

 入学式会場に晴海(じゅんぺい)が入るとあまりの華々しい雰囲気に圧倒された。

「なななななな、なんなんだこの空間は!」

 晴海(じゅんぺい)はあまりの華々しさに目を覆ってしまうほどであった。ちなみに、ここからどちらが晴海でどちらが純平かわからなくなってくるので、晴海が出てきたときには改めて(はる)()と表記し、変装した晴海の場合は晴海(じゅんぺい)といったん表記し、それ以降はすべて純平と表記する。

「とりあえず……座らないとダメだよな」

 純平はキョロキョロと自分のクラスの席を探す。どうもこのスカートというのはスースーして落ち着かない。

「女子はなんでこんなの平気で履いてられるんだろう」

 純平は平気でスカートを捲り上げた。

「やべっ!」

 慌てて純平はスカートを元へ戻す。うっかりしていたのだが、当然ながらパンツは男物。もしも(はる)()が男物の下着を着けている、などという噂が流れれば確実に晴海に殴り飛ばされるだろう。

「冗談じゃねぇ」

 純平は苦笑いしながら自分のクラスを探し続ける。

「あ、あったあった」

 純平はようやく自分のクラスを発見し、指定された席に座った。純平のクラスは1年4組。全部で6クラスあるのだが、当然ながら女子高なのですべて周りは女子だというわけだ。そう思うと、どこかで男子だとバレてしまうのではないかと純平は不安で不安で仕方がなかった。しかし、今日はしっかりと涼子が(頼みもしないのに)化粧をしてくれた。なので、顔でバレることはないだろう。かつらが吹っ飛んだりしない限り。

 さらに、強引な晴海の仕業でスネ毛はすべて剃ってしまった。何かと男らしさに欠けていた(と純平は思っている)ので、スネ毛が生えたときは自分も男らしくなったかも、と思って嬉しくなったものだ。

 しかし、昨晩。

「女の子がスネ毛丸出しで学校行くとかありえない! 即カット!」

 鶴の……ではなく、晴海の一声ですべて剃ってしまったのだ。おかげで、気持ち悪いくらいツルツルになってしまった。

「はぁ〜足がスースーする」

 純平は自分の席にドカッと座った。隣に座っている女の子が驚いた顔をする。

「ん?」

「……。」

 その子はジーッと純平の脚を見つめている。

「……。」

「……。」

 嫌な汗が出てくる。いくらスネ毛を剃ったとはいえ、やはり男子。脚が筋肉質になるのは避けられない。さらに残念なことに、純平は小学校4年生からラグビーをしている。ラグビーをしている男子の中では華奢なほうだが、脚はガッシリしているので下手をすればバレてしまうかもしれない。

「あの……なにか?」

 純平が声をかけると、その子はハッとしたように顔を上げ、しばらく純平を見つめた。

(ヤバ……マジでバレた!?)

「あの……」

「はい?」

「脚……」

 嫌な汗がドクドク出てくる。心臓も高鳴るばかりだ。

「そんなに開きすぎてると、先生に怒られますよ?」

 気づけば股が見えるくらい脚を開いて座っている自分に、純平は気づいた。

「あっ、あぁ! そ、そう……ね! や、いやですわ(わたくし)としたことが」

 使い慣れない女言葉で純平は答えた。それから脚をきちんとそろえて座る。

(こんなんじゃ……精神状態持たねぇよ)

「あの……」

 先ほどの女子が再び話し掛けてきた。

「ふぇいっ!?」

「あ、ゴメンなさい。あの、私、自己紹介してなかったんで」

「あ……ご、ご丁寧にどうも」

「私、津田(つだ)ひとみと申します。()(おう)女子中学出身です」

「……。」

 美人でおしとやか。こんな子があんなガサツな晴海と同じクラスになるっていうのだから、信じられない。

「あの、あなたは?」

「えっ! あぁ、私でございますか?」

「あ、はい」

 どうも言葉遣いになれない。自分の言葉が変なのはわかっているのだが、どう喋っていいのかなんてわからない。なにせ、自分は男なのだから。

「私、高垣じゅ……」

「じゅ?」

「じゃなくって、私、高垣晴海と申します〜! よろしくね、ひとみちゃん!」

 するとひとみの顔がパァァッと明るくなった。

「嬉しい! 私、初対面の人に名前で呼んでもらえたの、初めてです!」

 ひとみはガシッと手を握って本当に嬉しそうに握手をしてくれた。

「晴海さんって……」

 不意にひとみが手を見つめた。

「な、なぁに?」

「手が堅いですね。肌、綺麗ですけど」

(お……男ですからね!)

 しかし、ここでバレるわけにはいかないと思った純平は咄嗟にウソをついた。

「い、いやあねぇ! 毎晩、美肌水でお手入れしてるけど、この時期はどうしても荒れちゃうのよねぇ」

「……。」

 ひとみがポカンと口を開けて見つめている。

(マ、マズッた!?)

 ところがすぐにひとみの目が輝くように光り出した。

「そうですよねぇ! 私も春先、手が荒れるタイプなんです〜! いったいどんなお手入れしるんですか!?」

「えぇ!?」

 まさかの返しだ。手入れなんてするはずもないのに、適当なことを言ったがためにどえらいことになってしまった。しかし、これ以上ウソのつきようがない。仕方なく、純平は困り果てた挙句にこんな返しをしてしまった。

「今度、私の家に来て一緒にお手入れしてみない?」

「ホッ、ホント!?」

「えっ、えぇ!」

「わぁぁ! 嬉しい! じゃあ、入学式が終わった後にメールアドレスとか電話番号を交換しましょうね!」

「えっ、えぇ!」

「やったわぁ〜!」

 喜ぶひとみの横で、純平だけが冷や汗ダラダラで座っていた。その純平の2列後ろで、いやに燃えている少女がいた。

「高垣……晴海! 美人(ビューティー)フェスティバルトップの座は……譲れないんだから!」

「ん?」

 鼻がムズムズする。お上品なクシャミを。そう思ったが、時既に遅し。

「ブエエエエエェェックショオオオオイ!」

 体育館中に響くくらい大きなクシャミをしてしまった。おまけに、鼻水まで出てしまった。

「高垣さん!」

 先ほどの落合という先生が負けないくらい大きな声で叱り飛ばしてきた。

 高垣純平、男、15歳。女子高入学。これは天国か地獄か。

(こんな毎日……どんだけ続くんだろ……)

 ズズッと鼻水をすすりながら、純平はそんなことを考えていた。

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