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アンタでいいから行ってこい!  作者: 一奏懸命
第2章 分身&合体
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第38話 服は自分の鑑だよ



「あー! 晴れた、晴れた!」

 晴海は元気よく伸びをしながら、空を見上げる。旅行2日目。今日も天気は快晴だ。今日は神戸市内から大阪市内へと移動する。晴海、ひとみ、翔希、美砂、花梨、そして純平の珍道中はまだまだ続く。

 ホテルをチェックアウトしてから、三宮界隈でショッピングをする。震災後にオープンしたミント神戸では、女子4人が男子2人をほったらかしで買い物を楽しんでいた。

「なぁ」

 純平が翔希に話しかける。

「うん?」

「アイツのどこがいいわけ? ぶっちゃけ」

 翔希が目を丸くした。

「……。」

「え? 何? もしかして考え込んでる?」

「いや……なんていうか、そんなこと考えたこともなかったよ」

 純平はそうした答えが来るとは思っていなかったので、拍子抜けした。そして、思わず笑ってしまう。

「な、何がおかしいんだよ……」

「いや……そうだよなぁって思って」

 純平は晴海を見た。服を見て花梨と楽しげに笑う晴海。きょうだいなので毎日一緒にいれば、どこがいいとかそんなことを改まって考えることもない。だから、かえってそのきょうだいを好きになった人が現れたら、いったいどこが良かったのか。気になってしまうのだ。

「なんていうか……完全なる一目惚れだったんだよな」

「そうなんだ?」

「そういうの、ないか?」

 翔希が純平に聞く。正直なところ、アメフトに夢中で今までそんなことは考えたこともなかった。素直に、そう言った。

「そっか……。いいじゃないか。そうやって、夢中になれることがあるっていうのは、いいことだと思う」

「……ありがと」

 素直に褒められると、なんだかむず痒いものなんだと純平は感じていた。

「ねー! 堀越くん! ちょっとこれ似合うかどうか、見てくれない?」

「あぁ、わかった」

「ねー! 純平もさぁ、ひとみちゃんのコレ、似合うかどうか見てあげて」

「へ?」

 翔希が純平の手を引く。

「ほら、呼ばれたんだから行くぞ」

「あ、あぁ」

 純平は照れながらもひとみのところへ行く。ところが、これが大問題だ。純平はファッションにはほとんど興味がない。休みの日でも、家にいる間はほとんどジャージ。こうした旅行の時には辛うじて用意している余所行きの服を着ているのだ。

 今回の3泊4日の旅行だって、結構ギリギリの量だった。

「これ、どうかな?」

 ひとみの問いに純平はぎこちなく答える。

「うん。いいんじゃないか?」

「……。」

 しかし、ひとみは納得していない。それどころか、ドキリとすることを彼女は言ってきたのだ。

「ひょっとして……純平くん、服、興味ない?」

「えっ!?」

 そんなことはない、とすぐに繕おうとしたが、それも逆効果な気がしてきていた。純平は恥ずかしさのあまり、顔が赤くなってしまう。

「そうなんだ、やっぱり」

 俯いたまま、純平は何も言うことができない。すると、そのときだった。

「え?」

 ひとみが純平の手を引いている。

「あっちにさ、メンズのカッコいい服あるんだよ! 合わせてみない?」

「で、でも俺に絶対そんなの似合わない……」

「そんな決め付けないでさ! 行こう、行こう!」

 ひとみに連れられるがまま、純平はメンズのショップへと移動した。

「これなんて、どう?」

 とてもカジュアルなシャツだ。赤が基調になっていて、英文字がデカデカと書かれている。正直言って、派手なシャツだった。

 純平はブンブンと首を左右に振る。

「冗談じゃない! それでなくても今まで変な格好させられてきたのに……あ……」

 思わず女装していた時のことを思い出し、言ってはマズいことを口走ってしまう。

「変な格好?」

 ひとみはキョトンとしている。

「や……なんていうか……」

 純平はどんどん顔を赤らめていく。

「どんな変な格好か知らないけどさ」

 ひとみは淡々と服を純平に渡していく。

「服は自分を映す鑑なんだよ? だから、大切に選んで、上手に着こなさなきゃ」

「……。」

「純平くん、イケメンさんなんだしさ。ねっ!」

 ひとみの素直な言葉に、純平は小さくうなずいた。

 確かに、服が自分の鑑だという言葉には純平自身、納得していた。女装していた時には、服のおかげで雰囲気が保てていたというのもあった。なるほど、服の影響というのは大きいのかもしれない。

 純平はそう思いながら、店員の勧めも聞きつつ服を選んでいった。

 15分ほどして、試着室から純平が出てくる。すると、ひとみがキラキラと目を輝かせた。

「ど、どうかな……」

「スゴーい!」

 ひとみが歓声を上げる。純平はますます赤くなった。

「似合ってる! スゴイよ、本当に!」

 純平は改めて鏡に向かって立ってみる。アメフトをやっているので多少なりとガッチリした体格の自分に、よく合った服だった。

「……なんか、服着るのって、楽しいな」

「でしょ! ねっ、これ買わない?」

 値段もそれほどビックリするものではない。それ以上に、自分にシックリと来るこの福が、純平も欲しくなった。

「うん! 買う!」

 笑顔で答える純平。ようやく自分らしさが出せてきたような、そんな気がしてきて、彼は素直に嬉しかった。





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