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アンタでいいから行ってこい!  作者: 一奏懸命
第1章 アンタでいいから行ってこい!
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第2話 ウキウキ初登校!?

「……。」

 ウキウキした様子の女子高生。エクステ巻いてる人までいる。どうやら進学校とはいえ、いろんな性格をした人がいるようだ。

「いったいどうしたら……」

 その子はオドオドした様子で周囲を見渡す。そもそも、このスカート自体がはき慣れない。違和感がありすぎる。

「はっるみぃ〜!」

 バシーン!とその子の背中を叩いたのは、晴海の中学時代からの友人、()(じま)美砂(みさ)だった。

「え……っと、あぁ! おはよう! ミサ!」

「やだなぁ、ボーッとして。春休みボケが抜けてないでしょ? しっかりしなよぉ、今日は入学式だよ! 憧れの星蘭女子だよ!」

「うっ、うん! そうだね!」

「ホラ、入学式始まっちゃう! 急ごう!」

「あ、ちょ、ちょっと待って! あたしトイレに……」

「コラッ! そこっ!」

 突然、先生に呼ばれた二人は直立不動で立ち止まる。

「はい!」

「アナタ! 名前は!?」

 晴海が指を指された。

「あ、あたし!?」

「そう、アナタ」

「あたしは……高垣晴海です」

「高垣晴海さんね。いいこと? 女性たるもの、トイレではなく、お手洗いとおっしゃい!」

「は?」

「トイレなんていう言葉は、一般庶民が使うもの。星蘭女子の女性は、お手洗いへ行ってまいります、とおっしゃい! わかったわね!?」

「……。」

「返事!」

「は、はい!」

 よく見れば、先生の胸元に名札がついている。『落合(おちあい)(かず)()』と書かれていた。

「それから、あたしではなく(わたくし)とおっしゃい! わかったわね、二人とも!」

「はい!」

「よろしい。それじゃ、入学式には遅れないようにするのよ!」

 そういうと、和沙は颯爽と体育館へ歩いて行った。

「……なんちゅー学校だ」

 晴海は思わず素の言葉が出てしまった。

「ハル、また怒られるよ?」

「あ……そうだったな」

「だったな?」

「あ! ううん! とりあえずあたしトイ……じゃなくって、お手洗い行ってきますわ」

 どうも言葉が不自然になる。美砂も違和感を感じずにはいられない。そんな美砂の視線を感じながら、晴海は急いで校舎へ駆け込んだ。

 靴箱で慌ててスリッパに履き替え、トイレに駆け込む。

「ハァ……ハァ……」

 そして晴海は――頭のかつらをズルリと取った。

「ったく! 何で俺がこんなことしなきゃなんねぇんだよぉ〜!」

 話は晴海が骨折した当日へ戻る。


「ハァ!?」

 晴海の話に純平は顔を歪めた。

「だーかーら! あたしが入学式から欠席なんてありえないわけ! わかる!?」

「知るかよ! 自分で男の電話に調子こいて階段から落ちたクセに。自業自得だろ?」

「許せない! 他の子が高校生活楽しんだり、勉強したり、恋バナしたり! 許せないわぁ〜!」

 ガクガクと純平のパジャマの襟を揺さぶる晴海の手をなんとか押さえ込み、純平が続ける。

「それじゃ、俺はどうすればいいのさ。毎朝、お前のサポートすりゃいいの?」

「違う!」

「じゃあどうすんのさ。毎日、友達に連絡とって勉強の内容聞けばいいのか?」

「違う!」

「じゃあどうすんのさ!?」

「アンタがあたしの代わりに学校へ行くの」

「……。」

 純平も涼子も、信和も呆然としている。

「バカ言うなって。俺、男だぜ?」

「でも……重要な事実を忘れてるわ」

「へ?」

 晴海がビッと右手の人差し指を純平の鼻頭へぶつけた。

「あたしとアンタは双子。二卵性双生児よ」

「で?」

「見た目はそっくり」

 確かにそうだった。目元から鼻、口、眉毛までそっくりで性別が違うだけだ。小さい頃は、親類でもなかなか二人の違いを見分けられなかった。

「で?」

「さらに! アンタは成長が遅いからか声変わりしていない!」

「失礼なヤツだな!」

「そして! お母さん、お母さんのカツラ貸して!」

 晴海は強引にかつらを純平に被せた。

「どうよ!?」

 おぉ〜、という声が涼子と信和から上がった。

「うげっ!? な、なんだよこれ!?」

 そう。見た目が晴海そっくりだったのだ。

「というわけで、アンタには入学式からあたしが完治するまで、あたしになりきって登校してもらいまーす! ズバリ! アンタでいいから行ってこい作戦!」

「冗談じゃねぇ!」

 純平はかつらを床に叩きつけた。しかし、信和が突然はがいじめをしてきた。

「父さん!?」

「おもしろいじゃないか」

「はぁ!? 正気かよ!? 母さん!」

 すると、涼子が目の前で化粧パフを持っているのに気づいた。

「おいおいおい!」

「化粧をすればもっとカワイくなるかも……」

「うわ……ちょ、ありえね……やめ……うあああ――!」


 そして今日に至るというわけだ。スカートからセーラー服はもちろん、ブラジャーまで着けている。というのも、胸のふくらみを微妙に調節したボールで表現したからブラジャーを着けなければ不自然だからだ。

「最悪だ……」

 ハァッとため息をついていると、トイレに誰かが近づいてくる。

「うわわ! かつら、かつら!」

 急いでかつらをつけ、その人物が近づいてきても平気なように準備をする。ガラガラ!と音がして戸が開くと同時に、男性教諭が入ってきた。

「おはようございます〜」

「……。」

 先生は呆然としている。

「あのぉ〜……」

 すると先生は血相を変えて晴海(じゅんぺい)の手を引いて外へ放り出すように振り回した。

「うわぁ!?」

「お前! ここがどこなのかわかってんのか!?」

「へ?」

 晴海(じゅんぺい)が見上げると――表札には『男子トイレ』の文字。

「そういえば……女だったんだ、いま」

「なに?」

「あっ! いえ、すいません! 間違えました! 失礼しましたぁ!」

 晴海(じゅんぺい)は慌てて廊下を走り、階段を駆け上がっていった。

「こんなのが3ヶ月も続くのかよぉ……」

 お先真っ暗。そんな言葉が、純平の頭をよぎった。

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