第35話 本物に、告白
夕暮れの時間。午後5時半に、純平たちはモザイクにやって来た。
「うわ~! すっごい綺麗ね」
花梨が大きく伸びをしながら港のほうを見る。
「ホント。神戸って、震災があったらしいけど、もう全然そんな風に見えないね」
美砂も隣に立ち、港をグルグルと見渡す。
一方の翔希はというと、美砂と花梨の隣にいる晴海のほうを見てソワソワしていた。晴海を見て、後ろを見て、晴海を見ての繰り返し。
何をそんなにキョロキョロしているのかを確認しようと、純平も同じ動きをしてしまう。そして、その意味を悟った純平が翔希のわき腹をつついた。
「わっ!」
「なぁなぁ、堀越くん。あれ、気になるんだろ?」
純平が指差したのは、モザイクの近くにある観覧車。大きくうなずく翔希。
「わかる、わかる。俺に任せておきたまえ」
「ホント?」
「余裕余裕!」
軽いステップで晴海たちのところへ近づく純平。
「はーるみ! 皆!」
「なーにー? いい雰囲気なのに」
気だるそうに答える晴海。純平はその気だるさを吹き飛ばさんばかりのテンションで言った。
「あそこの観覧車! 今さ、ちょうど夕暮れの時間だろ? この神戸って、夜景ヤバいらしいじゃん? でも、今から六甲山登ってたら時間ねぇからさ。せめて、観覧車から夜景、楽しまない?」
その言葉に晴海の目が輝く。夜景が大好きな晴海には、これ以上ないというほど効き目のある言葉だった。
「行きたい!」
「じゃあ、決定だな! んじゃーまぁ、晴海は絶対堀越くんとだろ」
「え」
晴海がたちまち真っ赤になる。
「え、じゃねーだろ。ほれ、行った行った!」
純平は晴海を突き飛ばして翔希のほうへ無理やり行かせてしまった。
「えーっと……あと、どうするよ?」
残ったのは純平、美砂、花梨、ひとみの4人。
「そうだ。俺、残ってるからさ。女子3人で行っておいでよ」
すると、不服そうな表情をしたのは花梨だ。
「な、何? なんでそんな不満そうなんだ?」
「不満も不満よ~。せっかく皆で旅行に来てるのに、そんな一人だけ観覧車乗らないとか、つまんなくない?」
純平は思わず笑いそうになった。
「いや、そうかな? 俺、別にいいと思うけど」
「私もつまんないと思います!」
美砂が同意する。
「えー? じゃあどうすんだよ」
「私たちも乗るしかないじゃない」
「マジかよ! でも、メンバー分けどうすんだよ?」
「そんなの簡単よ。インジャンよ!」
美砂が腕まくりをして気合いを入れる。
「マジかよ!」
「文句言わない! さぁ、みんな気合い入れて……最初はグー、いんじゃんほい!」
美砂と花梨がグー、ひとみがチョキ、純平がパー。
「あいこでホイ!」
美砂と花梨がチョキ、ひとみと純平がグーになった。
「よぉし! これで決まり。それじゃ、このグループでね~」
決まるや否や、そそくさと観覧車に向かう美砂と花梨。
「なんだありゃ。アッサリしてるよなぁ」
何も知らない純平は、手を頭の後ろに当てながらハハッと笑った。
「……。」
「津田さん?」
「はっ、はい!」
一方のひとみは、気が気ではなかったのだ。何しろ、思い人の純平がいま、目の前にいて、しかも二人きりなのだ。さらにこの状態で、狭い密室状態の観覧車に今から乗るのだ。
(私……持つかな……)
「行こう? もう、全員行ったし」
「う、うん……」
先を歩く純平の後ろをゆっくりついていくひとみ。そんな彼女の胸の高鳴りなど、まったく気づくことなく純平はさきさき歩いていく。
そして、チケット売り場に来たときだった。
「高校生2人」
そう言って、チケット代をあっさり純平は二人分払ったのだ。
「はい。チケット」
「え? あ、お金だね」
「いいよ」
純平はそう言って財布を出そうとするひとみの手を遮った。
「え?」
「お金、いいよ。せっかくの記念だし、俺に出させて」
「でも……」
「はいはい! もういいじゃん! 乗ろう、乗ろう!」
そう言って純平は先に観覧車に乗り込んだ。
「んっ!」
次に乗ろうとするひとみに、手を差し伸べた。
「え?」
「んっ! 乗ろう!」
ひとみの顔が真っ赤になる。そして、小さくうなずいてから純平の手を握り、観覧車に乗った。
(大きい……)
小柄な体格ではある純平だが、意外にもその手はというと大きかったのだ。それだけで、ひとみはドキドキしてしまう。
「すっげぇ~。やっぱ、神戸って日本三大夜景のひとつだけあって、綺麗なんだな~」
ひとみの気持ちなどまったく知らずに、純平は一人楽しんでいる。
「あと二つって、函館と長崎だっけ。俺、まだどこも行ったことねぇな。長崎と函館も行きてー!」
「……。」
ようやくひとみの様子に気づいたのか、純平が心配そうに声を掛けてきた。
「津田さん? どした?」
「……。」
「ヤッホー? おーい」
純平がヒラヒラと手のひらをひとみの顔の前で振る。すると、ひとみがようやく口を開いた。
「あの……」
「ん? どした?」
次の瞬間、聞き間違いかと思うような言葉がひとみの口から出てきたのだ。
「純平くんは……好きな人、いますか?」
「へ?」
純平は呆気に取られる。しかし、ひとみの口からさらに衝撃的な言葉が出てきた。
「私……純平くんが、好きなんです」
頭が真っ白になる純平。観覧車には、夕陽が眩いほどに差し込んできていた。