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アンタでいいから行ってこい!  作者: 一奏懸命
第2章 分身&合体
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第33話 バトンタッチ!~南京町でタッチ!編~



「おっ、お待たせー!」

 晴海は緊張した面持ちで美砂たちのところへ駆け寄る。

「おっ? 思ったより早いじゃなーい」

 美砂が笑顔で出迎える。

「皆を待たせちゃ悪いじゃない? 神戸に来ていきなりお手洗いじゃちょっとねぇ」

 翔希がクスクスと笑う。

「まぁ確かにね。いきなりお手洗いなんて」

 花梨が苦笑いする。

「もう! それは言いっこなしよ。それより、そろそろアイツ来ると思うんだけど……」

「あ! もしかして純平くん!?」

 ひとみがソワソワし始める。

「そ! アイツがそろそろ合流してもいい頃なんだけど……」

 カチリと男子トイレにいる純平と目が合った晴海は「すぐ来い!」と目配せする。それに気づいた純平がトイレからすぐに出てくる。それから人ごみにまぎれて改札のほうに走り、さも今改札口から出てきた素振りで晴海たちに近づく。

「おーい! 晴海! 堀越くん!」

「あ」

 純平の姿に気づいた翔希が手を振る。

「来たよ、ひとみ!」

「う、うん」

 美砂の言葉に赤くなるひとみ。おそらく、この旅行で一気にひとみとの距離が縮まるだろうと予想してきた純平は、それなりの覚悟ができていた。

 できることなら、二人はここで正式に入れ替わってしまいたいと思っていた。ここ最近、晴海は自然な体勢で歩けるようにもなってきていた。先日は純平と一緒に映画を観に行ったほどだ。

 これなら大丈夫だろうということで、今回の旅行に踏み切ったのだ。

「三ノ宮駅と元町駅って、近いのね」

 花梨が驚いた様子で呟いた。

「そうね~」

「へ?」

 純平はついつい、晴海の口調で応答してしまった。それに驚いて花梨が目を丸くする。

「い、いや! 何でもない!」

「そう?」

(あぶねぇ……)

 純平は冷や汗を拭いながら、料金盤を見つめる。

「ここから大阪って、結構安くで行けるね」

「……。」

 ひとみの問いに、自分に聞かれていると思っていない晴海は思い切り彼女の言葉を聞き流していた。

「聞いてる? 晴海ちゃん」

「え!? あ、あぁそっか! うんそうだね~」

 晴海も慌ててなんとか答えを繕う。しかし、二人はまさかここまで自分たちの偽ってきた環境に慣れてしまっているとは思っても見なかったのだ。純平は既に晴海としての一個人の人格が形成されてしまっていて、晴海は晴海でまだ、ひとみや翔希との関係がうまく築き上げられていない。

 この不自然な状態をいかに解消するか。それが今回の旅の目的であった。

「とりあえず、あそこのシュウマイをあたし食べたい!」

 晴海は本来の自分らしさを出すために、真っ先に提案する。

「お! いいね! 俺も賛成!」

 純平も本来の感覚を戻すために積極的に話そうとしていた。

「うるさい! アンタはおまけなんだから、黙ってて!」

「ええええ!?」

 二人のやり取りに翔希とひとみが笑い出した。

 結局、晴海のごり押しでシュウマイを食べることになった6人。

「ねぇ」

 周囲にばれないように、晴海がこっそり純平に話しかける。

「ん?」

「不自然ではないわよね?」

「お前の現時点での行動?」

「そ」

「大丈夫だよ」

 純平が笑う。

「そのまま、素で行けば今のところ問題ないし」

「よかった……」

「ね!」

 突然ひとみが話し掛けてきた。

「晴海ちゃん!」

「うん?」

 純平が思わず反応してしまう。ひとみが驚いて純平のほうを見ている。

「バカ! 誰がアンタを呼んだのよ!」

 ギャグっぽく晴海がカバーする。先ほどからこんなことの繰り返しで、いつかバレてしまうのではないかとヒヤヒヤしていた。

「痛いなぁ~。何も頭叩くこたぁねーだろ」

「うるさい! ほら、水がないわよ! 汲んできなさいよ、おまけ!」

「チェッ。バーカ!」

 純平はブツブツ言いながら席を立って、水を人数分注ぎに行った。

「ところで何? ひとみちゃん」

「あぁ、うん! ほらさ、こないだの映画、よかったよね~! 私、思い出して今でも感激しちゃいそうで」

(こ、こないだの映画……!?)

 晴海にはまったく心当たりがない。晴海が最近観に行った映画といえば、純平といった『ごくせん THE MOVIE』くらいのものである。

「あ、ああー! そうね!」

 晴海は焦りながらも純平のほうを見る。しかし、事態に当然ながら気づいていない純平は相変わらずブツブツ文句を言いながら水をコップに注いでいる。

(バカ! 気づきなさいよね~! ぬお~!)

 怒りの視線を純平にぶつけるが、彼はまったく気づく素振りを見せない。

「ねぇ! 晴海ちゃんはあの出演者だったら、誰が好き!?」

「え! あ、あたしは~……」

 ごくせんで出てきた俳優・女優を思い返してみる。仲間由紀恵、亀梨和也、賀来賢人、入江甚儀、森崎ウィンなど。しかし、下手にその名前を口にしてまったく違う映画であったらそれこそ致命的だった。

 ここはギャグっぽく交わすために、翔希の名前を口にするのもアリだろうかと一瞬、晴海は考えた。しかし、万が一失敗して空気が凍りついた時のことを考えると、それはそれでいたたまれなかった。

「あたしは~……」

 その時だった。

「お待たせ~」

 知ってか知らずか、まるで狙ったように純平が戻ってきた。

「何の話?」

「あ! この間ね、晴海ちゃんと映画を観に行ったんだけど、そのときの話!」

「へー! 何の映画?」

「『ROOKIES-卒業-』なの!」

 そのタイミングで上手く純平が話を持って行く。寸前のところで話し手が純平にバトンタッチされた形だ。

 和気あいあいと話を進める純平とひとみ。それを見た晴海がなんとなく疎外感を覚えて立ち上がった。

「晴海?」

 美砂が不思議そうに晴海の名前を呼んだ。

「あたし……お手洗い行ってくるね」

「え? あぁ、うん……」

 そのまま晴海が走り去っていく。翔希たちは目を点にしたまま、晴海の背中を見送ることしかできなかった。

(しょうがねぇなぁ)

 純平は大きくため息を漏らし、立ち上がった。

「え? 純平くん?」

「アイツ、最近情緒不安定なんだよ」

「そうなの?」

「誰かさんのせいでね!」

 彼のせいではないが、翔希を見て純平はニヤリと笑った後、晴海の後を追って行った。








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