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アンタでいいから行ってこい!  作者: 一奏懸命
第2章 分身&合体
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第29話 二人の想い~ひとみ編~


「ゴメーン! 津田さん! 遅れた……」

 純平は息を荒くしてひとみのところへ駆け寄る。

「う、ううん! 大丈夫。私もまだ来てからそんなに時間経ってないから」

「……。」

 純平は赤くなってひとみの顔を見つめた。

「どうかしたの?」

「う、ううん」

 素直に言葉が出た。

「彼氏と彼女っぽいな……と思って」

 ボッ!という効果音が聞こえてきそうなほど、ひとみの顔があっという間に赤くなった。遠くからその様子を見守っていた晴海も「アイツ、初心(うぶ)だから逆にそれが仇になるかもしれないのよね……」と呟く。

「ご、ごめん! 変なこと言った」

「ううん! 気にしないで」

 妙な沈黙が続く。晴海はアドバイスをしたくなったが、さすがに弟とはいえ、彼らのデートにまで口出しをするべきではないと思い、踏みとどまった。

「あ、あのね!」

 ひとみが園内マップを取り出した。

「ん?」

「私、これに乗ってみたいの」

「どれ?」

 そう言って彼女が取り出したマップを見た。彼女の指差す場所。それは先ほど翔希と乗ったばかりの「ROCK YOU」だった。

「こ、これ!?」

「あ……もしかして絶叫系、苦手?」

「いや! そんなことないない! 行こうぜ!」

「うん!」

 純平は自然な笑顔を振りまき、ROCK YOUの乗り場へと向かう。

(うっ……! いる……)

 そこには翔希がやはりいた。トイレから出てくるはずの純平(はるみ)を待っているのだ。しかし、その純平(はるみ)はこれ以上ないというほどに近い距離になっていた。

(バレないでしょうね……)

 これにはさすがの晴海もドキドキものだ。

「ねぇ、高垣くん」

「ん!?」

「すごい汗だよ? やっぱり、やめとく?」

(違う~……違う汗なんだよ、津田さん……)

「ううん! 大丈夫大丈夫! ほら、今日ちょっと暑いじゃん!?」

「あぁ……そうね! でも、顔は全然汗かいてないのに手がスゴいから、心配になっちゃって」

「大丈夫! ノープロブレム!」

「ならよかった」

 どんどん列が進んでいく。進むに連れて、ひとみ&純平と翔希の距離が縮まっていく。それに比例して、まるで純平の寿命も縮みそうなほど、心臓が鳴っていた。

 さらに心臓が飛び跳ねそうな言葉を、ひとみが言った。

「あ……あそこにいるの、堀越くん……?」

「えっ!?」

 ついにひとみの視界に入らんばかりの距離まで近づいてきたことを知らされ、純平の鼓動が速くなり、汗の量が増していく。

「あ、そうか。高垣くんは知らないよね。彼ね、晴海ちゃんの通う星蘭女子高の姉妹校みたいな感じの、星蘭男子高に通う堀越翔希くん。彼ね、晴海ちゃんのこと好きだから、アタックしてるんだよ? 知ってた?」

「そ、そうなんだー」

 とてもマヌケな応答をしてしまった。頭の中で、何とかこの非常事態を回避しようと純平は少ない知恵を振り絞って考えていたのだ。

 一方、焦りまくっている純平と何も知らないひとみが近づいていることなどひとつも知らない翔希は、なかなかトイレから出てこない晴海もとい純平を心配していた。

「体調崩したのかな……」

 携帯を取り出し、翔希は純平(はるみ)に発信した。

 翔希から5メートルほど離れた場所で、純平の携帯電話が震え始めた。

(うっ!)

 翔希からの電話だった。これをひとみに見られたり聞かれたりすればマズいことこの上ない。

「どうしたの? 電話?」

「うっ、うん!」

 危うくディスプレイを見られるところだったが、ギリギリで画面を隠すことに成功した。

「おうちから?」

「そ! 晴海から」

「出たほうがいいよ。私、そのまま並んでるし何だったらそこで出たら? おうちのことなら私、聞かないほうがいいかもしれないし」

「いい? ゴメンな」

「ううん。慌てなくていいから」

「ありがと!」

 純平はとても気遣いのできるひとみに感謝しながら、電話に出た。

「もしもし!」

 もちろん、声のトーンは上げている。晴海用の声だ。

「もしもし? 晴海さん?」

「うん! どうしたの~?」

「大丈夫? 体調」

「あ、あぁ! うん! ゴメンね、待たせちゃって」

「体調悪いわけではないんだよね?」

「うん!」

 その時、ROCK YOUに乗った女性客の「キャー!」という叫び声が聞こえてきた。もちろん、翔希の電話からも聞こえるのだが、なんと翔希には純平(はるみ)の携帯電話からも同じ声が同じタイミングで聞こえてきたのだ。

「晴海さん。いま、どこ?」

「え!? ト、トイレだけど?」

「本当?」

「う、うん!」

 純平は茂みに隠れている晴海に向かって指差した。

「な、何!?」

 それに気づいた晴海が立ち上がる。

(トイレ行って!)

「!?」

(ト・イ・レ!)

「あ! トイレ行けって!?」

 純平が大きくうなずく。晴海は慌てて翔希やひとみの視界に入っていないかどうかを確認しながら、トイレに向かった。

 晴海がトイレに行ったのを確認すると同時にひとみが顔を出した。

「どうしたの? 何か急用?」

「!」

 ひとみの声が入ってはマズいと思った純平は慌てて電話を切った。

「あ……? 切れた?」

 翔希は心配になってトイレのほうを覗き込んだ。すると、晴海が恥ずかしそうに手を振っている。

「あぁ、なんだ。やっぱりトイレだったのか」

 翔希は安心した表情を浮かべた。

「大丈夫だよ! 全然急用じゃない」

「本当?」

「あぁ」

 しかし、そう言ってもひとみの顔は不安そうだ。

「どうかした?」

「……高垣くん、今日来るの、いやだった?」

「なんで!?」

 純平は泣きそうな顔をしたひとみを見て、慌てふためく。

「だって……なんだか、落ち着かない様子でキョロキョロしてるし……。私と一緒にいるのを見られたりしたら、嫌なのかな……とか思って」

「ぜっ、全然そんなことねぇよ!」

 大声を出した純平に視線が集まる。

「むしろ……俺なんかを誘ってくれて、嬉しいし」

「えっ……!」

 ひとみの顔が赤くなる。

「と、とりあえず列、もう一回並ぼう! 絶対ROCK YOU乗るぜ!」

「……うん!」

 ひとみが笑顔で純平の隣に立った。

「ん」

 純平が手を差し出す。

「?」

 ひとみはわかっていないようで、首を傾げる。純平は無理やりひとみの手を握った。

「こうだろ!」

「……う、うん!」

 その光景を見ていた晴海は、意外と大胆な行動を取る弟に驚いていた。

「やるじゃん、純平!」

 2人がROCK YOUに向かったのを確認すると、晴海は急いでお手洗いの個室に入った。そして急いで先ほどまで純平が着ていた服に着替える。

「……大丈夫」

 晴海はそう呟く。

「大丈夫! 脚は痛くない! あたしは晴海!」

 そう言ってゆっくりとトイレから出ると、翔希の方へと向かって歩き始めた。







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