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アンタでいいから行ってこい!  作者: 一奏懸命
第1章 アンタでいいから行ってこい!
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第22話 何してんの?

「た……かが……きさん?」

「……。」

 純平は血の気が引いていくのがわかった。潤は潤で、呆然と純平のほうを見ている。

「な、何してんの?」

「え……っと、お手洗い?」

「ここ……男子トイレだけど?」

「えーっとぉ……」

 答えが出てこない。間違えたことにしようにも、明らかに男子トイレと女子トイレの違いはわかるような作りになっている。窓ガラスが男子は青く、女子はピンク色になっているのだ。もちろん、ホテルの壁とに違和感はないように設定されているが。

「あの……これには並々ならぬ事情がありまして」

「事情?」

 純平は悩みに悩んだ。ここでそれらしい理由をつけることも可能だ。しかし、なんだかそれを言うには晴海に申し訳ないような、後ろ髪を引かれる感覚もあるのが正直なところだ。

「えっと……」

(ゴメン! 晴海!)

 純平は顔を真っ赤にしながら潤の耳元で囁いた。

「その……お通じあって、翔希くんに知られたくなかったから……」

「!」

 潤の顔も赤くなる。

「ゴ、ゴメン……なんか……」

「そ、それで、慌ててたから入るの、間違えたみたいで……」

「そっか! ゴメン、俺こそ。ちょっとビックリしちゃって」

「そうよね! ふつう、ビックリするよねぇ!」

「アハハハ!」

「アハハ!」

 しばらく笑い合ったあと、純平は用事を思い出した。

「あ! ゴメン。私、翔希くんにお水買っていってあげなきゃいけなかったの。ちょっと、自販機コーナー行ってくるね」

「あ、俺もついていくよ?」

 潤が後を追おうとした。

「大丈夫よ。別に夜道じゃないし、いざとなれば私、自分でなんとかするくらいのパワーあるしね!」

「そう?」

「うん!」

「じゃあ……ま、気をつけてね!」

「うん!」

 純平は潤と別れた後、テクテクと歩きながら自販機コーナーへ向かった。

「えーっと……南アルプスの天然水でいっか」

 150円とホテル内の自販機だけあって、割高だ。ゴトン!と音がして商品が出てくる。

「けっこう冷えてる。ちょうどいいや、俺の分も買っていこうっと」

「何してんの?」

「え、あぁ。いま自販機で水買ってるの。見てわかるでしょ……」

 純平はてっきり潤だと思ってそう答えたが、声が違うことに気づいて振り向いた。振り向くと、翔希でも和彦でも拓実でも爽太郎でもない男性が立っていた。

「……!」

 あからさまに警戒する純平に気づいたのか、男性はニコッと微笑む。

「怪しい者じゃないよ。この階に泊まってるんだけど」

「あぁ……そうなんですか」

 ひょっとして自販機に用だろうか。そう思って純平は立ち上がって「どうぞ」と男性に場所を譲った。

「ううん、自販機に用はないんだ」

「……。」

「あ、君の反応のとおりだよ。僕、君に用があるんだ」

「……あたしは別にないんですけど」

 純平はそう言って部屋へ戻ろうとした。

「まぁまぁ、そう言わずにさぁ。ちょっと、俺と一緒にどっか行かない?」

「行きません。すいません、友達待ってるので行きますね」

 しかし、男は放そうとしない。

「放してください」

「無理」

「なんでですか。迷惑なんですけど」

「俺は全然迷惑じゃないからね〜」

「放してって……! ちょ、やめてってば!」

 変な体勢なのでうまく力が入らず、身長差もだいぶあるので純平は振り払えないまま引きずられる形でグイグイ男の部屋のほうへ引っ張られていった。

「う……」

 ここで男丸出しになってもいいのだが、その後の展開を考えると恐ろしくてそれはできなかった。かといって、この男をここで振り払える自信もない。ひとまず、このまましたがっていくしかないだろうと判断した純平はおとなしくついていくことにした。

「……。」

「ま、そんな緊張しなくてもいいじゃん」

 なぜか部屋のベッドに座らされた純平。男と向き合う形で座っている。

「君、名前何て言うの?」

「高垣です」

「下の名前は?」

(うぜぇ〜……)

 純平は心の中で舌打ちをしつつ、なるべく笑顔で答える。

「晴海です。晴れるに海って書きます」

「いい名前だね」

「そうですね……。自分でも気に入ってます」

「あ、そうだ。飲み物用意するよ」

 男は立ち上がり、冷蔵庫から飲み物を取り出した。それからコップに注いでくれている。

「あ、いいですよそのままで」

「せっかくコップあるんだし、使おう。はい、これ君の分」

「はぁ……」

 純平は言われるがまま、注がれたコップを手にした。

「じゃ、俺と君との出会いにカンパーイ!」

「……乾杯」

 冷めた声で純平はそう答え、グッと注がれたそれを飲んだ。

 炭酸らしい味が喉を通って、渇いていた喉が一気に潤うような感じになった。


「……へ?」

 気づくと、男が純平に馬乗りになるような状態だ。服を脱がされ、今にも体が露わになろうとしていた。

「……!?」

 純平は妙に火照った体を懸命に動かし、抵抗の第一声を上げた。

「だれかぁ! 来てぇ!」

「静かにしろ!」

「フグッ……ウググググウウウ!」

 なぜこんなに体が火照るのか。力が入らないのか。純平は薄れそうになる意識の中、聴き覚えのある声が聞こえたような気がした。






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