第20話 うっかりしてた
「あぁ〜! 美味しかった!」
夕食を終えた純平たちは満足そうにレストランから出てきた。
「あたし、本格イタリアンなんか初めてだよ〜」
美砂が興奮した様子で一人はしゃいでいる。
「ねぇ、やっぱり花梨はこういう料理、頻繁に食べるわけ?」
絵磨が花梨に聞いた。
「やだ。私、そんな頻繁に食べるほど金持ちじゃないわよ」
「でも、中流家庭じゃないわよね、あなたの家」
絵磨の言葉に全員の視線が花梨に集中する。
「ちょっと……もぉ! 絵磨! ここでそういう話はナシ!」
「えぇ〜? 実際どうなのか気になるところね。ねぇ、晴海」
美砂が話を振ってきた。
「え、えぇ? あ、あたし?」
「そうよ〜。花梨ちゃん、あたしらからしてみればかなり理想の雰囲気持ってるわよね?」
「え、えーと……」
どうなんだろう、と答えようとした瞬間、思い切り腕を美砂につねられた。
「痛った……! え?」
「ここで花梨を持ち上げとくの!」
「なんでそんなことする必要あんの?」
「いいから!」
「そうだね〜! 私から見ても、花梨ちゃんってステキだわ!」
「またまたぁ〜。私、そんなキャラじゃないって」
花梨は本気で照れているようだ。
「実際、どうなの絵磨ちゃん」
「あ、あたし?」
「うん。花梨ちゃんの家、行ったことあるでしょ?」
「あ〜……まぁ、あの門構えだと金持ちっぽいわね」
「もう! 絵磨ったらぁ」
「ねぇ」
純平はさり気なく言ってみた。
「私ね、今度みんなの家に行ってみたいの」
「あ、いいねぇ!」
美砂もその提案に乗る。
「ひとみちゃんはどうよ?」
「わ、私?」
「せっかく仲良くなったし、一度みんなの家行ってみたいわ〜」
「ウチは別に構わないけど……」
「絵磨ちゃん家は?」
「よし! 決まりね。ひとまず、第1回は花梨ちゃん家でどうよ?」
「えぇ!? いきなりウチ!?」
「いいじゃない! ね、お願〜い!」
「しょ、しょうがないなぁ……」
えらくアッサリと花梨は折れてしまった。その後もひとみや絵磨とどんな部屋なのか、どんな庭なのかなど質問攻めを喰らっている横で、美砂が呟いた。
「ありがと! 1回、金持ちの家行ってみたかったんだ〜」
「下心丸出しだね」
「言うことキツーい!」
バシン!と美砂が純平の背中を叩いた。
「あ、そうだ!」
爽太郎が大声を上げた。
「なんだよ、ソウ」
「風呂上りにさ、ホテルの前で花火しない?」
「えぇ? もう花火?」
ひとみが目を丸くした。
「僕、準備してきてるんだ。市販ので悪いんだけど……」
「いいじゃない? ちょっと季節感先取りで」
花梨が嬉しそうに笑う。
「ほ、ほんと!?」
「うん! みんなはどう?」
「私は賛成!」
真っ先に純平が手を挙げた。
「あたしも!」
美砂、ひとみ、絵磨が続く。もちろん、男性陣は全員一致で可決された。
「それじゃあ」
次の瞬間、翔希の言葉を聞いて純平は固まった。
「風呂に入ってからだから、9時に玄関集合!」
「……あ!」
思わず大声が出た。美砂を除く全員が純平を見つめる。
「どうかした?」
「あっ、いや……別に」
「そう? じゃあ、皆で風呂行こうか」
ゾロゾロと廊下を歩く一行。その最後尾でヒソヒソと純平と美砂が話をする。
「どうすんの!?」
「そりゃ俺が聞きたい! 一人だけ入らないとか怪しまれる!」
「だからって、男が女湯入ったら犯罪よ!? どうやって入るのよ? 胸の膨らみ、いまだにボールでごまかしてるんでしょ!?」
「じゃあ何か風呂に入れない理由考えてくれよ!」
「……しょうがないな。自然な流れだとコレしかないけど……」
ヒソヒソと美砂が純平に耳打ちした。
「はぁ!?」
「ちょっと! 大声出さないで!」
「だ、だって……んなこと恥ずかしくて言えるかよ!?」
「恥ずかしがってる場合じゃないでしょ!? 言いなさいよ、これぐらい!」
「堀越にも!?」
「男子には普通言わないよ! 体調が悪いって言っときな!」
「じゃあ他の女子のもお前からそう言っといてよ」
「しょうがないなぁ……。じゃ、堀越くんはアンタに任せるよ」
そう言うと美砂は前にいるひとみたちに今の事情を説明しに行った。
「恥ずかしいなぁ……。でも、女子っていろいろ大変だな……」
純平はフゥッとため息をついた。
翔希と並んで部屋に入る前に、純平はコッソリ翔希に話した。
「あの……あたし、お風呂入らない」
「え?」
翔希が驚いた顔をした。
「あたしね……いま、アレなの」
「……あ、あぁ〜」
わかってるのかわかってないのか、翔希は困った顔で返事をする。そりゃそうだろう。
「そ、それじゃしょうがないよ」
「ゴメンね?」
「謝ることじゃないよ」
そういうと、翔希はそそくさと先に部屋へ入ってしまう。その後も、会話らしい会話が生まれなかった。
「じゃ、ゆっくり休んでてね」
「ありがとう……」
そういうと翔希は静かに部屋を出て行った。
「……あ〜ぁ」
純平もため息が出る。
「もし……男で会ってても、堀越と仲良くなれてたかなぁ〜」
翔希だけではない。ひとみ、絵磨、花梨、美砂。男で出会っていたら、また関係が変わっていたのだろうか。
「出会いって……不思議だなぁ」
北海道の空気は綺麗なせいか、月がいやに綺麗に見えた夜だった。