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アンタでいいから行ってこい!  作者: 一奏懸命
第1章 アンタでいいから行ってこい!
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第19話 なんとか避けて!

「うわぁ……!」

 ホテルの前に着いた瞬間、純平たちは同時に声を上げた。

「なにコレ……」

 ひとみが目を丸くしている。

「これ、普通高校生が泊まれるホテルじゃないよ?」

 美砂も呆然としている。純平も花梨も言葉が全然出ないようだ。

「つーか、入口どこだよ」

 翔希がキョロキョロと辺りを見渡す。あまりに植え込みの背が高すぎて、玄関が見えていないのだ。

「この植え込み迷路になってる!」

「ウソ!?」

 絵磨が花梨の声に反応して植え込みが途切れている部分に走り寄った。

「ちょ……これ……」

 表記を見ると「右ないし左、お好きなほうへお進みください」と書かれている。

「なんだろ」

「変なホテルよね。どうする?」

「うーん……」

 悩みに悩んだ10人は結局、右へ進むのは純平、翔希、美砂、拓実。左へ進むのは絵磨、潤、花梨、爽太郎、ひとみ、和彦の6人。

「これ、出口なかったりして」

 突然翔希が言った。

「やだ……ちょっとやめてよ、そういうの」

 美砂が苦笑いする。実は、美砂は怪談のようなものが大の苦手なのだ。

「冗談だよ、冗談」

 しかし、そう言いながら笑う一行の目の前にまたしても分かれ道が現れた。

「……。」

「どうする?」

 さらに、純平×翔希と美砂×拓実という組み合わせに必然的に別れてしまった。すると、別れると同時に翔希が喋らなくなってしまったのだ。

(どうしたんだろ……。緊張してんのかな?)

 純平は心配そうに翔希の顔を覗きこむ。しかし、背が高い翔希(なんせ、185センチだ)の顔は背があまり高くない純平にとって、なかなかその顔は見づらいものがある。

「あのさ……」

 突然、翔希が沈黙を破った。

「なに?」

「俺、は……高垣さんに」

「晴海でいいよ」

 翔希が少し嬉しそうに笑った。

「晴海さんに、黙ってたことがある」

「なに?」

「俺さ……」

 翔希は手を繋いだ。

「俺の父さん、このホテルの系列の社長なんだ」

「……まっ、またまたぁ!」

 純平はバシバシと翔希の背中を叩いた。

「いや、マジで」

「……あ、あはは……」


 そして今。

 チェックインを済ませて純平は自分のいる部屋の状況に冷や汗を流していた。

(ツインじゃん……)

 そう。部屋はツインだったのだ。純平としてはてっきり、女子と男子で分かれてワイワイやるのかと思っていたのだ(それでも純平は困るのが本音だけれども)。

 ベッドを見る。ひとつのベッドに、枕が二つ。

(マジかよ〜!? ここ、ラブホテル!?)

 冷や汗が止まらない。

「もしかして……仕組まれた!?」

「ゴメンね」

 思わず声に出ていたことに驚いたのは他でもない、純平だった。

「俺さ……晴海さんと、二人で旅行にどうしても行きたくって……ズルいと思われるかもしれないけど、この旅行に行けるように……仕組んでもらった」

「……。」

 純平はある程度予想できていた。男って、そんなもんだろうと。

「怒った?」

 純平はしばらく考えた。晴海はここで怒るだろうか? 翔希の顔を見ると、それほどやましい雰囲気は感じられない。このような場面にしたのだから、多少の下心はあったのだろうけれども、そこまで問題視することでもないだろう。

「全然。むしろ、北海道旅行来れたこと嬉しく思っ……」

 言い終わる前に、気づけば押し倒されていた。

「!?」

「好きなんだ……君の事、本気で」

「ちょ、ほ、堀越くん!?」

 純平にもちろん、そういう趣味はない。これは少女マンガの世界だろう。晴海ならキャアキャア叫んで大騒ぎしそうだが、冗談じゃない。男同士でこんなシーンはゴメンだ。

「……!」

 声にならない感覚が来る。翔希の大きな手が、純平の首筋を這っているのだ。

(こ、これはリアルにヤバイ〜!)

「ちょっと待って〜!」

 純平は思わず翔希を突き飛ばした。

「は、晴海さん!?」

「ご、ごめん……! あの……」

 弁解しきれず、何も言えないまま外へ飛び出した。そして大慌てでケータイをかける。

「もしもし?」

 もちろん、掛けたのは晴海のケータイだ。

「もしもし! 俺、純平!」

「あぁ、純平? 楽しんでる〜?」

「楽しんでねーよ! ヤバいことになってて……」

 純平はひととおりの流れを説明した。

「はぁ!? そ、そんな展開になってんの!?」

「どーすんだよ! 俺、男だっつの!」

「それはさすがにマズいわね……。でも、ダブルベッドってそういう展開狙ってるわよね……」

「だろ!?」

「と、とにかく! 戻らないと怪しまれるし、そういう雰囲気に持って行かないようにして!」

「それで……姉ちゃんはいいのか?」

 しばらく間が空いた。

「しょうがないでしょ」

 晴海の声が優しくなる。

「いくらアンタに行けってあたしが言ったにしても、そこまでしろって言えないでしょ……」

「……。」

「とにかく、そういう場面は避けてね! 頑張れ、弟!」

 そういうと晴海は電話を切った。純平はしばらく携帯を見つめてから、ため息をついて部屋へ戻った。

「あーぁ……。まさかこんな展開になるとはなぁ」

 晴海も部屋でため息を漏らしていた。ギプスで固められた脚を見つめる。

「早く治んないかな……」

 外では少しずつ、夏の気配が感じ取れるようになってきていた。





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