第17話 最後の一発
「それでは、本日の出演団体最後となります、チーム星蘭の皆さんです、どうぞー!」
司会の声にあわせて純平、絵磨、花梨、ひとみ、美砂の順番で入っていく。ひとみの気合いが異常に入った衣装に一同はちょっと引いたのだが、それは客席でも同様であった。やはり、ピンクのフリフリスカートというのは今時いただけないであろう。
「え〜、それでは歌っていただきましょう。HYでドラマと映画『赤い糸』の主題歌でもありました、『366日』です」
まず、純平が綺麗な音色をピアノから奏でる。その印象的な音色に客席は全員「ほぅ……」というような息を漏らした。
続いて、絵磨が低音を効かせた声をマイク無しで響かせ始めた。絵磨はどちらかといえばアルトの声域だから、無理なく低音を出せる。
やがて、花梨と美砂が加わり見事な三重唱になった。三人のハーモニーに魅了された観客たちはただ、無言でその合唱に聞き惚れていた。しかし、やがて当然のことながらその事実に気づく。
「ねぇ、あの子歌ってなくない?」
そう観客の一人が指摘したのは、ひとみだった。そう、さっきからひとみは全然歌っていないのだ。
「どういうつもりなんだろな」
「立ってるだけなわけ……ないよね」
しかし、いくら進んでもひとみが歌う素振りはなかった。
「どういうつもりなのかしら……」
心配になって変装して見に来た晴海も思わずフードから顔を出して様子を見てしまう。けれども、進めど進めどひとみはいつまでたっても歌わない。そしてとうとうラストスパートに差し掛かったときだった。この歌で最も安定した高音を求められる場所で、ひとみお得意の超高音が出たのだ。
「……!」
観客の目が丸くなる。純平も予想以上の音の伸びに思わずひとみに目が行ってしまった。しかし、最後の伴奏は純平にかかっていた。不安定にならないようにし、なんとか弾き切った。ピアノの音が終わると同時に、大きな拍手が沸く。
「成功ね」
そう言いたそうな花梨が、純平に向かって笑った。
「それでは、結果発表です」
司会者が元気よく結果発表を始めた。ちなみにこのコンテスト、北海道旅行が優勝者には与えられる。
「まず、第3位!」
20団体も出ていて、3位以上に食い込もうと思えば相当な力が必要だろうと純平たちは読んでいた。なので、あまり入賞は期待していないというのが本音だ。
「華岩女子大学コーラス団です!」
「プロじゃないのほとんど」
不服そうに花梨が呟く。
「それでは第2位です!」
わざとらしいスネアドラムの音。
「第2位は……男声合唱団、アモローゾです!」
ウオオオッと男らしい声が響き渡る。
「もう! またぁ!?」
これにはさすがに美砂も頬を膨らませた。
「これってさぁ、やっぱり上手い人ばっかりが選ばれるようになってるんじゃないの」
純平もさすがにそう言わずにはいられなかった。しかし、ひとみだけは目をキラキラさせている。
「わっかんないよ〜! これから、これから!」
「まさか……」
絵磨が自虐気味に笑う。それとは正反対に、司会者がとびきり明るい声で第1位の発表を始めた。
「それでは、第1位です!」
先ほどの言葉とは裏腹に、ついつい期待してしまう自分がいる。それにまた自虐気味に笑う自分がいて、なんとも複雑な気分になってしまう純平たち。
「第1位は……!」
思わず身を乗り出してしまう。
「チーム」
「来た!?」
「星蘭」
「来たぁ!?」
「男子高校です!」
「……は?」
思わず拍子抜けになって純平たちは崩れ落ちた。そして呼ばれて出てきたのは、なんと翔希たち。
「ほっ、堀越くん!?」
純平が思わず声を上げると、翔希はニコッと笑って手を振ってきた。
「やだ! 出てたんだ……」
ひとみと美砂が思わず黄色い声を上げた。
そして、受賞を終えた翔希たちはまっすぐ純平たちの元へ向かってくる。
「こっち来るよ!?」
絵磨が警戒し気味に純平の服を引っ張った。
「高垣さん」
「はっ、はい!」
「これ……」
「は、はい!」
「一緒に行きませんか? 皆で」
純平の思考回路が完全に停止した。