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アンタでいいから行ってこい!  作者: 一奏懸命
第1章 アンタでいいから行ってこい!
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第16話 チーム星蘭の作戦

「あれ?」

 ピアノの音に思わず花梨は足を止めた。放課後の音楽室。今日は合唱部も吹奏楽部も休みのはずなのに、綺麗なピアノの音色が聞こえてくるのだ。

「ステキ……。こんなに綺麗なピアノ弾く人いるんだ」

 花梨は音楽室のほうへと足を向けていた。こっそり音楽室のドアを開けて誰が引いているのかを確認しようとした。しかし、ピアノはちょうど弾いている人が隠れる形で置かれていたので、花梨の位置からは誰なのかを確認できない。

「うーん……! 見えない……」

 先輩であるにしても、同級生であるにしても花梨はどうやったらそんな風にピアノが弾けるのかを聞きたくて仕方がなかった。花梨は思い切ってドアをノックした。

「あ、あの!」

 ピアノの音が止んだ。

「私、1年生の渡辺 花梨と申します! あの……」

「はい?」

 声に反応して純平は入口のほうへと顔を出した。

「あっ!」

「なんだ、渡辺さんじゃん」

 花梨は呆然とした表情になった。

「どしたの?」

「今のピアノ……あなたが?」

「うん! そうだよ。あたしね、一時期ピアノやってたんだけど最近遠ざかってて……。でも、ひとみちゃんがコンサート出ようって言ったでしょ? HYの『366日』ってちょうどピアノが綺麗な曲だから、あたし歌ヘタだしピアノやろうかなって思って」

「へぇ〜……」

 花梨は楽しそうに話す純平をジッと見つめた。

「ねぇ、そう言えばさ」

「何?」

「私たちって、こうしてゆっくり話すのは初めてだよね」

 花梨の言葉に純平もそういえばそうだ、と思い返していた。

「最初はゴメンね。私、なんか食って掛かるような言い方ばっかりしてて」

「やだなぁ! 別にあたしそんなに気にしてないからさ。軽く流してよ」

「……ありがと」

 花梨はホッとした様子を見せた。

「ねぇ!」

 純平はちょっと気になることがあったので、花梨に思い切って聞いてみた。

「なんでさ、あたしにそんな敵意むき出しだったの?」

「え!?」

「ちょっと気になってさぁ」

「そ……そこ聞いちゃうかぁ」

 花梨は苦笑いした。しかし、純平にはずっと疑問だったことだ。そんなに敵意を抱かれるようなことをした覚えはない。

「ま……なんていうか、高垣さんって何でもできるじゃない? 勉強できるし、体育できるし、音楽だって」

「ま、まぁ……」

 実際、勉強はダメダメだと自分で感じている純平は少し、花梨の言葉に後ろめたさを感じた。

「なんていうか、私の理想なんだよね〜」

「……ひょっとしてラヴとか〜?」

 突然割り込んできた美砂とひとみに二人は目を丸くした。

「やっ、やだぁ! どっから聞いてたの!?」

 花梨は顔を真っ赤にした。美砂はニヤニヤ笑いながら「えへへ〜、ゴメンね! 最初から!」と言った。

「もうやだぁ!」

 花梨は顔を隠す。

「まぁまぁ! それより、今から練習練習!」

 美砂、花梨、絵磨、ひとみが並ぶ。4重唱だ。伴奏はもちろん純平。純平の伴奏を合図に、タイミングを見計らって全員が息を吸って歌い始める。

「ちょ、ちょっとちょっとストップ!」

 純平が思わずストップをかける。

「何〜? 調子よく歌い出したのに」

「それが大問題! 誰かとんでもない音痴がいる!」

「ウソ?」

「ウソなんか言うハズないでしょ。はい、一人ずつ!」

 純平は自分が下手なのを棚に上げて全員にそう言った。

「はい! 渡辺さんから!」

「えぇ!? わ、私?」

「右から順番に! はい!」

 仕方なく花梨は歌声を披露した。涼やかな声が音楽室に響き渡る。

「はぁ〜……!」

「……どう?」

「文句なしだね! すっごいよぉ」

 美砂と純平は思わず拍手をした。

「はい、じゃあ次。美砂ちゃん」

「はぁい! ンンッ……ンン!」

 美砂は気合を入れた表情で歌声を披露した。花梨ほどではないが、安定した歌声。純平は自分もこれくらい歌声が綺麗だったらいいのに……と思った。

「次〜、絵磨ちゃんお願い!」

「はい」

 絵磨は淡々と歌を歌う。

「スッゴいボリューム! その音量いいわ」

 花梨と美砂も拍手をしている。そしてラスト、ひとみの番がやって来た。

「はい! ひとみちゃん」

「任せて! 私、歌は大好きだから」

 そう言って息を大きく吸って歌い出したひとみ。しかし、そこから飛び出した歌声はまるで黒板を爪で引っ掻いたかのような異常な高音だった。

「やだぁ〜!」

 美砂と花梨は思わず耳を塞ぐ。絵磨に至っては隣でその音をマトモに聞いたせいか、卒倒してしまった。

「ちょ、ストーップ!」

 純平はたまらずひとみの口を強引に塞いだ。

「やふぁ〜! せっかく気持ちよふうはってるのひぃ〜」

「その音! いったいどこから出るの!?」

「え? やだ、そんなにいい? ならもう一回披露しちゃう!」

「ダッ、ダメェ!」

 純平が止めるのも空しく、ひとみは殺人的高音をもう一度発した。


 練習後、ひとみが上機嫌で帰ったのだが、すっかり疲弊した4人はゲッソリした様子で椅子に座っていた。

「どーすんの、あれ……」

 美砂が背もたれに体を預けたまま呟く。

「とりあえず、あのまま出場したんじゃ観客や他の出場者に犠牲者が出る可能性が……」

 絵磨は息を荒くしながらも、なんとかそう言った。

「でも、本人が一番張り切ってるっていう……」

「……待って」

 純平は思いついた。ある意味、反則ともいえる考えではあったが、勝つためには逆にひとみのあの異常高音を使わない手はないと思ったのだ。

「いい、みんな。ちょっと聞いて……」

 純平の提案を全員が聞いてから、思わず顔色が悪くなった。

「それって反則じゃあ……」

 美砂が不安そうな顔をする。

「しょうがないよ。逆手を取ってってことで……」

「しょうがないわね」

 全員が一様にうなずく。そしてチーム星蘭(仮)の作戦は決定した。






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