第15話 姉の応援
「っていうわけなんだけど……」
純平は帰宅するなり落ち込んだ様子で晴海の部屋にやって来た。沈んだ様子で事情を説明してきた。
結局、今回のフレッシュコンサートには純平、ひとみ、美砂、渡辺 花梨、そして花梨の友人である竹園 絵磨の5人という妙な組み合わせで出る羽目になってしまったのだ。
「ふーん。それで、ヴォーカルは?」
「多分……俺?」
「はぁ?」
晴海が明らかに顔をゆがめた。
「アンタのどこを皆は買ってヴォーカルにしたわけ?」
「……顔?」
沈黙が続く。ハァッと晴海がため息を漏らした。
「……同じ顔してる弟がこんなナルシストとは思ってなかった」
「しょうがないだろ!? それ以外思いつく要素ないんだから」
「それにしたって、ヴォーカルになる必要なんかないじゃない」
「そりゃそうかもしんないけど……」
純平は返す言葉がなくなってしまった。
「よいしょっと」
突然、晴海が立ち上がった。
「ちょ、大丈夫かよ?」
「平気よ。ちょっと歩くくらい……うあぁ!?」
「危ない!」
バランスを崩して倒れそうになった晴海を慌てて純平が支えた。
「大丈夫かよ」
「ゴメン……」
晴海の顔が少し赤くなった。
「なに赤くなってんの?」
「いや……アンタ、小さい頃はヘナチョコだったのに逞しくなったな〜と思って」
「なに言ってんだか」
純平はヘヘッと恥ずかしそうに笑った。晴海も少し笑いながら、CDラックへと近づいて何かゴソゴソと探し始めた。
「え〜と……この辺に……あ、あった!」
「なにが?」
「これよ!」
晴海が差し出したのは、HYの『366日』のCDだった。
「これで俺にどうしろって?」
「いいから。これを聴けば何か思いつくかも」
「そんな……単純な」
「いいから! 部屋戻って聴いてみな。はい、行った行った!」
強引に晴海は純平を彼の部屋に押し戻した。仕方がないので、純平はCDを聴いてみることにする。
「『赤い糸』良かったよな〜……」
純平はニヤニヤしながらCDを再生し始めた。流れてきたのは、ピアノ伴奏。
「ピアノ……かぁ」
純平は自分の部屋の隅に置かれてホコリを被った電子ピアノに目をやった。昔は晴海と一緒にレッスンに通って、毎日夕食後に楽しく弾いていたものだった。それがラグビーを始めてからいつの間にか、ピアノからは遠ざかってしまった。
――いいから。これを聴けば何か思いつくかも
「そっか……! 俺、伴奏するって言ってみればいいんだ!」
純平は嬉しそうに笑い、すぐに携帯電話を取り出してひとみに電話を掛けた。
「もしもし? ひとみちゃん? あのね、お願いがあるんだけど……」
純平は期待に胸を膨らませながら、ひとみにある提案を始めた。