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アンタでいいから行ってこい!  作者: 一奏懸命
第1章 アンタでいいから行ってこい!
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第14話 ピンチなお誘い

「おっはよー! 晴海!」

「おっはよ、美砂」

 純平と美砂はごくごく自然に女友達らしい雰囲気で挨拶をした。美砂の隣にはひとみも立っている。

「ねぇねぇ、晴海ちゃん」

 珍しくひとみのテンションが高い。

「なに?」

「晴海ちゃんって、音楽とか興味ない?」

「音楽?」

「うん!」

 純平は音楽など芸術面にはかなり疎い。最近流行している歌など全然わからない。この間なんて、音楽の授業で初めてトランペットという楽器がどんなものなのかを知ったほどだ。おまけに音痴。美砂もひとみも、先日の音楽の授業で純平の奇声(歌声で奇声とは失礼だ、と純平は憤慨したが)を聞いて苦笑したほどだ。

 しかし、実際YUIの歌は大好きだ。彼女の歌なら何でも語れる。歌詞の奥深さ、曲のよさ……。曲は作曲した人が素晴らしいのだろうけれど、その曲の世界観を見事に引き出すYUIはやっぱりスゴい。純平は心からそう思っている。

「YUIの歌は好きだけど……それ以外はちょっと」

「そっかぁ……」

 ひとみは残念そうな顔をした。美砂が会話に入り込んでくる。

「どうしたの? なんか、演奏会とかコンサートとかあるの?」

「そういうのじゃないんだけど……」

 ひとみが何かを後ろへ隠したのを美砂と純平は見逃さなかった。

「それ、何?」

 純平は好奇心が勝ってしまい、ひとみが隠したチラシを奪い取った。

「あ!」

「何々?」

 横から美砂も加わってそのチラシを見た。


『大辻駅前商店街 ティーンズフレッシュコンサート』


「ティーンズって、私たちよね」

「うん」

「なんでひとみちゃん、こんなチラシを?」

「……。」

 ひとみの顔がみるみる赤くなった。

「理由言いなよ〜!」

 バシン!と良い音がしてひとみの体が前のめりになった。

「ちょ、強い強い!」

 美砂が慌てて純平に力をセーブするように促す。

「ゴメン、今度は気をつける」

「晴海ちゃんって相変わらずパワフルだね」

 ひとみが苦笑いしながら純平が叩いた場所を摩った。

「そんなに痛かった?」

「ううん。もう平気」

「それで、話を戻そうよ」

 美砂が落としたチラシを拾い、もう一度内容を見始めた。

「なになに……。5月10日の日曜日に、大辻駅前でコンサートを行います。出場対象年齢は10歳から19歳までの男女。ただし、音楽大学の声楽科に通っている、コーラス部に在籍している男女の集団などは認めませんっと。最低出場人員は1名から、最多で10名までか。ま、コンサートだからカラオケとは違うと思うけど……」

「それで、ひとみちゃん出たいの?」

「うん!」

 ひとみの目がキラキラ輝いた。純平はあまりのまぶしさに目を逸らしそうになった。

「そ、そんなに出たい理由は?」

「これなの!」

 チラシの右下に油性ペンでグルグル円が描かれていた。美砂と純平はそこをよく読んでみた。

「北海道2泊3日旅行プレゼント?」

「そうなの!」

 読み上げた純平の襟をつかんでひとみは熱く語り始めた。

「これね! 優勝した人もしくはグループに出場した人数だけ、旅行をプレゼントしてくれるんだよ〜! それでね、私としては最低でも私と、美砂ちゃん晴海ちゃんで優勝して一緒に旅行に行きたいんだぁ!」

「……。」

 純平の顔が真っ青になった。美砂も苦笑いになっている。

「どうかした?」

「うっ、ううん! で、でもさぁ。その旅行ってやっぱり高校生の私たちには行きにくい日程で組まれてるんじゃない?」

 純平はなんとかそのような事態を避けようと、いろんなことを考え始めた。

「全然問題ないよ! 5月の11日から10月末ならいつでも行けるの」

(なんだよ、その中途半端さは! つーか、北海道ならむしろ冬だろ!?)

「で、でもほらー、私、音痴じゃない!?」

「練習すればOKよ〜」

「歌は何歌うの!?」

「実はね、もう決めてるの!」

「もう!? 早ッ!」

 美砂も驚きの声を上げた。

「HYの、366日!」

 ひとみはやる気マンマンで楽譜を美砂と純平に手渡した。

「これって、赤い糸の?」

「うん! あのドラマ……良かったよねぇ」

 ひとみは一人、朝っぱらから遠い世界へと飛んでいってしまった。

「どうすんの!? このままじゃ、出なきゃいけなくなるよ!?」

「なんとか阻止する方法考えてくれよ! 俺、リアル音痴だから恥ずかしくて町歩けなくなる」

「それもそうだけど、きっと純平くんその姿で出なきゃなんないよ!?」

 最悪の事態だ。晴海の姿で音痴をさらせば(学校ではさらしたが)、きっとまた半殺しの危機が迫ってくる。

「あっ! そうだぁ!」

 ひとみが嬉しそうな声を上げた。美砂と純平はビクビクしながら聞いた。

「何か思いついたの?」

「もっとメンバーを増やせばいいのよ! そうすれば、晴海ちゃんだって音程取ることできるかもしれないじゃない!」

「……。」

 もはや二人とも、そういう問題ではないと突っ込む余裕すらなくなっていた。

「あ、ちょうどいい人が! 私、あの人たち誘ってみるね!」

「えー!? ちょ、なにその無鉄砲さ! ちょ、ひとみちゃーん!」

 美砂が慌ててひとみの後を追う。そして唖然としている純平の目に映った、ひとみが追っている少女――。

「ゲッ!?」

 なんと、あの渡辺 花梨であった。




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