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アンタでいいから行ってこい!  作者: 一奏懸命
第1章 アンタでいいから行ってこい!
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第9話 その話題、無理!

「今日は思ったより空いてるね〜」

 ミスタードーナツの店舗は駅前にある。純平が住んでいる地域は大変立地条件の良いところだ。電車に乗れば10分程度でデパートやアミューズメント施設がある地域にも行ける。ドーナツとジュースをそれぞれ選んだ純平たちは2階の客席に移動する。ドーナツを頬張るや否や、美砂が話題を振ってきた。

「そういえばさ、晴海」

「何?」

「知ってる? ユイのこと」

「え?」

 ユイ? 誰だったっけ? 純平は慌てて晴海に言われたコトを思い出す。一応、近況などは晴海も随時チェックするようにしている。メールなどを美砂とも頻繁にやり取りし、不自然さがないようにしているのだ。

「えーと……ゴメン! 私、よく把握してないの〜」

「ふーん……そう」

 美砂はあからさまに疑う目をして純平を見つめた。美砂は鋭い性格だ。まだ出会ってからそれほど時間は過ぎていないが、それでも純平はすぐに「彼女の前ではうかつに失敗できない」と思わせるほどのしっかり者。それが美砂だ。

「ねぇ、美砂ちゃん」

「なぁに?」

「ユイって誰?」

「あー。それなら晴海がよく知ってるのよ〜。晴海から聞いたほうがいいわぁ」

 チラッと美砂が純平のほうを見る。これはかなりマズい展開になってきたと純平は背中からドッと冷や汗を流していた。急いで携帯を取り出して晴海にメールをする。

「あれ? どうしたの?」

 それに目ざとく反応した美砂が携帯を覗こうとする。

「ダ、ダメよ〜! ケータイってかんなりプライバシー詰まってるんだからぁ」

「へぇ〜……。じゃあ、見せてもらってもいい?」

 純平にとってますますマズい展開になってきた。というのも、携帯電話は純平のものを持っているため、メールボックスからアドレス帳、データフォルダなどすべて男丸出しのものとなっているのだ。特にデータフォルダには中学のときに純平がバカをやったクラスメイトと一緒の写真など、普通に男のときに見られても恥ずかしいものがたくさんある。

「きょ、今日はやめておいてほしいな〜」

「なんで? いつもはすんなり見せてくれるじゃない」

「今日は見せる気分じゃないのよ〜」

「ふーん? いつもなら堀越くんとのメールがね……とか言っていろいろ見せてくれるのに?」

(そんなメール、1件もねーよ!)

「ま、間違ってこないだメール全消去しちゃってさあ。見せられるものがないんだよね〜」

「あぁ、そうなの」

 美砂は案外すんなり納得してくれた。ホッと純平はため息を漏らす。

「ところでさ、ユイの話の続きだけど」

(今度はそっちかよ!)

 この状況下では晴海にメールを打てない。かといって、いい加減なことも言えない。窮地に追い込まれた純平は、思い切って自分の知るユイの話をした。

「あぁ! そうだったね〜! あのさ、ひとみちゃん。YUIの歌って聴いたことある〜? あれさぁ、めちゃくちゃ彼女いい歌いっぱい作るのよ! 一度聴かなきゃ損だと私、思うわ!」

「YUIって歌手なの?」

 美砂にひとみが聞く。どういう反応が返るだろうか。

「そうよ」

 悔しそうに美砂が返す。しかし、実際に晴海がYUIを好んでいることなど、純平はまったく知らなかった。そのため、自分自身かなり驚いている。

「高校生の時には学費を稼ぐためにアルバイトしてたんだけど、倒れちゃって。彼女、ホント頑張り屋さん! 私、尊敬しちゃうもの〜。私も学費稼ぐためにアルバイトしなきゃなんない!なんて状況になったら……私は無理かもなぁ」

「……そうだったんだ。私、全然知らなかった」

 美砂がハンカチ片手にいつの間にか涙を流していた。

「あれ? 知らなかった?」

「知らないわよ普通そんなこと! 晴海〜、アンタ本当YUIの大ファンなのね!」

「ま、まぁね! 何でも聴いてちょうだいよ、YUIに関することは!」

 胸をドン!と叩きながら晴海は苦笑いしつつ、胸をなでおろした。

「じゃ、また明日ね!」

 ひとみが笑顔で手を振る。

「うん。バイバイ、美砂、ひとみちゃん」

 純平はなるべく、晴海らしくかわいらしく手を振った。

「……なんとか乗り切ったな」

 美砂たちの姿が小さくなってから、純平はようやく肩の力を抜いた。

「疲れたな〜、今日は一段と」

 純平は大きく伸びをした。

「あ、明日体力測定じゃん! ちょっと頑張っちゃおうかな!」

 元ラグビー部の血が騒ぐ。

「はーやくあーしたになーれ!」

 純平はスキップをしながら帰宅した。その体力測定が、更に複雑な事態を巻き起こすとは予想していない純平であった。

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