四:王都の繁栄
自宅を出てからちょうど丸一日が経った頃、俺たちはようやく王都に到着した。
「……ここに来るのは久しぶりだな」
往来の多い大通りに立った俺は、なんとなく懐かしい気持ちになった。
(ずいぶん前に緊急クエストで足を踏み入れて以来だから……少なくとも五年振りになるか)
ここでは定期的に武闘会が開かれており、優勝者には高額の賞金と希少なアイテムが授与される。若い頃は――国王と喧嘩をする前は、それらを目当てによく出場していたものだ。
そんな感慨に一人浸っていると、
「うわぁーっ! おいしそーっ!」
「食欲を……そそる……っ!」
スラリンとリューは露店に並ぶ、たくさんのうまそうなメシに目を奪われていた。
(昨日あれだけ嫌がっていたのは何だったのやら……)
そうして俺が苦笑いを浮かべていると、今度は隣から二つの声が聞こえてきた。
「す、凄い人にお店……っ」
「うわぁ……。こういうゴチャゴチャしたとこ苦手なんだよねぇ……」
その圧倒的な人の数と、所狭しと並ぶ露店にアイリは目を輝かせ、一方のヨーンはあからさまな渋面を作った。
実際、王都の繁栄具合は俺たちの暮らす村の比ではない。
人口を比較しても軽く百倍以上の差がある。
これだけの人口差があれば当然にして需要の量も桁違いであり、毎年多くの店が開店・閉店している。まぁつまりはここは経済の活発な発展した街というわけだ。
「じ、ジン! あそこの焼きそば屋さんに行こ! 特盛肉焼きそばが食べたい!」
「ゾモスの姿焼き……食べたい……っ!」
スラリンとリューはよだれを垂らしながら、それぞれ違う露店を指差した。
「待て待て。その前に宿を押さえてからだ」
とりあえず今日はここで一泊し、明日は感謝状と勲章を受け取ってそのまま帰宅する予定だ。
まだ陽の高い今のうちに宿を押さえておかないと、後々になって面倒なことにある。
「わ、わかったっ!」
「早く……探そう……っ!」
よほど腹が減っていたのか、それともただ純粋に食欲を掻き立てられたのか……。スラリンはアホ毛を激しく左右に振り、リューも腰の翼を小刻みに揺らした。
それからひとまず宿探しを始めると、
「おや……ジン君?」
背後から何者かに呼び止められた。
(……誰だ?)
声を掛けられた方を振り返ると、そこには豪奢な馬車の客室から顔を出す初老の男性の姿があった。
「おぉ、やっぱりジン君じゃないか!」
立派な白い顎鬚をたくわえた彼は、人懐っこい笑みを浮かべてこちらに向かってきた。
「お久しぶりです。サベルさん」
彼の名はサベル=ダストリン。
王都で幅を効かせる大豪商の一人で、よく俺に指名依頼を飛ばしてくれる人だ。
「珍しいじゃないか、君がこっちに来ているなんて!」
「えぇ、少し所用がありまして、今日明日だけ滞在することになったんですよ」
「はははっ! 君は相も変わらず忙しいようだね。――っと、そうだ! もしよろしければ、うちに寄っていかないかね? ちょうど先日、いい肉と酒を仕入れたところでね!」
敏感に「肉」という単語に反応したスラリンとリュー。
二人の視線を受けた俺は――静かに首を横に振った。
「せっかくのお話ですが……すみません」
あまり一人の依頼人と仲良くし過ぎるのはよろしくない。サベルさんと敵対する――競合の豪商の存在もある。
ありがたい申し出だが、これを受けるわけにはいかない。
「あーいや、すまない。そういう意味があったわけではないんだ――ただ純粋な感謝の気持ちだったんだ。――これからもよろしく頼むよ」
「はい。こちらこそ、今後ともよろしくお願いします」
友好的に握手を交わし、サベルさんとはそこで別れることになった。
しかしその後も、
「あら、もしかしてジン様でございますか?」
「おぉおおおおっ! ちょっと待っとくれ、ジン君じゃないか!」
「ジンさん、お久しぶりです。以前は、急なご依頼を受けていただき本当にありがとうございました」
一分歩くごとに誰かに捕まってしまい、中々宿探しに集中できなかった。
ハンターも客商売であるため、依頼人に対して粗雑な態度を取ることはできない。
(これは……思いのほか時間がかかりそうだな)
心の中で小さくため息をつきながら、一人一人丁寧に対応していった。
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