三:いざ王都へ
次回更新予定は「明日2月1日」のお昼11時から12時の間!
「――というわけで、王都に行くことになった」
自宅に帰った俺は早速、スラリンたちに冒険者ギルドでのことを話した。
あの国王から感謝状と勲章を授与されること。
そのためにこれから王都へと出向くこと。
今回はスラリンたち全員を連れて行くこと。
すると――。
「えー……。リン、あそこ嫌いー」
「私も……好きじゃない……」
二人は露骨に嫌な顔をして、首を横に振った。
予想していた通りの反応に、俺は苦笑いを浮かべる。
「は、ははは……。まぁ、そう言ってくれるな。これも仕事のようなものなんだ。……な?」
そう言ってもう一度押してみると。
「むぅー……。わかったー……」
「お仕事なら……仕方ない……」
二人は渋々ながらも納得してくれたようだった。
そんな様子をぼんやりと見ていたアイリがキョトンとしながら口を開く。
「珍しいですね……。ジンさんと一緒に行けるというのにスラリンさんとリューさんが嫌がるなんて」
「あー……まぁ、昔ちょっといろいろとあってだな……。俺もスラリンもリューも王都が――というよりも国王のことが苦手なんだよ」
二人の態度が硬い理由をふんわりと告げると、スラリンとリューが身を乗り出した。
「苦手なんかじゃないよ! 大っっっ嫌いなの!」
「アレは……嫌……っ!」
いつにも増して強硬な主張をする二人にアイリは目を白黒させた。
「す、凄い拒否反応ですね……っ。お二人がこんなに嫌がるなんて……いったい何があったんですか?」
「う、うぅん……」
これから王都に行くことだし、何があったかぐらいは伝えておいた方がいいか……。
向こうには俺を好ましく思っていない奴等も多い。危険な場所であると認識してもらうためにも話してくべきか。
そう判断した俺はゴホンと咳払いをして口を切った。
「えーっとだな……。話せば長くなるから短くまとめると――昔、俺たちはちょっと国王と揉め事を起こしてしまってな」
「揉め事……ですか?」
「あぁ。……あれはもう十年以上も前になるか」
若かりし頃を思い起こしながら、ゆっくりと話しを始めた。
スラリン、リューと一緒に暮らすようになってから数か月が経ったある日――突然、王都のハンターたちが俺の家を焼き払った。
スラリンが火を食べ尽くすことで何とか大倉庫だけは無事だったが、それでも上物はほとんど全焼だった。
その後、怒り狂った俺たちは主犯格のハンターを襲撃し、その家を同じように焼き払ってやった。すると王都のハンター一人が泣きながら、とんでもないことを口にした。この件は国王が裏で糸を引いていたのだ。
俺がスラリンやリュー――スライムと飛龍と一緒に暮らしていることを問題視したのだ。
エルフやドワーフといった他種族との共存は推奨する癖して、モンスターとの共存は許さなかった。あまりにも手前勝手な二重規範であり、全く筋というものが通っていない。
そんな無茶苦茶なやり方に激怒した俺は、国王に対し宣戦布告した。
あの頃の俺は少し……いや、かなり若かった。一国を相手に喧嘩を吹っ掛けるなんて、若気の至りにもほどがある。
それから毎日毎日幾人ものハンターが俺の命狙ってやって来た。
そのたびに全てを返り討ちにし、身包みをひっぺ返して捨て置いた。
今思えば……武器やポーションはともかくとして、防具や衣服まで取り上げたのは少しやり過ぎだったかもしれん。彼らだって国王に命令されて、ほとんど無理やり駆り出されていたのだから。
それからまぁいろいろとあって、当時から世話になっていたタールマンさんがあちこちに出向いてうまく立ち回り全面戦争は避けられた。
国王は深く頭を下げて謝罪し、今後は一切の敵対行動を取らず、徹底して不干渉の立場を取ると約束したのだ。
そして現在はビジネス上やむを得ない場合のみは連絡を取り合うという形で収まっている。どうにもならない特級クエストなどが「やむを得ない場合」の例だ。
「――とまぁ、こういうわけで俺たちはあまり王都に寄り付かないようにしているというわけだ」
「そ、そんなことがあったんですね……」
黙って話しを聞いてくれていたアイリは、難しい顔をして頷いた。
「あーもうっ! 思い出しただけでむかむかしてきたよっ!」
「王都は一度……火の海にすべき……っ!」
頭をかきむしるスラリンと、口から灼熱の業火が漏れだすリュー。
「はいはい、ストップ」
変な方向に空回りし始めた二人の頭にチョップをお見舞いする。
「「むぎゅっ!?」」
「あのなぁ……俺たちは別に喧嘩をしにいくわけじゃないんだ。そう殺気立っていたら、余計なトラブルに巻き込まれるだろう?」
「「だ、だって……っ」」
なおも食い下がる二人に俺ははっきりと告げた。
「だっても何もない」
「「…………はーい」」
やや長めの沈黙があった後に、二人は渋々と言った様子で返事をした。
二人が行き過ぎた発言や行動に出そうなときは、保護者としてしっかりと注意してやらねばならない。
少し……ほんの少しだけ心が痛むが、これは仕方がないことだ。
横目でチラリと二人の方を見ると、反省した様子でしょんぼりとしていた。
(……王都に着いたらうまいメシでも食わせてやろう)
そう心に決めたところで、あることに気付いた。
「そういえば……ヨーンの奴はどこだ? さっきから姿が見えないが……?」
「あっ、ヨーンさんならまだグッスリと眠っていますよ」
そう言いながらアイリは寝室の方へ視線を向けた。
「まだ寝ているのか? もう昼過ぎだぞ?」
「す、すみません……。私も何度か起こしたのですが……中々起きてくれないんです」
「はぁ……。全く仕方がない奴だな……」
ため息をつきながら寝室へと向かうとそこには――だらしなくお腹を出したまま、幸せそうに眠っているヨーンの姿があった。
「おーい、ヨーン。起きろ! もう昼過ぎだぞ!」
「うぅん、あとちょっとぉ……」
それからいろいろな攻防があって何とか無事にヨーンを説得することに成功した。
その後、全員の準備が整ったところで、俺たちは王都に向かって出発した。
次回更新予定は「明日2月1日」のお昼11時から12時の間!
書き下ろし大量の紙の書籍版もよろしくお願いいたします!
今年は第二巻にコミカライズにと『おっさんハンター』シリーズがいろいろと動きますし、WEB版の更新も活発になると思います!




