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最強のおっさんハンター異世界へ~今度こそゆっくり静かに暮らしたい~  作者: 月島 秀一
第六章:

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二:国王からの招待


「ふむ、どこから話したものかな……」


 そう言いながらタールマンさんは立派なあご髭を揉んだ。


「そうだな……現在こちらの世界で発生している大きな問題から話そうか」


「お願いします」


「まず君に調査を依頼しているあの穴からは、時折凶悪なモンスターが出現する」


「凶悪なモンスター……ですか?」


 そんなことは初めて耳にする。


「ちょうど二週間前ぐらいだったかな……。突如としてこれまで見たことも無い謎のモンスターがあの穴から飛び出してきたんだ」


 非常に興味深い話だ。

 が、その前に一つとても引っ掛かることがあった。


「……二週間前、ですか?」


 俺があのモンスターだらけの世界にいたのは、確か二三日ほどだった。


「ん? あぁ、それがどうかしたかね?」


「いえ、二週間前だと……俺はまだこっちの世界にいたはずですが……?」


「……んん? 何を言っているんだね、ジン君? 君がロディス樹林に向かってから既に一か月は経過しているぞ?」


「……は?」


 予想外の発言に、思わずポカンと口を開けてしまった。


「い、いや、俺があっちの世界にいたのは長くても三日ほどなんですが……?」


「……ほぅ? これは中々、奇妙なことが起こっているようだね」


「……この世界と穴の先に広がる異世界――二つの世界では時間の流れが違うということでしょうか?」


「うむ……自然とそういう結論に行き着くな」


 タールマンさんは腕組みをしながら、俺の意見に同意した。


「しかし、これまでの世界ではこんなことは無かったんですがね……」


「いや、今回の時間のズレがあまりに大き過ぎただけで、もしかするとこれまでも若干の時間のズレはあったのかもしれんぞ?」


「確かに……そうかもしれませんね」


 向こうの世界の一日がこちらの世界での一週間に相当するならば、時間のズレに気付くことは容易だ。

 しかし、向こうの世界の一日がこちらの世界での一日と一分に相当するならば、気付くことはできないだろう。


「ジン君の報告にあった黒い謎の渦。徐々に強くなっていく大罪。不可解な時間のズレ。――不測の事態が連続している。これまで以上に警戒して、クエストに臨んでくれると助かる」


「お気遣いありがとうございます」


 タールマンさんの言う通り、未知の出来事が頻発している今――これまで以上に気を引き締める必要がある。


 次の異世界にはしっかりとした備えを持って行く。

 具体的にはアイリたちにもポーションを携帯してもらうつもりだ。


(帰りにちょっと高めのポーションを仕入れておかないとな……)


 少し費用はかさむが、安全には代えられない。

 そんなことを考えていると、タールマンさんは何かを思い出したかのようにポンと手を打った。


「……っと、話が少しズレてしまったな。えーっと……そうだそうだ、あの穴から凶悪なモンスターが出現するという話だったな」


 俺はコクリと頷き、続きを促した。


「実は王都近辺に存在する穴から、見たことも無いモンスターが突如飛び出して来てね」


「見たことも無いモンスターですか?」


「あぁ、体高四メートルほどの小型のモンスターだ。セージウルフのような四足歩行をするタイプだったらしい。目にも止まらぬ俊敏な動きで王都中を駆け巡り、大きな被害が出たそうだ」


「それで……現在はどのように?」


 もしまだ仕留められていないようならば、急ぎ討伐する必要がある。


「もう既に王都の一流ハンターが仕留めたようだ。しかし、かなり手強いモンスターだったみたいでね……。何人かのハンターが殺られてしまった。それに民間人にも少なくない数の死傷者が出てしまったという話だ」


「それは……残念ですね」


「うむ……。そして問題はその後だ。民間人を守れなかった国王に対して不満が殺到してね。まぁ王都は税金が高い理由として、その安全性を(うた)っていたからな……無理もない話だ」


 聞いた話によれば、王都は他の地域に比べて特別に税金が高いらしい。

 確かこの村の三倍近くにも達したはずだ。


「そこであの(さか)しい国王は君を利用したんだよ」


「……俺を?」


「あぁ。すぐさま王都に住む民に向けて、声明を発表したんだ。この世界に突如出現したあの穴を説明し――問題解決のためにジン君に動いてもらっている旨をね」


「……それは、あまり気休めにならないのでは?」


 俺の名前を出すより、王都の一流ハンターが総出で動いていることを発表した方が何倍も効果があるはずだ。


「いやいや、謙遜は止してくれ。実際、ジン君の名前を出した途端に、溢れ返っていた不満はたちまちのうちに鳴りを潜めたよ。君は王都のハンターには嫌われているが、民には好かれているからね」


「……喜べばいいのか、悲しめばいいのか。難しいところですね」


 俺が苦笑しながらそう言うと、タールマンさんも肩で笑った。


「まぁともかくそんなわけで、ジン君がこちらの世界に戻り次第王都に招待するよう私は国王から口うるさく言われているわけだ」


 そう言って彼は肩を竦めた。


「なるほど……それはお疲れ様です」


 とりあえず、これでだいたいの事情は把握した。

 国王が嫌っているはずの俺に感謝状と勲章を授与するのは『謎の穴と凶悪なモンスターの問題は解決へと向かっている』という国民へ向けたポーズだ。


「それで君はどうするつもりだ?」


「……そうですね」


 正直に言うならばあまり――いや、全くと言っていいほどに行きたくない。

 しかし、俺が少し顔を出して感謝状と勲章を受け取るだけで多くの人が安心するならば……それは意味があることのように思えた。


(……仕方がない、か)


 あの国王の顔は見たくもないが……今回だけは我慢するとしよう。


「あまり気乗りはしませんが、少しだけ顔を出すことにします」


「そうか、ではそのように書状で返答しておこう」


「ありがとうございます」


 そうして話がひと段落ついたところで、俺はグラスに注がれた果実水を飲み干した。

 するとタールマンさんは、ポリポリと頬をかきながら口を開いた。


「あー……それと念のためにスラリン君たちも連れて行くといい。まぁ、あり得ない(・・・・・)とは思うが……念には念をという奴だ」


「そうですね……ご忠告感謝します」


 あの(・・)国王のことだ。

 俺をどこかにおびき寄せて暗殺しようと考えている可能性は大いにあり得る。

 それに公然と俺が家を留守にするのもよくない。

 一日程度ならばそれほど大きな問題もないが、王都まで行くとなると最低でも丸二日は家を空けることになる。


(どういうわけか俺に恨みを持つ者は少なくない……)


 そんな奴等がスラリンたちを狙わないという保証は無いのだ。

 それに今はアイリとヨーンもいる。

 王都に行くならば、全員で行くのがいいだろう。


「それでは俺は身支度を整えてからすぐに王都へ向かおうと思います。いろいろと教えていただきありがとうございました」


「そんなこと気にしないでくれ。こちらこそ、いつもいつも厄介な仕事ばかり頼んで申し訳ないと思っている。また落ち着いたら、一杯奢らせてくれ」


「ふふっ、それは楽しみですね」

 そうして俺は冒険者ギルドを後にし、自宅へと戻っていった。

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