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最強のおっさんハンター異世界へ~今度こそゆっくり静かに暮らしたい~  作者: 月島 秀一
第五章:モンスターだらけの世界

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三十二:エピローグ


 その後も俺は酒を浴びるように飲み、適度に会話に参加しながら、時折チラリとみんなの様子を確認する。


(どれ、アイリとヨーンは……)


 二人は広場の中心から少し離れたところにある倒木の上に、チョコンと座っていた。



「ジンさん、本当にお酒が好きなんですねぇ……」


「人間族の『おっさん』はみんなお酒が好きだからなー……。あたしは苦手だけど、アイリは飲まないの?」


「飲んだことは無いですね……。お酒は一万二十歳からしか飲めませんから」


「さすがエルフ、年齢制限がとんでもないね……」


 二人は肉と野菜のサラダを片手に、何やら楽しそうに話し込んでいる。

 特に問題は無さそうだ。


(スラリンとリューは……っと)


 一方の二人は広場の中央で、大量の肉料理囲まれていた。


「お、おいしーっ!」


「こ、これ……おかわり……っ!」


「ははっ! 嬢ちゃんら、すげぇ食いっぷりだな!」


「えっへん! リンのお腹は無限大なんだよっ!」


「まだまだ……足りない……っ!」


「ほほぅ、よく言ったな! 食えねぇって言うまで、作ったらぁ!」


「いやったーっ!」


「……おじさん……いい人!」


 スラリンとリューは楽しそうに肉を頬張っていた。


(……頃合いを見て止めておかないとな)


 あの二人のことだ。本当に全ての食料を食い荒らしかねない。

 そうして全員の様子を確認した俺は、再び酒を一杯あおる。


(ふぅー……こういうのはいいな)


 スラリンがいて、リューがいて、アイリがいて、ヨーンがいて――そして俺の体もまだまだ動く。


(こんな幸せな時間が永遠に続けばいいのになぁ……)


 とは言うものの、時間の流れを止めることはできない。

 老いを少しでも遅らせるように、大怪我をしないように、日ごろからもっと鍛錬を積まねばならない。


(だが……最近少し体が変だ)


 これまでは徐々に衰えていくのがわかったが……ここひと月ほどは、むしろその逆。


(徐々にだが……体が強く、丈夫になっている……ような気がする)


 ……気のせいか。


 俺の『旬』はもう遥か昔に過ぎた。

 後は老化のスピードをどれだけゆっくりと――鈍化させるかである。

 衰えこそすれ、肉体が活発になることはあり得ない。


 そうして酒を一杯あおったその瞬間。


 俺の目と鼻の先に、突如黒い渦が出現した。


「ぬ、ぬぉ!?」


 それは凄まじい勢いで周囲の物質を吸い込み始めた。


 突如として、そんなものが目と鼻の先に来てはひとたまりもない。


 俺は一瞬にして、謎の渦に吸い込まれてしまった。


「じ、ジンっ!?」


「……ジン……ダメっ!」


「ジンさんっ!」


「お、おっさん!?」


 スラリンたちがこちらに走り寄って来るのが見えた。


「来るな! お前たちっ!」


 何とかスラリンたちに指示を出すが、


「わ、わわわ……っ!?」


「何……これ……っ!?」


「き、きゃぁーっ!?」


「何だこれーっ!?」


 一歩遅かったのか、全員が黒い渦に吸い込まれてしまった。


(ぐっ、何だ……これはっ!?)


 渦の中は上下の感覚が無い――奇妙な浮遊感があった。

 どこを見てもただただ黒。一筋の光さえも無く、スラリンたちがどこにいるのかもわからなかった。

 そのまま少しして、気が付くと俺たちは――密林の中にいた。


「こ、ここは……?」


 よくよく周囲を見渡せば、この場所には見覚えがあった。


「もしかして……ロディス樹林か?」 


 いったい何がどうなったかはわからないが、俺たちは無事に元の世界へ戻って来れたようだ。


「……ありゃ?」


「元の……世界……?」


「無事に帰って来れた……ということでしょうか?」


「……」


 全員がキョロキョロと不思議そうに周囲を見回している中、ヨーンだけが暗い顔のまま何もない空間をぼんやりと眺めていた。


(世界を維持できてない……もうあんまり時間がないかもしれないね……)


「どうしたんだ、ヨーン?」


 もしかして大事なものでも忘れてきてしまったのだろうか?

 すると彼女は首を横に振った。


「ううん、何でもないよ」


「そうか、それならいいんだが……何かあったら言うんだぞ?」


「……うん。ありがとね、おっさん」


 どこかスッキリしない表情で、ヨーンは笑って見せた。


(……何か様子がおかしいな。今晩にでも詳しく話しをしてみた方がいいかな……?)


 そんなことを考えていると――突然、スラリンとリューが地面に崩れ落ちた。


「ど、どうしよう……ジン……っ」


「もう……駄目……っ」


「ど、どうしたんだ!?」


 二人が同時に塞ぎ込むなんて尋常のことではない。


 もしかしてあの黒い渦の中で何かあったのではないだろうか。


 慌てて俺が二人の元を駆け寄ると――かつてないほど大きな腹の音が鳴った。


「「お肉が……無くなった……っ」」


「………………そうか」


 二人にとっては、たった今起きた謎の現象よりも肉の方が遥かに大事らしい。


(そういえば宴のときも、えらくはしゃいでいたっけか……)


「うぅ……こんなのあんまりだよぉ……っ」


「およそ人の所業とは……思えない……っ」


 かつてないほど落ち込む二人に、俺は仕方なくあの約束を持ち出した。


「あー……ほら、焼き肉パーティ……するんじゃなかったのか?」


 二人が大人しくお留守番をする代わりに、帰ったら焼き肉パーティを開く。


 これはグラノスとの決戦前に約束したことだ。


 その瞬間、二人の目に光が宿った。


「「っ!」」


 アホ毛がかつてないほどに立ち上がり、翼もバサバサと慌ただしく羽ばたいていた。


「そ、そうだったっ!」


「や、焼き肉……パーティ……っ!」


「あぁ、腹いっぱい食べるんだろ?」


「「うんっ!」」


 さっきまでの――この世の終わりみたいな顔はどこへやら。

 スラリンとリューは、いつも通り元気いっぱいとなった。


 とにもかくにもこれでクエストはクリアだ。


(焼肉パーティは……必要経費として考えるか……)


 二人は既に宴でそこそこの肉を食べている。


(金貨一万枚……いや、二万枚分の肉もあれば十分だろう)


 そんな俺の予想とは裏腹に、スラリンとリューはかつてないほど大量の肉を食い漁り、結局今回のクエスト報酬分――金貨五万枚分の食費となってしまったのだった。

第六章はちょうど三日後――1月11日(金)更新予定!

書き下ろし大量の紙の書籍版もよろしくお願いいたします!

今年は第二巻にコミカライズにと『おっさんハンター』シリーズがいろいろと動きますし、WEB版の更新も活発になると思います!

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