二十六:ジンの大剣
「ふぅー……っ」
動かなくなったグラノスを前に、俺が大きく息をついていると、
「ジンさん!」
「おっさん!」
アイリとヨーンが駆け寄ってきた。
「二人とも無事で何よりだ」
体中に小さな傷はあるものの、そのどれもがかすり傷――命に関わるものではない。
村に戻ってポーションを飲めば、たちまちのうちに治るだろう。
「本当に……本当によかった……っ」
アイリは目尻に涙を浮かべ、俺の胸に飛び込んできた。
「おっとっと……。あー……すまん、心配を掛けてしまったな……」
彼女の頭を優しく撫でながら、心労を掛けてしまったことを素直に詫びた。
「いえ……ジンさんが無事ならば、もうそれだけで私は大丈夫です……っ」
消え入りそうな声でそう言ったアイリの体は小刻みに震えていた。
本当に心の底から心配して、不安でいっぱいだったのだろう。
「ありがとう。俺もアイリが無事でいてくれて、本当に嬉しいよ」
俺は胸の中で震える彼女を優しく抱き締め、安心させてあげられるよう優しく声を掛けた。
「……っ。は、はい……っ!」
彼女は何故か耳まで真っ赤にして、控え目に俺の背に手を回した。
一方その頃、ヨーンは不思議そうに俺の体をツンツンと指で突いていた。
「……さっきから何をしているんだ、ヨーン?」
そうあちこちを突かれては、何というかくすぐったい。
「いやさ……自爆した側が無事って、何か理不尽だなぁって思って……」
「あぁ、今回はこれまでの積み重ねが活きた戦いだったな」
ハンターは常に死と隣合わせの仕事であり、実際俺もこれまで何度も瀕死の重傷を負っている。そして死の淵から復活するたび、俺の体は少しずつ丈夫になっていったのだ。
「……いくら積み重ねても普通人間は、ここまで丈夫にはならないと思うけど。……まぁ、勝ったなら何でもいいか」
そう言ってヨーンは、大きく伸びをした。
彼女もいろいろと気を張って疲れたのだろう。
いつも気怠そうだが、今はその三割増しでぐったりとしている。
二人でそんな平和な会話をしていると、アイリがポツリと呟いた。
「それにしても……静かになりましたね」
「……だな」
ついさっきまでの喧騒が嘘のように、辺りは静まり返っていた。
俺たちを襲って来た大量のモンスターは、そのほとんどが爆発で消し飛んだ。
危機察知能力の高い数匹は森に逃げたようだが、まぁその程度ならば大きな問題はないだろう。
「さてと……そろそろ帰るか」
「はい!」
「ふへぇ……やっと帰れるー……」
そうして一歩、歩みを進めたところで違和感を覚えた。
「おっと……。すまん、ちょっと待っていてくれ」
大きな大きな忘れ物をしていることに気付いた。
俺は二人から離れて、動かなくなったグラノスの元へ足を向ける。
「ジンさん?」
「……どしたの?」
首を傾げる二人に右手をあげて応え、グラノスの体に視線を向けた。
奴の体は今や原型を保っておらず、黒い煤の集合体となっている。
「残っていてくれると助かるんだがな……」
山のように積もった煤を両手で掻き分けていくと――目的のブツが顔を覗かせた。
「……おっ、あったあった!」
俺が長年の愛用している大剣だ。
傷一つついていないそれを二三度振るって煤を払い、いつもの定位置に背負った。
「やはり……これがあると落ち着くな」
長いハンター生活で、俺は一度も武器を変えたことがない。
小さい頃からずっとこの大剣一筋だ。
別に名のある刀匠が打ったものだとか、そういうものではない。
ただ昔から家にあったものだ。
斬れ味は良くも無く、悪くも無い。
ただ恐ろしく丈夫だった。
巨大な岩石を斬ろうが、鉄のように硬いモンスターを斬ろうが、刃こぼれ一つしない――自慢の愛刀だ。
黒い煤から大剣を取り出す光景を見たアイリは、驚きの声をあげた。
「あっ、ジンさんの大剣!」
「ありゃりゃ、何でそんなとこに?」
二人はそのとき必死に逃げていたため、グラノスが俺の大剣を飲み込んだことは知らないようだった。
「んー、まぁいろいろとあってな。それは帰りながら話そうか」
そうして俺たちは、ユークリッド村への帰路についたのだった。
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