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最強のおっさんハンター異世界へ~今度こそゆっくり静かに暮らしたい~  作者: 月島 秀一
第五章:モンスターだらけの世界

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二十一:グラノスの狙い


「あ、あり得ん……っ。権能とはこの世界の法則……それを乱すことなど……っ」


 グラノスは呆然としながら、何事かをぶつぶつと呟いていた。


「――ずいぶん余裕だな?」


 当然、そんな隙を逃す俺ではない。


「っ!?」


「そぉらっ!」


 既に懐深くまで侵入した俺は、そのまま力いっぱい大剣を振り切る。


「――甘いわっ!」


 しかし、奴は意外にも俊敏な動きで翼を盾にし、首への直撃を防いだ。


「……ちっ」


 俺は地面を蹴り、グラノスから大きく距離を取る。

 そして鮮血の流れ落ちる奴の首筋と、先ほど攻撃を防がれた翼を観察する。


(分厚い鱗に守られた翼はさすがに硬い、な……)


 首や腹といった弱所とは違う。

 硬質な鱗に守られた翼は、やはり刃が通りにくい。


(だが、無傷というわけではない……っ)


 大剣を防いだ箇所には、わずかに傷がついていた。


(ほんのわずかでも攻撃が通るならば問題ない。百回でも千回でも一万回でも……その鱗が剥げ落ちるまで斬り付けてやる……っ!)


 再び斬り掛かろうと、前傾姿勢を取ったところで――。


「ぐ、ぐぬぬ……っ。少し斬れるようになったぐらいで図に乗るなよ、小人間がっ!」


 今度は奴の方から、鋭い牙を剥き出しにして突進してきた。


「ジィイラァアアアアッ!」


 大口を開け、食い殺さんとするグラノスの体を大剣でしっかりと受け止める。


(重い……っ。が、単純な力勝負なら……こちらに分がある)


 俺は盾にした大剣を右足で蹴り上げ、大きく振り上がったそれを――奴の脳天に叩き込んだ。


「ぬぅんっ!」


「ジッ……ガァ……ッ」


 さすがは鱗の密集している頭部。

 いつものように一刀両断とはいかなかったが――中はしっかりと揺れた(・・・)ようだ。


「ジャァ……バァ……?」


 脳みそを揺さぶられた経験など無いのだろう。

 グラノスは呆けた顔をしたまま、千鳥足で明後日の方角へ歩き出した。


「ふっ、ドロドロ(・・・・)だろ?」


 頭に強烈な一撃をもらったときのあの感覚――俺だって何度も経験がある。

 地面がまるで泥沼になったかのように沈み込み、まともに立つことすら難しい。


「ジッ、ジャァア……ッ」


 グラノスは訳も分からぬまま、とにかく体を丸めてひたすらに弱所を庇った。

 長い首を器用に腹の前あたりに収めて弱所を一か所に集中させ、そこを翼で覆い隠す。


「さすがに理解が早い……っ」


 自らの状態異常をすぐさま認識し、分が悪いと判断すれば攻撃を放棄してでも時間稼ぎに走る。

 これだから知能の高いモンスターは厄介だ。


「ぬぅおおおおっ!」


 俺は何とか奴の防御を崩そうと、ひたすらに斬り掛かった。


 しかし――効果は薄い。


 防御に専念しているためか、奴の鱗は先ほどよりも硬度が増していた。


 一枚また一枚と剥ぎ取っていくが、やはり中々に時間はかかる。


 少しすると、ようやく平衡感覚を取り戻したのだろう。

 丸まった体を開き、血走った目でこちらを睨み付けた。


 そして――これまでの鬱憤を晴らすように、グラノスは一気に反撃へ転じてきた。

 これまでとは違う。

 正真正銘本気の攻撃。


「ジャラァアアアアアアアアアアアアッ!」


 強靭な顎と鋭い牙の噛みつき。

 巨体を最大限に活かした旋回攻撃。

 そして長く強靭な尻尾を巧みに操り、攻撃に厚みを持たせてきている。


「ぐ……っ」


 何より厄介なのは、あの鋭利な鱗。

 少し触れただけでも肉を切られるため、少し余裕をもって回避する必要があった。

 俺はその猛攻を時には回避し、時には受け流し、時には大剣を盾にしてしのぎ切る。


(重く鋭い一撃だ……っ)


 だが、身体能力だけならばリューの方が上だ。


(それに頭に血が登っているのか、アイリとヨーンが視界にも入っていないのは好都合だ)


 グラノスとの戦闘に集中できる分やりやすい。

 それからしばらくの間、防戦一方の展開が続く。


(いくらグラノスが高度な知能を持つと言っても――いや、高度な知能を持つからこそ、そこには独特の隙が生まれる)


 無意識に嫌う動き、攻撃の癖、咄嗟に回避する方向――奴の動きを観察し、少しは掴めてきた。


「ジャラァアアッ!」


 雄叫びと共に巨大な口が眼前に迫る。


「ふっ!」


 そこに大剣を割り込ませ、しっかりと防御する。


(噛みつきが来たら次は――アレだ)


「ジャヤラァアアアアッ!」


 予想通りに、俺の脳天目掛けて尻尾を振り下ろしてきた。


「――そこだ!」


 俺は奴の尻尾を掻い潜り、がら空きの腹部に――グラノスの弱所に渾身の一撃を叩き込んだ。


「ガフ……ッ!?」


 ――とらえた。

 肉を断った感触がしっかりと両の手に伝わる。


 鮮血が宙を舞い、奴は片膝をついた。


「ふ、――<憤怒の咆」


「――それはもう見飽きたぞ」


 奴が大口を開けた瞬間に、その下顎を思い切り蹴り上げてる。


「あが……っ!? ――ジャバラァッ!?」


 漆黒のブレスは口の中で暴発し、奴は煙を吐きながらその場に倒れ伏した。

 さすがにそう何度も同じ技を見せられれば、俺だって学習する。


「――勝負ありだな」


 自慢の権能――<憤怒の剛鱗>を破り、近接戦闘はこちらが上。

 そして今、ブレスも完全に封じた。


 後はアイリとヨーンにちょっかいをかける暇も与えず、ひたすらに攻め続けるだけだ。


 すると、


「じゃ、ジャバババ……。ジャバババババババッ!」


 突然奴は狂ったように笑い始め、ゆっくりと上体を起こした。


「はぁはぁ……小人間よ……っ。認めよう、お前は強い。……悔しいが、儂よりも遥かにな」


 グラノスは肩で息をしながら、静かに語り始めた。


「だが、それはあくまで単純な実力の上での話だ」


「……何が言いたい?」


「ジャババ……。真正面からのぶつかり合いでは勝てなくとも――生存競争という勝負でならば、まだ儂にも勝ちの目はあるということだ」


 そう言うと奴は、大きく息を吸い込んだ。


(ブレスか……? いや、先ほどまでとは前兆が少し違う)


 俺は警戒しながら大剣を中段に構えると、次の瞬間。


「ジャバラァアアアアアアアアアアアアッ!」


 グラノスは、ユークリッド村まで届くのではないかという、馬鹿でかい雄叫びをあげた。


「~~っ!?」


「きゃっ……!?」


「う、うるさ……っ!?」


 咄嗟に耳を塞いだものの、今もキーンという甲高い耳鳴りがする。


 しかし――それだけだ。


 この程度の耳鳴りでは、戦闘続行にはなんら支障がない。


(……ブレスの不発か? ……いや、違うっ)


 グラノスは歯を剥き出しにして、醜悪な笑みを浮かべていた。


(あの顔は間違いなく、何かをやりやがった……っ)


 奴を視界にとらえたまま周囲を警戒すると――次第に地鳴りのような大きな音が聞こえてきた。


(……何だ?)


 音は徐々に大きくなっていく。

 そして――ことここに至り、俺はこの音の正体を理解した。


(こいつ……やりやがったな……っ)


 嫌な汗が背中を伝い、顔が引きつった。


「こ、これは……っ!?」


「お、おっさん、助けてぇええっ!?」


 背後にいるアイリとヨーンから、絶望に満ちた悲鳴が聞こえる。


「二人とも固まってしゃがんでいろっ!」


 俺はグラノスを視界の片隅にとらえたまま、すぐさま二人の傍へ駆けつけた。



 そのコンマ数秒後――森の中からおびただしい数のモンスターが殺到してきた。



『最強のおっさんハンター』シリーズの――コミカライズが決定いたしました!

漫画になります! 漫画になるんです! 漫画となって動くんです!

詳しいお話はまだ公開できないのですが、現在水面下でゴボゴボと動いております!


いやぁ……これは本当に嬉しい……っ。

今日ぐらいは発泡酒ではなく、おビールにしようかと思うぐらいには嬉しい……っ!


そしてそして書籍版第1巻が大好評発売中です!

こちら3割ほどの新規書き下ろしエピソード+加筆修正がございます!


WEB版をお読みいただいたみなさまだからこそ、より良く楽しめる最高の一冊に仕上がっております!


どうか買っていただきますよう、本当にお願い申し上げます……っ!(本当に紙の本を買っていただけると、本当に助かります……っ! ……何卒っ)

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