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最強のおっさんハンター異世界へ~今度こそゆっくり静かに暮らしたい~  作者: 月島 秀一
第五章:モンスターだらけの世界

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十九:黒龍グラノス


「や、約束だからねっ! 指切りげんまんだからねっ!?」


「お、お肉……食べ放題……だよ!?」


 二人に詰め寄られた俺は、


「あ、あぁ、もちろん……約束だ……っ」


 歯を食いしばりながら、しっかりと約束をした。


(も、問題ない……よな?)


 自宅にはこのクエストの前金と二つの異世界を調査した報酬――締めて金貨二十五万枚がある。

 いくら二人が大喰らいだとしても、この資金が尽きることは無い……はずだ。

 頭を振って「大丈夫だ」と自分に言い聞かせ、これからの話に移る。


「もし万が一グラノスがそっちに行った場合は、絶対に単独での戦闘は回避するんだぞ? すぐに人化を解いて、空中に合図を放ってくれ。俺が即座にそっちへ向かうから」


 緊急事態の合図は既に二人と決めてある。

 リューの場合は特大の<龍の息吹/ドラゴン・ブレス>、スラリンの場合は<影の箱庭/シャドウ・ガーデン>をそれぞれ空中に放つことだ。


「「わかった!」」


 コクリと頷いた二人は、「お肉っ!お肉っ!」と口ずさみながら上機嫌に飛び跳ねて見せた。


(今の話、ちゃんとわかってくれてる……よな?)


 少し不安になったが……これは俺がまだ若い頃から口が酸っぱくなるほどに言い聞かせてあることだ。さすがに大丈夫だろう。


「それでアイリとヨーンについて何だが……」


 二人の取り扱いは……実に難しい。

 マナのないこの世界では、二人は思う通りの力を振るえない。


(俺と一緒にグラノスの住処に向かうべきか……。はたまたスラリンが護衛する村に残しておくべきか……。それともゴブリンの住処を護衛しているリューの元に置くべきか……)


 どの選択が最も安全なものであるか、俺が頭を悩ませていると、


「私はジンさんについて行きたいです」


「あたしも、おっさんところがいいかなー」


 アイリとヨーンは口を揃えて俺についてくると言った。


「うーん……。やっぱりジンと一緒にいるのが一番安全だよね……」


「残念ながら……そうなる……」


 スラリンとリューも渋々といった様子で、二人の意見に賛同した。


「……二人ともわかっているのか? 俺が行くのは敵の親玉のところなんだぞ?」


 常識的に考えれば、スラリンかリューと一緒にいるのが安全だ。


「大丈夫です。私はジンさんを信じていますから!」


「おっさんが負けるところなんか想像できないからなー」


 アイリとヨーンは笑顔でそう言ってくれた。


(これは……責任重大だな)


 二人の信頼に応えるためにも一層気を引き締めなければ。


「それじゃ早速だが……行くか!」


「はい!」


「りょーかーい」


「リューも途中までは一緒に行こうか」


「あいー」


 それから俺たちは手早く身支度を整えて村を出立した。


「行ってらっしゃーい! 早く帰って来てねーっ!」


「あぁ、スラリンも村の守りは任せたぞ」


「まっかせてーっ!」


 両手を振って見送ってくれるスラリンを背に、俺たちはグラノスの元へと向かった。



 ゴブリンの住む洞窟の近くでリューと別れた後は、ジグザドスさんにもらった地図を頼りに北へ北へと進んでいく。

 祭壇を過ぎ、小さな湖を越えた辺りで白骨化したモンスターの死体が目に付くようになってきた。おそらくグラノスやその配下が食べ漁ったものだろう。


「ジンさん……こ、これを見てください……っ」


 小声でそう呟いたアイリの視線の先には、真新しい巨大な足跡があった。

 指は三本。深く抉れた大地から、足跡の主がかなり鋭い爪を持っていることは容易に想像できた。


「うわぁ……でっか……」


「ふむ……最低でも中型クラスはあるな」


 足跡はくっきりと残っており、つい数時間前にできたものであることが推察される。


「二人とも俺から離れないようにな」


「は、はい」


「し、しっかり守ってくれよ、おっさん」


「あぁ、任せておけ」


 それから地図を頼りに進んでいくと、周囲よりも一段高くなった台地が目に入った。

 切り立った台地のど真ん中に、尻尾を抱え込むようにして眠っている一頭の黒龍がいた。

 ゼルドドンより二回りは大きい――中型クラスの飛龍だ。


(ジグザドスさんから伝え聞いた特徴と一致するな……。グラノスと見て間違いないだろう)


 するとわずかな足音や呼吸音でこちらの存在に気付いたのか、黒龍がヌッと首をあげた。


「……来たか。招かれざる客よ」


 威圧感のある低い声が周囲に響く。

 非常に流暢な喋り方だ。

 かなり高度な知能を有していることは間違いない。


「お前がグラノスか……?」


「いかにも。我こそ大罪が一つ――憤怒のグラノス」


 吸い込まれるような漆黒の瞳が俺たちを睨みつける。


(この突き刺すようなプレッシャー……)


 長年の経験から、モンスターと対峙したときに何となくその強さがわかる。


(……参った……こいつは強いな)


 最低でも(・・・・)スラリンとリュークラスはある。

 つまり俺が戦った中でも歴代最高クラスの相手ということだ。


(ゼルドドンやヨーンとはまるで違う……)


「本当に同じ大罪なのか?」と確認したくなるほどだ。


「これはどうもご丁寧に。俺はジン、長年ハンターをやっているものだ」


 名乗られたからには、名乗り返すのが礼儀だ。


小人間(しょうにんげん)の名に興味はない。それより……赤龍が世話になったようだな。青龍と緑龍が怒り狂っておったぞ」


「ふむ……お前はそうでもないようだな?」


「……そう見えるか?」


 グラノスは歯を剥き出しにし、鬼の形相でこちらを睨み付けた。

 こいつはこいつでかなりお冠のようだ。


「……とは言っても、この世界は弱肉強食。赤龍が敗れたのは奴が弱かったから……特段お前たちを責めるつもりはない」


「そうかい」


「しかし……しかしだっ。配下の赤龍を殺されて報復も無しというのは……儂の面子が丸潰れだ。なぁ、そう思うだろう?」


 黒龍は首を左右に振りながら、大きくため息をついた。


「そういうわけでお前が肩入れしているユークリッド村の住人と、コソコソとくだらんことをしていたゴブリン共を皆殺しにすることにした。まぁこの世界は弱肉強食。弱い奴が悪いんだ。俺たちを責めないでくれよ?」


 そう言うとグラノスはクツクツクツと笑った。


(やはり意趣返しを計画していたか……)


 それにこいつはただ頭がいいだけではない。

 ずいぶんと『いい性格』をしているようだ。


「既に青龍と緑龍がいつでも小人間とゴブリンを襲えるように待機している。後はこのように――」


 そこまで言うとグラノスは大きく息を吸い込み、


「ジャラァアアアアアアッ!」


 空中に漆黒のブレスを打ち放った。


「儂が合図を出せば、殺戮ショーの始まりというわけだ」


 愉悦に顔を歪めたグラノスは、


「それならば問題ない――とっておきの二人を残してきてあるからな」


 青龍と緑龍がどれほどの強さかは不明だが、このグラノス以上ということはないだろう。

 それならばスラリンとリューならば、何の問題もなく対処することができるだろう。


「とっておきの二人ぃ……? あの小人間の娘たちのことか……?」


「ほぅ、どこかで見ていたのか? ずいぶんとこちらの情報を知っているようじゃないか」


「ふっ、この森には儂の軍門に下ったモンスターが山ほどいる。そこかしこに儂の目と耳があると思うがいい。……しかし、あの小さき二人が『とっておき』だと? それはただのハッタリであろう」


「どう判断するかは、お前に任せるよ」


 俺は短くそう伝えると会話を切り上げ、大剣を抜き放つ。


(これ以上、無駄話をしている時間はない……)


 物事には『万が一』ということがある。

 あの赤龍がたまたま戦闘が苦手な個体で、青龍・緑龍がグラノスに近しい戦力を有する可能性は……ゼロではない。

 ならばここは可及的速やかにグラノスを仕留め、スラリンとリューの応援に向かうのがベストだ。


「さて、早速で悪いが……狩らせてもらうぞ」


「ふっ……来るがいい小人間よ」


「それじゃ、遠慮なく」


 俺は地面が陥没するほどに強く蹴りつけ、一足で奴の懐にまで踏み込む。


「なっ!?」


「ぬぅんっ!」


 大上段からの振り下ろし。

 幾多のモンスターを狩ってきた、自慢の一撃が。


 ガンッ


 弾かれた。

 体重を十二分に乗せた一撃が――弾かれてしまった。


 これまでに味わったことのない奇妙な感覚が両の手を襲う。


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