十三:ゴブリン狩り
「さてと……洞窟に入る前に、光源を確保せねばならんな」
洞窟の中は暗い。
夜目の効く俺とリューだけならともかく、今回はザリとスウェンがいる。
(ゴブリンの劣悪な生活環境を考えると……。うっかり転んで怪我でもされるのは、コトだからな……)
傷口から雑菌が入り込み、思わぬ病気に繋がることもある。
(ちょうどいいことに木も大量に生えていることだし、松明でも作るとするか)
周囲に生えている木を触り、その乾燥具合を確かめていく。
「……ふむ、これがいいな」
何本かの木を触っていくと、松明づくりに適したものを見つけることができた。樹皮はかなり乾燥しており、水気がほとんどない。きっとこれならば、よく燃えてくれることだろう。
「よっこらせっと」
その木の枝をだいたい三十センチぐらいの適度な長さに折る。
「リュー、火を頼む」
「あいー」
彼女が口からポッと火を吹いたところに、先ほどの枝をかざせば――松明の完成だ。
「ありがとう」
「えへへ……どういたしまして……」
これでひとまずの準備は整った。
「それじゃ行こうか。――リュー、二人の護衛は任せたぞ」
「あいー」
「俺が先頭を行くから、ザリとスウェンは周囲を警戒しながらゆっくりと付いて来てくれ。くれぐれも足元には注意してくれよ」
「「はいっ!」」
そうして今しがた作った松明をリューに持たせ、俺たちは洞窟の中へと足を踏み入れた。
■
洞窟の中を真っすぐに進んでいく。
隊列は前から順に、俺・ザリ・スウェン、そして殿にリューを置いている。これならば背後からの奇襲にも問題なく対処ができ、安心して洞窟内を探索することができる。
予想していた通りに洞窟の内部は狭く、陽の光の差し込まない漆黒の世界が広がっていた。
しかし――。
(……妙だな)
先ほどからゴブリンの死体を一匹たりとも見ていない。
ゴブリンは別にそれほど頑強な種族ではない。むしろその体は弱く、人間の子どもぐらいの強度しかもたない。加えて奴等はひどい衛生環境のもと生活しているため、すぐに大きな病気にかかる。そのためゴブリンの住処には、必ずといっていいほど乱雑に放置された奴等の死体があるはず……なのだが……。
(死体がないうえに……何より綺麗過ぎる……)
奴等は動物の肉を好み、獲物を捕まえては巣に帰って食い散らかす。
しかし、ここまでの道のりで食いカスのようなものは全く落ちていなかった。食べた後の処理をきっちりしている――つまり、ある程度衛生に関する知識を有しているということだ。
(この世界のゴブリンは、想像以上に知恵があるのかもしれんな……)
知恵を持つモンスターはそれだけで討伐難易度が格段に跳ね上がる。
(少し……警戒する必要があるな……)
いつものゴブリンとは違う。
気を引き締め直し、しばらくの間、真っ直ぐ道なりに進んでいくと。
(……出たな)
前方に十二の小さな影を捉えた。
緑の皮膚に発達した犬歯。身長はおよそ百二十センチほど、間違いない、ゴブリンだ。
「ぎ、ギギ……ッ。人間、何しにき、た……ッ!」
ゴブリンは右手に小さなナイフを持ち、こちらの用件を尋ねてきた。
どうやら意思の疎通は問題ないようだ。それもゴブリンにしては流暢に言葉を操る。やはりかなり知能の高い種族のようだ。
「こちらに敵対する意思はない。お前たちの長と話しがしたいんだ」
俺は一歩前に踏み出し、こちらの要求を簡潔に述べた。
しかし。
「帰れッ! 帰、れッ!」
「何モ、ここには無、いッ!
「人間はッ、帰レッ!」
ゴブリンは短い刀を乱暴に振り回しながら、口々にそう言った。
「ふむ……下っ端では話し合いにもならんか……」
言葉は操れるものの、そこまで理性的な思考は持ち合わせていないらしい。
(やはり部族の長でないと、まともな会話は難しい、か……)
ゴブリンは必ずと言っていいほどに部族単位で行動する。その部族を率いるのは、集団内で最も知能の高いゴブリンだ。この部族は下っ端ですら言葉を解する。その族長ともなれば、まともな会話も可能だろう。
「とにかく、少し邪魔するぞ」
俺がそうして一歩前へと進むと。
「ぎ、ギギギッ! ガーッ!」
ゴブリンたちは何故かナイフを鞘に仕舞い込み、裸一貫でこちらへ向かってきた。
「……ん?」
いったい何を企んでいるのやら。
警戒しつつも、俺は素手で応戦する。
「ゲギャッ!?」
「グモッ!?」
「ガギ、ィ……ッ!?」
うっかり殺してしまわないように細心の注意を払いながら、一体一体確実に意識を刈り取っていく。
約半数が戦闘不能に陥ったところで、
「つ、ツヨい……っ!?」
「に、逃げロ……ッ!」
「か、勝てない……ッ! こいツ、人間じゃナい……ッ!」
戦力差を理解したのか、奴等は洞窟の奥へと逃げていった。
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