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最強のおっさんハンター異世界へ~今度こそゆっくり静かに暮らしたい~  作者: 月島 秀一
第五章:モンスターだらけの世界

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二、まるで活気のない村


(さて、そろそろいくか)


 いつまでもこんな草陰でジッとしていても仕方がない。

 当然リスクはあるが、いち早く正確な情報を集めるためにも、この世界の原住民とは積極的に交流を持つべきだろう。


「スラリン、リュー。間違ってもこちらから手は出すなよ?」


 こう見えて気の短い二人には、念のため注意をしておく。


「りょーかいっ!」

「あいー」


 二人が自信満々に頷いたことを確認した俺は、わざと足音を立てて老人の元へと近付く。


「……何奴っ!?」


 すると俺たちの足音に気付いた老人が鋭い視線をこちらに向ける。


「待ってください、俺たちは旅の者です」


 敵意がないことをアピールするために、両手を開いたまま上にあげた。


「ほぅ……この辺りで旅か、珍しいな」


 やはり疑っているのだろう。

 彼は俺たち全員を見定めるようにジロリと見る。

 そしてリューの腰に生えた一対の翼に目を留め――大きく頭を振った。


「……まぁよかろう。どのみちもう終わったことだ」


(『もう終わったこと』……?)


 老人は何やら意味深なことを呟いた後、こちらに背を向けて歩き始めた。


「こっちにきなさい。村へ案内しよう」


 どうやら少しは信用してもらえたようだ。


「ありがとうございます」


 俺はペコリと頭を下げ、老人の後ろをついて道なりに進んでいく。

 彼は俺たちのことを何も聞かなかった。スラリンのような幼い見た目の子を連れている理由も、背に翼の生えているリューのことも、どこからどこへ向かっているのかも。ただ黙々と村へと続く道を、無言で歩いていった。


(……何か会話の糸口が欲しいな)


 こうもお互いに黙りこくっていては、何も情報が手に入らない。

 向こうが沈黙を貫くならば、こちらからアプローチをするべきだろう。


「――ところでつかぬことをお伺いしますが、先の男性は……?」

「……なんだ、聞いておったのか」


 老人はピタリと立ち止まり、チラリとこちらを見た後に再び歩き出した。


「ふん、村の決定すら守れん馬鹿者だ。今頃は龍神の餌になっているだろう。全く、愚か者め……」


 そういった彼はどこか寂し気で悲し気で、どこか怒っているように見えた。


(ふむ、やはり事情がありそうだな……)


 おそらくその龍神とやらが、この世界に出現した大罪だろう。

 彼の語調からは、龍神への隠しきれない怒りを感じる。

 そんなことを考えていると、前方に村が見えてきた。


「何もない村だが、ゆっくりしていくといい」


 村人は貫頭衣を少しアレンジしたような服装。一見したところ男性は茶色、女性は白色の貫頭衣を着ている。建物はどれも地面を掘り、その中に柱を建てて家の基礎を作り、藁と土で塗り固めた屋根――竪穴式住居のような感じだった。


(しかし、いやに静かな村だな……)


 ちょうど昼頃だというのに、村はやけに静かだった。別に人が全くいないというわけでも、病が蔓延しているというわけでもない。彼らの顔色自体は悪くない。悪くないが――表情にどこか暗い影があった。

 老人はキョロキョロと何かを探すように左右を見わたし、その後一軒の家を指差した。


「寝床は……そうだな、あそこの家を自由に使うといい」

「いいのですか?」


 さすがに少し太っ腹過ぎやしないだろうか?

 それに俺たちのような得体の知れない旅人をこんなにすんなりと村に招き入れるのは、少し警戒心が薄すぎるのではなかろうか?


「あぁ、気にせんでよい……。あそこはもう空き家になってしまったからな」


(……『なってしまった』?)


 どこか奥歯にものが挟まったような言い方だった。

 持ち主が病気や何らかの事件などで亡くなってしまったのだろうか?


「そうですか、助かります」


 まぁ余所者である俺たちがあまり首を突っ込むような話ではなさそうなので、追及することはしなかった。


「……ところでお主ら。どこから来たのかは知らんが、行きしなに祭壇は見んかったか?」

「祭壇……? いいえ、見てませんが」

「そうか……。いや、忘れてくれ」


 そう言うと老人は、まるで逃げるようにして一軒の家――おそらくは老人の自宅であろう家屋へと入って行った。

 聞きたいことは山ほどあったんだが……。まぁ、行ってしまったものは仕方がない。


「それじゃ、あの老人の好意に甘えさせてもらうとしようか」


 俺はスラリンたちを引き連れて、空き家へと向かった。


「いっちばーんっ! って、あれ? 思ったより綺麗な部屋だねー」


 空き家の中へ一番乗りで突撃したスラリンが、開口一番にそんなことを言った。


「……確かに……まるで誰かが住んでるみたい」

「ちょ、ちょっと、リュー。変なこと言わないでよ……。あたし、そういうちょっと怖いの苦手なんだけど……」

「でも、空き家にしては少し奇妙ですね……」


 スラリンたちと同様に、俺もこの部屋に奇妙な違和感を覚えた。

 念のため耳や鼻に意識を集中させ、誰かが隠れていないかなどを確認する。


(……ふむ。やはり誰もいないようだな)


 物音一つしない。心音や呼吸音さえも聞こえないとなると、この家に誰もいないことは確実だ。

 しかし、どういうわけかここには『生活のにおい』が強く残っていた。


(やはり、つい最近まで誰かが住んでいたのだろうか?)


 室内には、以前住んでいた人のものと思われる家具がそのまま残されており、他にもここの村人が着ている貫頭衣が丁寧に畳んで置かれている。


(ふむ……)


 部屋の隅に置かれた木製の棚、その天板に指を走らせる。


(……全くと言っていいほどに埃がつかない)


 よく掃除が行き届いている。それに部屋に置いてある貫頭衣は白色。

 以前この部屋に住んでいた人は、女性である確率が高い。 

 俺の脳裏にこの世界に来てから起きた様々な出来事がよぎる。

 森の中で激しく口論になっていた老人と若者。まるで活気のない村人。老人の言葉の端に見え隠れする不穏なワード。そしてこの奇妙な空き家。


(……やはり、この村には何か(・・)あるな)


 疑念が確信へと変わる。

 この村では既に何らかの事件が起きている。そしてどういうわけか、あの老人はそれを俺たちに隠した。ここまでは間違いないだろう。


(すぐにでも老人とコンタクトをとりたいところだが……)


 さっきからどうしても引っかかっていることが一つある。まずはこれ(・・)を解消してからでないと、何というかスッキリしない。

 脳内で次の行動方針が定まったところで、ゴホンと咳払いをする。


「ゴホン。それじゃ早速情報収集を……といきたいところだが、ここで少し自由時間を取ろうと思う」

「自由時間、ですか……?」


 不思議そうにアイリが首を傾げた。


「あぁ。といっても魔法の使えないアイリとヨーンを一人にするわけにはいかない。この村が安全だという保障はどこにもないからな。スラリンはアイリと、リューはヨーンと一緒に動くようにしてくれ」

「りょーかい!」

「……もちろん……いいよ」

「お手数をおかけして、申し訳ないです……」

「うんうん、ちゃんと守ってくれよー」


 全員の了解が無事に取れた。これで少しの間、自由に動くことができる。


「それじゃ一時間後ここに集合することにしよう――解散」


 そうしてスラリンたちと別れた俺は家を出て――一人森の中へと入って行った。

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