八、手紙
その後、みんなでワイワイと食事をとった俺たちは現在――寝室で仲良く他愛もない話に花を咲かせていた。既にやるべきことは全て終えている。後は明日に備えてグッスリと眠るだけだ。
「ふわぁ……」
会話がひと段落したところで、スラリンが大きなあくびをした。
チラリと横目で時計を見れば既に夜の十一時。今となってはすっかり朝型の生活になったスラリンとリューには、そろそろ厳しい時間帯だろう。
「さて、もういい時間だし――寝るか」
「そうですね、夜更かしは健康によくありませんから」
「さんせーい……」
「うん……眠い……」
「そうだねー。あたしもそろそろ睡魔がきてるよー……」
今日は丸一日遊び倒したので、いつもよりもスラリンもリューも眠たそうだった。
「よっこらせっと」
俺が掛け布団についたシワを伸ばし、寝る準備を整えていると――。
「では、始めましょうか……」
アイリの発言を皮切りに、先ほどの眠そうな表情はどこへやら……。スラリンとリューは険しい顔つきで、音もなく立ち上がった。その目にはギラギラとした強い闘志が宿っている。
(……今日もやるのか。全く、なかなかどうして飽きないものだな……)
一人状況を理解できていないヨーンは、助け舟を求めるように俺に質問を投げかけた。
「ねぇ、おっさん。……何これ?」
「俺と一緒にベッドで寝る権利を賭けた勝負……らしい。……正直、俺にも何がしたいのかよくわからんというのが本音だ」
肩をすくめながら、率直な感想を述べる。
するとヨーンは、俺とスラリンたちを何度か交互に見比べ、何か納得したようにポンと手を打った。
「あー……なるほど、そういうことね」
「ん? 何かわかったのか?」
「まぁねー。……でも、おっさんは知らなくてもいいよー」
「何だそれ……?」
そんなことを言われるとますます気になってしまう。
「なぁ、それはどういう意――」
発言の真意を問いただそうとヨーンに声をかけようとするが、その前に彼女はスラリンたちの輪に入ってしまった。
「ちょっと待ったー」
「……何でしょうか?」
「……どうしたの、ヨーン?」
「急に……何……?」
三人からの鋭い敵意を受け、ヨーンが一歩たじろぐ。
「えーっとねー。それ、あたしも入っていい?」
「駄目です」
「いいと思う?」
「……駄目」
三人はヨーンの提案を即座に否決した。
一秒の間もない完全な否決。審議する時間すら無駄だと言うことだ。
「ひ、酷いよー。おっさんも、スラリンたちに何とか言ってよ!」
そう言いながらヨーンは俺の背に隠れて、スラリンたちを指差した。
「ふむ……まぁ、仲間外れはよくないぞ」
完全な平等主義者というわけではないが、せめて機会は均等であるべきだと思う。
「……っ」
「ぐっ、この……っ!」
「泥棒……サキュバスめ……っ!」
「へへーん」
三人が敵意のこもった鋭い視線を向けるが、ヨーンはどこ吹く風といった調子でそれを受け流した。
「こらこら、喧嘩をするんじゃない。――あーっと……今日はじゃんけんか? ほら、早くしないと寝る時間が無くなってしまうぞ?」
これ以上争いが大きくならないうちに、少し強引に話を進めてしまう。
「……仕方ない、ですね」
アイリが「むぐぐ」と悔しそうに折れたのを皮切りに、スラリンとリューも渋々ヨーンの参戦を承諾した。
「それじゃ、今回は俺の掛け声でいくぞ? ――さいしょはグー、じゃんけんっ!」
「「「「ポンっ!」」」」
一斉に四つの手が出され――。
「や、やりました!」
「う、うそ……っ!?」
「そんな……馬鹿なことが……っ」
「おっ、勝っちゃった? 悪いねースラリン、リュー」
アイリとヨーンが『グー』、スラリンとリューが『チョキ』だった。
結果は、アイリとヨーンの勝利ということになる。
「それじゃ、公平なじゃんけんの結果――今日ベッドで一緒に寝るのは、アイリとヨーンに決定だな」
「ふふっ。お邪魔させていただきますね、ジンさん」
「やりーっ」
アイリとヨーンが上機嫌にベッドで横になり――。
「新参二人組めが……っ」
「到底……許せる行いではない……っ」
スラリンとリューは呆然と立ち尽くし、血涙を流しそうなほどに血走った目を勝者に――特にヨーンへ向けていた。
「……異議あり! アイリはともかくとして、ヨーンはリンたちに対する嫌がらせの意味合いが大きいと思いますっ!」
「右に……同じ……っ! ここはやはり……ヨーンを除いての再戦が望ましい……っ!」
二人は揃って右手を高くあげ、異議申し立てを行った。
しかし――。
「却下。スラリンとリューも納得した上での勝負だっただろう?」
優しく二人に注意をしつつ、彼女たちの訴えを棄却した。
「「ぐ、ぐぬぬ……っ!」」
二人は歯を食いしばりながらも少し納得してくれたのか、おずおずと自分の敷布団の準備を始めた。
「それじゃ――おやすみ」
先にベッドに横になっているアイリとヨーンの間に、すっぽりと収まるように上を向いて寝転び、ゆっくりと目を閉じた。
「うふふ、ジンさんのにおい……癒されます……」
「おっさん、筋肉すごいなー……」
「こらこら、そんなにベタベタと触ってくれるな……。眠れないだろう……ふわぁ……」
「「ぐ、ぐぬぬぬぬ……っ!」」
その後、どこからともなく聞こえる歯ぎしりの音を聞きながら――俺は意識をそっと手放した。
■
その翌朝。
みんなで朝メシを取り終え、今日は何をしようかと考えていると――。
家の扉がコツコツとノックされた。
「――すみません。ジンさんは、いらっしゃいますか?」
続いて、俺の名を呼ぶ女性の高い声が聞こえてきた。
(はて? 今日は誰かが訪ねてくる予定はなかったはずだが……)
特に何かを注文した覚えもないし……。こんな朝早くからいったい誰だろうか?
そんなことを思いながら、玄関の扉を開けると――。
「はい、どちらさまで――おや、あなたはギルドの……こんな朝早くからどうしたんですか?」
そこにはギルドで何度か顔を見たことがある受付嬢の姿があった。彼女は大事そうに一枚の封書を両手でしっかりと握っている。おそらくそれを俺に渡すように、とタールマンさんから言われたのだろう。
「早朝から申し訳ございません……。タールマンさんから、大至急こちらの封書をジンさんに届けるようにと仰せつかって参りました」
「なるほど……。わざわざ、ありがとうございます」
彼女から受け取った封筒を開き、中に入っていた手紙に目を通す。
「……なるほど、確かにこれは異常事態だ」
「な、何かまずいことでも書かれてあったのでしょうか……!?」
「まずいというよりは、不審なことですね……。――申し訳ないのですが、タールマンさんに『準備が完了し次第、すぐに向かいます』と伝えていただいてもよろしいでしょうか?」
「は、はい! かしこまりました! それでは、失礼いたしますっ!」
そういうと受付嬢は、ペコリと頭を下げ、早足でギルドへと戻っていった。
「さてさて、それにしてもコレはいったいどういうことなのか……」
俺は手元の手紙に目を落とし、再び首を傾げた。
作者、39度を超える高熱で倒れています……(現在進行形)。風邪が治ったら更新頻度上がっていくので、もう少々お待ちください……。
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