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最強のおっさんハンター異世界へ~今度こそゆっくり静かに暮らしたい~  作者: 月島 秀一
第四章:おっさんの世界での日常

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七、お風呂と裸


「ゴホン。さて、これが――俺の作った作品だ」


 俺は一つ咳払いをして、スラリンたちに自信作を披露する。


「こ、これは……ジンさんの大剣ですね! お上手ですっ!」

「おーっ! いつも背負ってる奴だねーっ! かっこいいーっ!」

「荒々しくも……力強い……っ!」

「おっさん、意外に手先が器用なんだなー」


 俺が作品のテーマに選んだもの――それは長年ハンター生活を共に過ごしてきたこの|大剣(相棒)だ。ハンターの道に進むと決めた時に、母親から渡された大事な一品。いったい何で出来ているのか、無茶な扱いをしても刃こぼれ一つしない。


(ふむ、どうやら好評のようだな……。頑張って作った甲斐があったというものだ)


 そうして俺の大剣の観賞会も終わり、次はリューの作品へと移る。


「これが私の……自信作……っ!」

「こ、これは……俺、か……?」


 リューに案内された先には――おそらく俺をモチーフにしたと思われる一体の砂像があった。


「……正解っ! かっこいい……でしょ……?」


 彼女は自信ありげにこちらへ視線を向ける。

 しかし――。


「え、えーっと……なかなか前衛的でいい、と思います……」

「いやーこれは……」

「何というか……ねぇ?」


 みんなの反応はあまり芳しくなかった。

 それもそのはず。彼女の作った像は、顔のパーツが福笑いのように左右非対称となっていた。加えて、おそらく服のしわをイメージしたのであろう。胴体のあたりに奇妙なギザギザの紋様が刻まれている。後ろに背負った大剣でモチーフが俺だということが、かろうじてわかるぐらいだ。


「リュー、お前……」

「どうかな……ジン……?」


 彼女は期待半分、緊張半分といった表情で俺の顔を見上げる。

 そして俺は――。


「――素晴らしい作品だな! ありがとう!」


 そんなリューの頭を優しく撫ぜ回した。

 すると彼女は少し固かった表情をにへらと緩ませて、嬉しそうに笑った。


「えへへ……」


 肝要なのは、その作品の完成度ではない――誰を思い、どんな気持ちで作ったのかということだ。


「それにしても特徴をとらえたいい作品だな」


 俺からすればこの作品は百点満点――これ以上望むべくもない素晴らしい一品だ。

 そうしてしっかりとリューの作品をその目に焼き付けた俺は、最後にスラリンの作品を見に行った。


「ジン、見て見てーっ! じゃーんっ! ――ラモザリウスっ!」


 彼女が自信満々に見せた作品は、高さ十メートルを越える巨大なものだった。


「ふむ、いい出来だ……」

「こ、これは何かのモンスター……でしょうか?」

「ラモザリウス……けっこう似てるね……」

「でっか……。というか凄いクオリティだね……」


 スラリンの作ったラモザリウスは、あわや本物と見まがうばかりの出来栄えだった。


(外殻には岩と草……それに木まで使っているのか……。凄まじい手の込みようだな)


 ラモザリウス――一見すると山のようにも見える巨竜種だ。鉄鉱石や石炭といった鉱物を好んで食し、これらを求め各地を亀のようにゆっくりと移動する。生物を襲うことこそないが、ラモザリウスの進路上にある村は甚大な被害を受ける。比較的に小さな幼体であってもS級クエスト。成体であれば特級クエストに分類される危険な個体だ。ちなみにスラリンの大好物でもある。


「ねーねー、ジン。食べていい? 食べていい!? リン、もう我慢できないよーっ!」


 彼女の体から黒い影が何本も漏れ出し、じたばたと悶え苦しんでいるように活発に動き回った。砂で出来てるとはいえ、大好物を目の前に興奮を隠せないようだ。


「あぁ、たっぷりと食べるといい」

「やったーっ! それじゃ――いっただっきまーすっ!」


 そういってスラリンは十数本の黒い影を伸ばし、ラモザリウスを模した像をおいしそうに食べ始めた。


「おいしーっ!」


 しかし、スラリンが下の方からばかり食べていったために、像はぐらりと右へ傾いていき、そして――。


「おーい。そっちにいったぞ、ヨーン」

「ちょ……え、嘘……。い……いやぁああああああっ!?」


 次の瞬間、スラリンの傑作ラモドドスがヨーンのいる方へ崩れていった。

 魔法で消し飛ばせばいいものを、どういうわけか彼女は後ろを向いて全力で走りだした。ついさっき聞いたことだが、ヨーンの肉体のスペックは普通の女の子と変わらないらしい。そんな彼女が逃げおおせるわけもなく、あっという間に砂の濁流に飲み込まれてしまった。


「よ、ヨーン!? おい、ヨーンっ!」


 大声で彼女に声をかけるが、返事は一向に返ってこない。

 慌てて大剣を引き抜き、目の前に広がる大量の砂を吹き飛ばそうとしたそのとき――。


「ジンさん、駄目です! ヨーンさんが死んでしまいますよっ!?」


 アイリが顔を青くして、俺の背中に抱き着いた。


「ぐっ……スラリン! 急いでこれを食べ尽くせ! 間違ってもヨーンは食べるなよ!」

「りょ、了解っ!」


 スラリンは慌てて影の本数を増やし、上部から探るよう慎重にかつ素早く砂を食べていった。そして――。


「あ、あちちっ!」

「いたかっ!?」


 影の先を見れば灼熱の鎧をまとったヨーンが姿勢を低くしたまま、横ばいになっていた。どうやら寸前で防御系の魔法を唱えていたようで、幸いにして怪我をしている様子はない。


「大丈夫か、ヨーン?」


 すぐに彼女の元へと駆け寄り、優しく声をかけると――。


「なんで……あたしばっかり、こんな目に……」


 涙目のヨーンがポツリとそう呟いた。

 その後、「どうして魔法を使って、倒れてくる砂像を消し飛ばさなかったのか?」と問いかけると「こっちの世界では、そんな強力な魔法はそう何度も使えない。あたしはもう、あの世界にいたときほど強くない」とのことだった。何でも大罪は、破滅を言い渡された世界でこそ莫大な力を振るえるが、それ以外の世界では大きな弱体化を強いられるらしい。



 そんなこんながあって心に大きな傷を負ったヨーンは現在、大きな木の根元でボーッと虚空を見続けているのだった。


(さて、いったいどうしたものか……)


 ガシガシと乱暴に頭をかきながら、ヨーンの心の傷を癒すいい方法はないかと考えていると――とある名案を思い付いた。


「――大丈夫だ、ヨーン。俺の目が黒い内は、何があってもお前を守ってやる」

「……ほんとに?」

「あぁ、本当だ。その証拠に――ほら」


 俺は彼女に向けてスッと小指を出した。


「……何これ?」

「指切り……だったか? 嘘ついたら確か、針を飲むんだろう?」

「……あはは。でも、いいの? ……千本だよ?」


 ヨーンは一瞬驚いた表情を浮かべ――クスリと笑った。


「ふっ、言っただろう。千本でも二千本でも飲んでやるとな」

「そうだったね、それじゃ――」

「「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲んで死ね! 指切った!」」


 今度は二人で指切りの口上を読み上げ、お互いの小指を離した。


「さて、それじゃ家に帰ろう」

「うん」


 そうして俺は泥だらけのヨーンと手を繋ぎ、スラリンたちと一緒に自宅へと帰った。



「とうちゃーくっ!」

「――こら、ちょっと待て」


 自宅に着くや否や、すぐさま玄関を駆け上がろうとしたスラリンの首筋をがっしりと掴む。


「家に入るのは、ちゃんと服についた汚れを払ってからだ」


 そんな泥だらけのままで入られたら掃除が大変になる。


「はーい!」


 スラリンは元気よく返事をすると、パッパッと衣服や手足についた砂や泥を払った。そうして綺麗になった彼女は、元気よく――。


「おっふろーっ!」


 と言いながら、廊下を走っていった。


「スラリンは本当に元気がいいな……。さて俺はメシの用意でもしておくから、リューたちも風呂に入ってくるといい」

「あいー」

「お風呂かー。いいねー」


 リューとヨーンが上機嫌に風呂場へと向かう中、アイリだけがポツリとその場に残った。


「ん? どうしたアイリ?」

「あの、ジンさん。もしよろしければ私もお手伝いを――」

「それは大丈夫だ、アイリ!」


 非常にありがたい申し出だが、即座に丁重に丁寧にお断りをさせていただいた。


「そ、そうですか?」

「あぁ! 俺は今メシを作りたくてウズウズしていてな! 是非とも一人で作りたいんだ! それに、アイリもいろいろとあって疲れているだろう? ここはどうか俺一人に任せてくれないか!?」


 あの悲劇(・・・・)を繰り返してはならない。俺はその一心で、必死に彼女を説得した。


「……そうですか」


 するとアイリは暗い表情でそう言った。


「あー……いや、我がままを言ってすまないな」

「いえ、そんなことはありません! ジンさんの負担を少しでも減らせればと思ったのですが……。余計なお節介になってしまいました、こちらこそ申し訳ありません」

「そんなことはないぞ。アイリが家事を手伝ってくれるのは本当に助かっている。それと、そこまでかしこまらないでくれ。スラリンとリュー……ほど自由にされても困るが、もう少し気楽にしてくれると助かる」

「気楽に……ですか……?」

「あぁ、そうだ。何と言ったって、俺たちはもう家族だからな」


 血こそ繋がっていない。何なら種族すら違っている。それでも俺はスラリンやリュー――もちろんアイリやヨーンのことも本当の家族のように大事に思っている。


「家族……ですか……。ふふっ、やっぱりジンさんは優しいですね。――それではお言葉に甘えて、先にお風呂いただいちゃいます」

「あぁ、ゆっくりと疲れを取ってくるといい。」


 彼女は軽くペコリと頭を下げると、スラリンたちのいる風呂場の方へと向かった。


「アイリ……本当にいい子なんだがな……」


 如何せん料理の腕前だけは絶望的にも程がある……。あの暴食の王――スラリンをして「食べ物じゃない」と言わしめるその腕は、もはや兵器と呼んで差し支えないだろう。


「今度、時間をとってゆっくりと教えてみるか……」


 そう何度も手伝いを断り続けていては、彼女とて不審に思うだろう。問題は根本から断ち切らなければならない。そのために付きっきりで、基礎の基礎からしっかりとメシの作り方を教えるのが一番だ。


「まぁ、それは今度にするとして……。今日のメニューはどうするかな……」


 肉料理がいいか魚料理がいいか。そんなことを考えな厨房へ向かっていると――。


「なーなー、おっさん」


 風呂場からひょっこりとヨーンが顔を出して、俺のことを呼んでいた。

 既に上の服を脱いでおり、肩あたりの白い肌がばっちり見えてしまっている。


「どうした、ヨーン。肩口が見えてしまっているぞ?」

「えへへ、おっさんも一緒にどう?」


 そんなことを言いながら、いたずらっ子のようにクスクスとヨーンは笑った。

 すると――。


「いいねー、ジンも一緒に入ろうよ!」

「一緒に流しっこ……しよ……?」

「私も、構いませんよ……?」


 スラリンとリューが一糸まとわぬ姿のまま、脱衣所から飛び出してきた。

 当然、スラリンの控えめな胸もリューの豊かな胸も露わになっている。風呂場からの湯気のおかげでぼんやりと隠れはしているが……非常によろしくない。

 一方のアイリはヨーンと同じように顔だけをこちらにのぞかせている。しかし、それでも肩から鎖骨のあたりがくっきりと見えてしまっている。

 俺は右手で自身の両目を隠し、後ろを向く。


「こらこらおっさんをからかうんじゃない。ほら、さっさと風呂に入れ」


 後ろを向いたまま、「しっしっ」と手首を振ると「はーい」という返事と共にスラリンたちは風呂場へと戻っていった。


「全く……何を考えているんだか……」


 俺は大きなため息をつき「少し風紀というものを見直した方がいいのか?」そんなことを考えながら、厨房に向かった。

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