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最強のおっさんハンター異世界へ~今度こそゆっくり静かに暮らしたい~  作者: 月島 秀一
第四章:おっさんの世界での日常

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六、砂遊び


 ひとしきり空の散歩を終えて、十分に満足したリューは自宅前にふわりと降り立った。


「あっ」


 するとちょうど洗濯物を干してくれていたアイリが笑顔で出迎えてくれた。


「おかえりなさい、みなさん」

「ただいま、アイリ」

「たっだいまーっ!」

「今度は……アイリも行こうね……っ!」

「……ただいま」


 俺がリューの背中から飛び降り、大きく体を伸ばしていると――。


「ジンさん、あの……ヨーンさんはどうしたんでしょうか?」


 アイリが小さな声で耳打ちをしてきた。

 一人この世の終わりのような表情を浮かべるヨーンに敏感に気付いたのだろう。


「何というか……まぁ、いろいろとあってだな。今は少し傷心中なんだ、優しくしてやってくれると助かる」

「……? わかりました」


 彼女はそれ以上詳しく事情を探ることなく、素直に頷いてくれた。


「さて、それじゃ次は……砂遊びだったかな?」

「うんっ! 早く行こーっ!」

「レッツ……ゴー……っ!」


 スラリンとリューは無邪気に笑いながら俺の両手を引っ張った。


「待て待て、そう()かしてくれるな。――おーい、アイリも一緒に来ないか?」


 気の早い二人を落ち着かせ、俺は大きな声で彼女へ呼びかけた。いつも家事を手伝ってくれるのは本当に助かるが、誰にだって息抜きは必要だ。根を詰め過ぎては体を壊してしまう。何事も適度にやることが一番だ。


「アイリもおいでよーっ!」

「一緒にお城……作ろ……?」


 スラリンとリューも手招きしながらそう言った。


「そうですね……(砂遊びなら危険もないはず……)。お洗濯も終わったことですし、私もご一緒させていただきます」

「おぉ、そうか。きっと楽しくなるぞ」


 アイリが加わったところで――俺は一同から少し抜け出し、ヨーンに声をかける。


「それでヨーンは……どうする? 一緒に来るか? それとも家で休んでおくか?」


 スラリンたちと違って、ヨーンとはまだ知り合って間もない。嬉しいとき、悲しいとき――今のように心に傷を負ったとき、どういった対応をとるべきなのか、わからない。

 傷心中の対応はスラリンならば、おいしいご飯を作ってあげる。リューならば、黙って傍に一緒にいてあげる。アイリならば、話しをずっと聞いてあげる。ヨーンならば……どうすればいいのだろうか。

 答えのわからないまま、とりあえず声をかけると――。


「……私も行く」


 ヨーンはポツリとそういった。


「そうか! それじゃ一緒に行こう!」


 元気が出るように少し明るめの声を出し、俺はヨーンの手をとった。


「……うん」


 そうして俺たちは、自宅から西へ進んだところにある巨大な空き地へと向かった。それからみんなでワイワイと楽しく話しながら歩くことしばし。


「――さぁ、ついたぞ」

「とうちゃーくっ!」

「久しぶりに……来た……っ!」

「うわぁ、広いですねー!」

「へぇ……悪くないね」


 スラリンとリューの遊び場として、大金をはたいて買った広大な空き地に到着した。

 その広さたるや人化を解いたスラリンとリューが激しい運動をしても全く窮屈に感じないほどだ。俺も体力維持のために、たまにここでトレーニングをしている。


「さて、こっちだ」


 そして俺は広場の一角――大量の砂が堆積した場所へとみんなを連れてきた。この砂は俺がスラリンの『食料兼遊び道具』として大量に買い付けたものだ。


「えへへぇ、おいしそうー!」

「腕が……鳴る……っ!」

「すごい量の砂ですね! それにサラサラ!」

「ちょっとワクワクしてきたかも」


 大量のきれいな砂を見たスラリンたちのテンションが上がる。ヨーンも少しずつ元気を出してくれているようで何よりだ。


「それじゃ、早速砂遊びを始めるか。――まずは何をする? 砂で像でも作るか?」

「さんせーいっ!」

「歴史に残る……傑作を……っ!」

「いいですね!」

「おもしろうそうだね!」


 みんなが賛成してくれたので、そのまま砂像(さぞう)作りのルールを簡単に決定する。


「よし、それじゃ制限時間は一時間。作品を作り終えたら、この場所に集合すること。その後、みんなで完成した作品の鑑賞会といこうか」

「「「「はーい!」」」」


 作業に取り掛かってから、およそ五十分が経過したころ。


「ふぅ……こんなものかな」


 俺は額の汗をぬぐいながら、完成した力作を見上げる。


(ふむ……我ながら悪くない出来だ)


 久々の砂像作りだったが、腕はまだまだ鈍っていないようだ。


「さて、そろそろ時間だな……。集合場所に戻るとするか」


 最後にもう一度、完成した作品を上から下までじっくりと見て――俺は集合場所へと向かった。

 集合場所には既にアイリとヨーンの姿があり、二人で仲良く談笑していた。どうやらヨーンの沈んだ気もすっかりと晴れてくれたみたいで、子どものような笑顔で笑っている。


「――あっ、ジンさん! 完成したんですね!」

「おっさん、おかえりー」


 二人の呼び声に、俺は右手をあげて軽く返事を返す。


「二人とも早かったな。ふむ、スラリンとリューはまだ作業中か」

「はい。おそらくもう少しだと思うので、このまま待っていましょうか」

「なーに、作ってるんだろうなー」

「ふっ、楽しみだな」


 それからスラリンとリューの帰りを待つこと、およそ十分。


「おっ、きたきた」


 服と手足が泥だらけになったスラリンとリューが駆け足でやってきた。


「ジーンっ! できたよーっ!」

「激闘……だった……っ!」


 二人は「何を作ったのか」を隠したまま、作品の完成度の高さを興奮気味に熱く語った。


「――ふふっ、そうか。それは楽しみだな。さて、それじゃ完成した順で見ていくとしようか。最初に完成したのはヨーンだったな」

「おっ、いきなりあたしのかー。大丈夫かなー、目が肥えちゃうかもしれないよー?」


 得意げな顔つきで、ヨーンはそう言った。


「おっ、中々自信たっぷりだな。これは期待していいんだな?」

「もっちろん! そんじゃ、こっちついてきてー」


 そうしてヨーンを先頭にして、俺たちは彼女の作品のある場所へと向かった。

 そのままほんの少しだけ歩いていくと――。


「ほぅ、これは……」


 ずいぶん見覚えのある高さ二メートルほどの一つの砂像が目に入った。


「すごいでしょー? あたしのゴーレムだよ!」


 そういってヨーンは自慢げに胸を張った。


「確かに……いい出来栄えじゃないか」


 まるで動き出しそうなほどに精緻な、砂で作られた等身大のゴーレム像だ。赤色の塗料などでマグマを表現すれば、ヨーンが使役する本物のゴーレムと見まがうぐらいにはそっくりである。


「すっごーいっ! やるね、ヨーンっ!」

「初めてにしては……悪くない……」

「ヨーンさん、お上手ですね!」


 スラリンたちに褒められたヨーンは、嬉しそうにはにかんだ。


「えへへ……。そうでしょ、そうでしょー。もっと褒めていいよー!」


 そうしてみんなでゴーレム像の観賞を楽しんだ俺たちは、次にアイリの作った作品を見に行った。


「ごほん……こちらが私の作品になります」


 そしてアイリの背から姿を現したのは、小さいながらも非常にリアルに作られた木々の砂像だった。


「なるほど、エルフの森か……。それにしても素晴らしいクオリティだな」


 木々には苔や小動物・ツタなどが表現されており、細部にまで気の届いた素晴らしい一品だ。


「こ、細かいっ!? よくこんなすごいの作れたねーっ!」

「これまた……ハイレベル……っ!」

「へぇ……アイリもけっこうやるじゃん」


 小さな砂像をぐるりと囲んで、思い思いの感想を述べていく。


「ありがとうございます。少し気合を入れて作りました」


 アイリは少しだけ、気恥しそうにしながらも笑顔でそう言った。


「では、次はジンさんの作品ですね!」

「あぁ、そうなるな」


 自分の作ったものを人に見られるのは、何というか気恥かしさがあるな……。そんな思いを抱きつつ――。


「それじゃ、いくか」


 俺は少しだけ重たい足を伸ばして、自身の作品の元へと向かった。

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