四、遊び
「ぐっ……おい、みんな大丈夫か!?」
周囲に立ち込める砂煙を手で払いながらスラリンたちを探す。
すると――。
「ぬっ!?」
すると前方から強烈な風が吹き、たちまち視界がクリアになった。どうやらリューがその巨大な羽で砂煙を払ってくれたようだ。
「い、今の爆発は何!? 何があったの、ジン!?」
「いったい……どうしたの……?」
事情を全く呑み込めていないスラリンとリューが慌ててこちらに駆け寄ってきた。
「いや、ただヨーンの言う通りに魔法を発動させただけなんだが……すまない」
まさかこんなことになるとは思ってもみなかった。俺はただ魔法を使う感覚を養おうとしていただけである。しかし、彼女たちを無用な危険にさらしてしまったのもまた事実。その点は非常に申し訳なく思っている。
俺が二人に謝罪をしていると――。
「ちょっとおっさん! あたしたちを殺す気!?」
たいそうご機嫌斜めなヨーンが異議申し立てを行ってきた。
「いや、そう言われてもな……。お前が教えてくれた魔法じゃないか……」
こっちが「今のは、どういうことだ?」と問いただしたいぐらいだ。あれほど危険な魔法ならば、事前に言ってもらわないと困る。
「いや、<爆発/エクスプロージョン>にあそこまでの威力はないから……」
「となると今の魔法はいったいなんなんだ? たまたま偶然別の魔法を発動してしまったということか?」
「いや、今の魔法は基礎構成から見ても<爆発/エクスプロージョン>で間違いないよ……。だとすると……暴発? いやそうだとしても、あんなとんでも威力になるわけがないし……。んー……」
ヨーンは首を傾げ難しい顔をしたまま、何やらブツブツとつぶやき始めた。どうやら彼女にもよくわかっていないようだ。
ヨーンとの会話がひと段落すると、続けざまにアイリが不安気な表情で問いかけてきた。
「そ、そんなことよりも、ジンさんは大丈夫なんですか!?」
「あぁ、少し効いたが……。まぁ問題ない」
魔法を使った故の疲労感と爆発が直撃したことによるダメージは残っているが、この程度ならどうということはない。
「そうですか……よかったぁ……」
「あの規模の<爆発/エクスプロージョン>を受けて問題ないんだ……。普通なら塵も残らないよ……」
アイリは安堵の息を漏らし、ヨーンは呆れ半分といった風にため息をついた。
「こう見えて体は丈夫な方だからな」
「それ、もはや丈夫とかいう域を軽く越えてるよ……。まぁいいや――とにかく、おっさんは一人で魔法使うのはもちろんのこと、練習するのも禁止! あたしたちは、そんな化物みたいな体をしてないの!」
「ふむ……やむなし、だな」
あの大爆発の原因が不明な現状、こうなるのは当然の帰結と言えるだろう。
(さすがにスラリンたちに被害が及ぶかもしれないとなれば、魔法の習得は諦めざるを得ないな……)
いくら魔法が便利で強力な力と言っても、大事な家族を危険にさらしてまで欲するものではない。そんなことを考えているとスラリンが、服の袖を引っ張ってきた。
「ねぇ、ジン。今日はお仕事休みなんでしょー?」
「ん? あぁ、そうだが……どうかしたか?」
「それなら一緒に遊んでよー! ねぇ、お願いー!」
「私も……遊んでほしい……っ!」
スラリンの提案にリューも賛同した。
「ふふっ。あぁ、いいぞ」
ここ数カ月はクエストばかり受けており、碌に遊んでやれていなかった。しっかりと家族サービスもしなくてはならない。
「ほんとに!? やったー!」
「今日は……いい日……っ!」
二人は嬉しそうに喜びを爆発させた。
「さて、何して遊ぶんだ?」
「砂遊び! 大きいお山を作りたいなー!」
「一緒に……お空の散歩したい……っ!」
しかし、二人の希望はぱっかり二つに割れた。
「むっ、ただ空を飛ぶだけって、そんなの遊びじゃないよっ! 何にも楽しくないっ!」
「これだから……スラリンは子ども……。風を感じながら空を飛ぶと……とっても気持ちいいい……。それに砂の山を作りたいって……どうせ食べたいだけでしょ……?」
「ぎ、ぎくっ……!? あ、遊べるし、食べられるし それを言うならリューだって――」
「ま、まぁまぁ二人とも落ち着け」
二人が小さな喧嘩を始めたあたりですぐさま仲裁に入る。こういう些細なことから、今まで何度大喧嘩に発展したことかわからない。早めに手を打つのが吉だ。
「今日はせっかくの丸一日休みなんだ。どうせなら思いっきり遊び倒そうか」
「「やったー!」」
そうして俺はスラリンたちとほとんど丸一日遊び回ったのだった。




