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最強のおっさんハンター異世界へ~今度こそゆっくり静かに暮らしたい~  作者: 月島 秀一
第四章:おっさんの世界での日常

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三、魔法


 タールマンさんに穴の調査報告を終えた次の日。

 俺は自宅前の広大な庭に立っていた。前方にはジッとこちらを見つめるアイリとヨーン。その遥か後方では気持ちよさそうにひなたぼっこをして眠っているスラリンとリュー。

 そんな中、俺は右の手のひらに全神経を集中させる。


「ふん……っ!」


 ……我ながら、悪くない。これは成功(・・)しているのではないか?

 俺は少なくない期待を込めて、二人に問いかける。


「どうだ? マナは集まっているか?」

「い、いえその……何というか……」


 するとアイリは気まずそうにサッと目を逸らし、ヨーンは大きくため息をついた。


「ぜーんぜん駄目ー。マナのマの字も集まってないよー」

「……そんな感じです」


 現在俺はアイリとヨーンに魔法を教わっているが……。どうにも俺には魔法の才能がないらしい。大気中に浮遊するという魔法の源――マナの存在を全く感じとることができない。


「そうか……」


 ため息交じりに少し肩を落とす。


(何とかしてこの不思議な力――魔法を身に付けたいのだがな……)


 アイリのいた世界・ヨーンのいた世界――これら二つの異世界には『魔法』という不思議な力が広く普及していた。おそらくだが、次に向かう異世界でも魔法は存在するだろう。


(どんな場面でも手札は多いに越したことはない……。何とかして習得したいものだ……)


 俺は先ほどヨーンに聞かされた話を思い出す。

 何でも魔法とは生来の先天的な素質によるものが大きく、俺のようにマナを感じ取れないものは、どれだけ鍛錬を積んでも魔法を使うことは難しいらしい。


(しかし、|そんな(才能がない)程度のことで諦めるわけにはいかない)


 人間『努力に勝る才能なし』という。俺だって最初はこの大剣を両手で持ち上げることができなかった。それが今ではどうだ、片手で自由自在に操れる。それは毎日毎日、地道に筋力トレーニングに励んだからだ。魔法だって毎日努力していれば、きっと何とかなるはずだ。


「アイリ、ヨーン。すまないが、もう一度コツを教えてくれないか?」

「はい、もちろんです!」

「もー、仕方ないなぁー」


 その後、アイリの理論的な話とヨーンの感覚的な話を聞き、再びマナを右手に集めようと試みるが――。


「……どうだ?」

「えーっと、さっきよりもほんの少しは――」

「いやいや、何にも変わってないからー……」


 残念ながらさっきと何にも変わっていないようだ。


「ふむ……難しいな」


 やはり一日やそこらで習得するのは難しいのだろう。

 何とも言えない微妙な空気が流れだしたところで、ヨーンが大きな伸びをしながら口を開いた。


「もういっそのことさー。魔法を発動してみたらいいんじゃない? おっさん、理屈よりも体で覚えるタイプでしょー? マナを集めたりだとか、細かい理論とかは必要ないってー」

「ヨーンさん!? それはいくら何でも無茶だと――」

「ふむ……やってみようか」

「ジンさん!?」

「まぁまぁ、アイリ。ものは試しというだろう?」

「それはそうですが……」


 何でも一度は挑戦して、失敗したらそのときはそのときだ。


「おっ、ノリがいいねー。そんじゃおっさん、何か使ってみたい魔法とかある?」

「使ってみたい魔法か……」


 そう言われてもな。

 そもそも魔法についての知識が全くない俺には、どんな種類の魔法が存在するのかさえわからない。俺が知っている中で、使ってみたい魔法となると……。


「……そうだな。アイリが使っていた<恵みの水/ブレッシングウォーター>はどうだ?」


 あれは非常に便利な魔法だ。もし可能であるならば是非とも習得したい。

 ハンターはその職業柄、毎日が死と隣り合わせだ。受注したクエストの内容如何(いかん)では、数日飲まず食わずということも珍しくない。そんなときにあの魔法があれば、いつでもどこでも安全な水が手に入る。ハンターにとっては、垂涎(すいぜん)ものの魔法だ。


「<恵みの水/ブレッシングウォーター>ねー。あれは何というかこう……周りにあるマナをギューッて吸い寄せてー。それを身体エネルギーとググッと混ぜ合わせてー。ドバーッ発射する感じだよ。――簡単でしょ?」


 ヨーンはまるで『完璧な説明でしょ?』と言わんばかりに、自信満々に腕組みをした。


「ふむ……。すまない、アイリ。もう少しわかりやすく教えてくれないか?」


 彼女の説明はあまりに体感的過ぎて、さすがの俺も理解しかねる。


「はい、もちろんです」

「ちょ、これ以上わかりやすい説明なんてないから!?」


 その後、アイリに実際に発動するところを見せてもらいながら、一つずつ丁寧に<恵みの水/ブレッシングウォーター>の発動原理を教えてもらった。


「なるほどなるほど……そういうことか」


 基本的な仕組みと原理は把握した。後は実践あるのみだ。


「よし、それじゃいくぞ――<恵みの水/ブレッシングウォーター>っ!」


 右手を前に突きだし、手のひらにマナを集中させる。


「ふん……ぐぐぐぐっ!」


 しかし、いくら力を込めても手のひらにマナを集めようとしても、全く何も起こらなかった。


「あー……まぁ、無理だよねー」


 ヨーンは諦め半分にそう言ったが、俺はまだ諦めない――まだ全力を出し切っていない。


「ふぬぬ……っ!」

「いやいや、おっさんいくら気合いを入れても無理なもんは無理だって……」

「ぬぐぐぐぐっ! この――出ろっ!」


 すると――パキンという何かが(・・・)砕ける音(・・・・)と共に、俺の右手の先からチョロチョロっと、ごく微量の水が発射された。


「おぉっ!」

「や、やったっ!」

「嘘っ!?」


 以前に何度か見たアイリたちエルフ族が使っていたものとは、水の量も勢いも比較にならないほどにか弱い。しかし、これは疑いようもなく、<恵みの水/ブレッシングウォーター>だ。


「すごい! すごいですよっ、さすがはジンさん! たった一日で魔法を使えるようになるなんて!」

「あぁ、ありがとう。アイリとヨーンのおかげだ。……っと、どうしたヨーン?」


 彼女はどういうわけか、訝しげな視線を俺の右手に――今も水が出続けている右手に向けていた。


「なぁおっさん、それ……。もしかしなくても、めちゃくちゃ疲れない?」

「ん……あぁ、そうだな。ごっそりと体力が奪われていくのを感じる。魔法とは中々に疲れるものなんだな」


 まるで灼熱の大地にずっと立たされているように、体からエネルギーがどんどん抜け落ちていく感じがする。


「やっぱりね……。いや、マナもなしに(・・・・・・)発動したのは正直本当にすごいと思うけど……。早く|それ(魔法の発動)を止めないと、ぶっ倒れるよ?」

「ちょっと待て、『マナもなしに』だと?」


 魔法とはマナと身体エネルギーを混ぜ合わせて発動するものという話だったが。


「いや普通だったら、あり得ないんだけどね。おっさんは今、信じられないほど大量の身体エネルギーを使うことによって、マナを全く使わずに魔法を発動してるのよ……。だからめちゃくちゃ体に負担が掛かっているわけ」

「なるほど……。それで魔法の発動を止めるには、どうすればいいんだ?」


 魔法を発動する方法こそ教えてもらったものの、止める方法はまだ教えてもらっていない。


「一般的な魔法ならマナの集中をやめれば止まるからー。おっさんの場合だと、右手に込めた力を抜いてみたらいいんじゃない? 脱力ってやつ?」

「脱力か……すーっ、はーっ」


 俺は右手の力を抜き、ゆっくりと何度か深呼吸を行った。すると右手の先から噴出していた水はみるみるうちに勢いを失っていき、ついにはピタリと止まった。


「ふむ、無事に止まったようだな」


 同時に体を襲っていた凄まじい疲労感も幾分かマシになった気がする。


「はぁ……よかったぁ……」


 アイリはまるで自分のことのように、ホッと胸を撫で下ろした。いらぬ心配をかけてしまったようで申し訳ない。


「どう? これで魔法を使う感覚はわかった?」

「あぁ、何となくだが、何かを掴んだような気がする」


 このまま練習を続けていけば、そう遠くない内にマナを感じ取れる気がする。


「なぁヨーン、他に俺が使えそうな魔法はないか? できれば<恵みの水/ブレッシングウォーター>よりも、もう少し難易度の低い簡単な魔法だと助かる」


 この『魔法を使った感覚』が体にしっかりと残っている内に、他の魔法も試しておきたい。


「んー、簡単な魔法ねー……あっ、そうだ! <爆発/エクスプロージョン>なんかいいんじゃない?」

「「<爆発/エクスプロージョン>……?」」


 アイリも聞いたことがない魔法だったのか首を傾げている。


「そうそうー。使い方はとっても簡単だよー。マナと身体エネルギーを一点に集中させて、それを一気にまき散らすだけー」

「ほぅ、それだけでいいのか?」

「うん、簡単でしょー?(まぁ実際はマナコントロールの難しい超上級魔法なんだけど……。おっさんはマナを使わないみたいだし、案外簡単にできるっぽいかなー)」


 本当にたったそれだけでいいのなら、<恵みの水/ブレッシングウォーター>よりも遥かに難易度の低い魔法だ。


「それじゃ早速やってみるか――<爆発/エクスプロージョン>っ!」


 先ほどと同様に右手を前に突きだし、呪文を唱えると――。


「……ん?」


 キーンという甲高い音と共に俺の手のひらに光球が発生した。


「これは……失敗、か?」

「ヨーンさん……?」


 <爆発/エクスプロージョン>をそもそも見たことのない俺とアイリが、答えを求めるようにヨーンの表情を見ると――。


「う、そ……っ!?」


 彼女は顔を青くしたままアイリの手を取って逃げ出した。


(なんで!? どうして急にこんな超巨大な魔力が!? <火の城壁/フレイムウォール>をっ! 無理、一人で防ぎきれるわけがないっ! 死ぬ、ほんとにまずいっ!?)


「――スラリン、リュー起きてっ! 防御っ! 守ってっ!」


 その鬼気迫ったヨーンの表情と彼女に似合わない真剣な声色に、スラリンとリューは素早く反応する。


「っ!? しゃ、<影の盾/シャドウシールド>っ!」

「<龍の剛鱗/ドラゴンスケイル>っ!」

「<火の城壁/フレイムウォール>っ!」


 巨大な影と炎の盾が出現し、一部人化を解いたリューの巨大な翼がアイリたちを優しく包み込む。 


「お前たちいったい何を……? ……んん?」


 すると次の瞬間、手のひらにあった光球がまばゆい光を放ち――超巨大な爆発が俺の全身を包み込んだ。

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