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最強のおっさんハンター異世界へ~今度こそゆっくり静かに暮らしたい~  作者: 月島 秀一
第三章:マグマに覆われた世界

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十五、決戦


 先ほどのヨーンの発言を思い返す。


(……二匹(・・)か)


 ヨーンははっきりとスラリンとリューを見て二匹と言った。二人ではなく、二匹と。


(リューは腰の羽があるからともかくとして、スラリンの人化(じんか)は完璧だ。それを容易く見破るか)


 ただ知能が高いだけではない。魔法か何かで、こちらの正体を見破る術を持っている。

 加えて権能(けんのう)という謎の力。


(<優しい堕落>と言ったか……。何となくだが……体が重くなった気がするな……)


 その名前と自身の体に起きた異常から判断するに、おそらくは対象を弱体化させる力だろう。


(……推定危険度は軽くS級クエストを超える)


 おそらく特級クエストに届く難易度のモンスターだ。一切の油断は禁物だ。


(……となると)


 俺は背後で地面に座り込んでしまったアイリとウンディーネに目をやる。


(アイリたちには、いち早く安全なところへ避難してほしいんだが……)


 彼女は強力な魔法を使えるものの、肉体強度はこの中で一番低い。<優しい堕落>とやらで、身体能力を著しく低下させられた今、一人で逃げ出すことができるだろうか?


(少し……厳しそうだな……)


 上体を起こして、座っているのがやっとのように見えた。走って逃げ出すことは、到底無茶だろう。


(それなら――)


「――マカロさん、立てますか?」

「ふ、ふふっ……。こ、このマカロっ! 水神様の前で、これ以上の醜態は晒せませんぞ……っ!」

「「「し、(しか)りっ!」」」


 マカロさんを筆頭に、震える足でウンディーネたちは立ち上がった。


(よしっ!)


「それではマカロさんたちは、アイリを連れてすぐさまこの洞窟から離脱してください。可能な限り早く、そして遠くまで」

「こ、心得たっ!」


 マカロさんはアイリに肩を貸し、大急ぎで元来た道を引き返す。


「じ、ジンさんはっ!?」

「俺たちはここでヨーンを仕留める。大丈夫だ、すぐにそっちへ戻る!」

「……っ。はいっ! お待ちしていますっ!」


 そしてアイリとマカロさんたちの後ろ姿が見えなくなった。

 戦う場を整えた俺は、ヨーンに声をかける。


「まさか素直に見逃してくれるとはな」


 ヨーンの奇襲に備えて常に警戒はしていたが、まさか何もしてこないとは。


「いやいや、おっさんたちは逃げなくていいの……?」

「当然だ。お前を狩るためにわざわざこんな異世界まで出張ってきたんだからな」

「えー……。てことはさー、本当にやるつもりー……?」


 見るからにうんざりした顔のヨーンが、がっくりと肩を落とした。


「あのね? この世界(・・・・)では(・・)絶対にあたしに勝てないんだよ……? 悪いことは言わないからさー、ほんとやめときなってー」

「ふむ……ずいぶんと嫌そうだな?」

「そりゃねー。あたし痛いのも戦うのも好きじゃないんだよー……。何よりめんどくさいしー……」

「……そうか」


 湖で出会った時もそうだが、何というか変な奴だ。


「まぁこっちにもいろいろと事情があるんだ。悪いが、おとなしくやられてくれ」


 俺は懐からクールドリンクの入った三本の小瓶を取り出し、一本ずつスラリンとリューに手渡す。


「クールドリンクだ。飲んでくれ」

「「いただきまーす!」」


 二人と一緒に俺もクールドリンクを飲み干す。これでヨーンの操るマグマへの備えはばっちりだ。


「ふー……っ。スラリン、リュー。手加減は抜きだ――全力でいくぞ」


 腹の底から力を込め、大剣をしっかりと握り締める。


「め、珍しく、結構本気なジンだ……っ!」

「ずいぶんと……久しぶりに見た……っ」

「――敵は『権能』という不思議な力を操る。他にも何か隠し玉があるかもしれない、油断はするな」

「了解っ!」

「あいー」

「いつも通り前衛は俺が、後衛は二人に任せる。では――いくぞ」


 重心を落とし、大地をしっかりと踏みしめ――一歩でヨーンとの距離を詰める。


「は……やっ!?」


 そして大上段から力いっぱいに大剣を振り下ろす。フェイントなんて小細工は使わない。


「ふ、――<火の城壁/フレイムウォール>っ!」


 すると突如目の前に巨大な火の壁が現れた。


「ちっ……ぬぅんっ!」


 大剣を振り抜き、事も無げに火の壁を破壊すると――魔人ヨーンは大きく後ずさった。


「ちょ、ちょっとどういうこと!? どうしてあたしの権能が――<優しい堕落>が効いてないの!?」

「いや、十分に効いているさ。見ての通り――体が思うように全く動かん」


 動きのキレも悪い。腕の力も抜けている。普段通りとは程遠い。


「み、見ての通りって……。おっさん、本当に人間……?」

「もちろんだ。――さて、与太話(よたばなし)もここまでにして……いくぞ」


 俺は遠距離攻撃手段をもたない。ただ接近あるのみだ。

 ヨーン目掛けて駆け出したそのとき――。


「くっ、<火の槍/フレイムジャベリン>っ!」


 彼女の背後から無数の槍がこちら目掛けて射出された。鋭く尖った先端には、火属性が付加されている。

 俺はそんな牽制には目もくれず、真っすぐヨーン目掛けて突き進む。


「いっただきまーっすっ!」


 すると次の瞬間、横合いから出現した黒い影が炎の槍を全て食らい尽くした。


「なっ!?」


 ヨーンとの距離を詰めた俺は、右上段から大剣を振り下ろす。


「ふ、<火の城壁/フレイムウォー――」


 彼女が魔法を発動させ、目の前に火の壁が出現したと同時に。


「それは……もう見たよ……っ!」

「なっ!?」


 後方から放たれたリューの<龍の息吹/ドラゴンブレス>により、一瞬にして火の壁は消滅した。

 眼前には隙だらけのヨーン。


「ふんっ!」


 俺は躊躇することなく、大剣を振り下ろした。


「やっ……ば、<火の鎧/フレイムアーっ、ぐへぇっ!?」


 寸前で何らかの防御系の魔法を唱えたために威力は減衰された。

 しかし、衝撃の全てを殺せなかったようで、ヨーンは苦しそうな悲鳴をあげ、洞窟内の壁に激突した。


「い、いたたぁ……ひっ!?」


 瓦礫をのけて姿を見せた彼女の首元に大剣を添える。


「どうした、もう終わりか?」


 確かにゼルドドンよりはマシだが、これでは少し拍子抜けである。


「ちょっ、ちょっと待ったっ!」


 すると突如、魔人ヨーンは両手を上げ、大声を発した。


「……なんだ?」

「ぎ、ギブギブ! 降参っ! あたしの負けっ!」

「……んん?」


 どういうわけか彼女は自ら敗北を認めた。

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