十三、魔人ヨーンの居城
「ぞ、族長の敵ぃいいいいいいいいっ!」
「死ねぇええええええええええっ!」
次々に襲い掛かるサラマンダーの群れを――。
「悪いな」
俺は次々に切り伏せていった。
「ば、ばけもの……め……っ」
もちろん大いに手を抜いているため、誰一人として命を落とした者はいない。数日は重い体を引きずるようになるだろうが、まぁその程度だ。
「さて、こんなところか」
周囲を見渡せば、意識を失い泡を吹いている者。民家に頭から突き刺さっている者。そして戦意を喪失しその場に座り込んでしまった者。この場において俺たちに牙を向く者は、誰一人としていなくなっていた。
(そろそろヨーンのところへ向かいたいが……その前に)
震えながらこちら呆然と見上げる一人のサラマンダーに声をかける。
「すまない、この気を失ったサラマンダーたちの手当てを――」
「ひ、ひぃいいいいいいっ!?」
するとそのサラマンダーは、こちらに背を向け一目散に逃げだした。
「頼みたいんだが……って、そんな逃げなくても……」
(まぁ、いいか)
ここは彼らの集落だ。
俺がこの場から去りさえすれば、傷ついた彼らの手当てをしてくれるだろう。
ヨーン討伐の前の軽い準備運動を終え、スラリンたちの方へ振り返ると――。
「いや、さすがは水神様と氷の神の付き人っ! なんとお強いっ! あの流れるような体捌きっ! まるで舞を思わせるような流麗な剣技っ! このマカロ……感動いたしましたっ!」
マカロさんを含めたウンディーネたちが熱いまなざしを向けていた。
「いや、その……ど、どうも」
適当に大剣を振り回していただけなんだよなぁ……。
しかし、せっかく褒めてくれているのに、それを口にするのは野暮だ。仕方なく、生返事を返しておいた。
「――ところでマカロさん、ヨーンの居城はもうすぐだったと記憶していますが」
「えぇ! こちらです、付いてきてください!」
そのまま、マカロさんを先頭に歩くことしばし。
「……ありました。あそこが魔人ヨーンの居城です」
「どれ……」
彼の指差す先には巨大な岩壁があり、そこには小型飛龍程度なら通れるぐらいの穴がぽっかりと開いていた。どうやらあそこが入り口らしい。
「な、なんと言いますか……」
「洞窟だーっ! かっこいいーっ!」
「洞窟と言えば……お宝……っ! ……ワクワクっ!」
それはどう見ても城ではなく、大きな洞窟だった。
(しかし……中々にそそられるな……)
おっさんとなった今でも『未知の洞窟』や『古代遺跡』、『前人未踏の秘境』――そういった場所には、男としてそそられるものがある。
(っと、いかんいかん。今回は仕事で来ているんだ……)
緩みかけた気をしっかりと引き締め、周囲を警戒しつつ洞窟の入口へと進んでいくと――。
入り口に一枚の立て札があった。そこには可愛らしい文字で『よーんのおしろ』と書かれている。
「ヨーンの城……ね」
言語を理解するだけでなく、文字をも操るか……。
これほど知能のあるモンスターは、スラリンやリューを除いて俺は知らない。
(これは……本気でかからないといけないかもしれないな……)
『破滅の龍』と『暴食の王』――伝説上の存在であるこの二人に、魔人ヨーンは匹敵するほどの化物かもしれない。
自身の中の警戒度を最高レベルにまで引き上げ、洞窟へと一歩足を踏み入れたそのとき。
「じ、ジンさんっ! あれっ!」
「おーっ、何か出たっ!」
「……何、これ?」
「お下がりくださいっ! 水神様っ!」
そこかしこからボコボコという異音が鳴り、何もない空間から突如マグマが漏れ出した。
「……出たな」
マグマはまるで生きているかのようにモゾモゾと動き、みるみるうちに二メートルほどの人型を形作った。
「イ゛ィ゛……」
「イ゛ッ!」
「イ゛イ゛イイイイィイイイッ!」
その数およそ三十体。
こいつらがウンディーネ・シルフ・ノームからなるヨーン討伐隊の前に立ち塞がったというマグマの土人形だろう。
(さて、とりあえず……)
火の弱点は、氷・水と相場が決まっている。
「リュー<氷の息吹/ブリザードブレス>だ」
「あいー。すぅー……ふーっ」
マグマをも凍らす絶対零度の吐息が土人形を襲う。
「イ゛……イ゛ィッ!?」
すると土人形を包むマグマは一瞬にして冷却され、ただの氷塊となった。
「おぉっ! さすがは氷の神っ! 我らが手も足も出なかったヨーンの使いを一蹴するとはっ!」
ウンディーネたちが歓喜の声をあげた次の瞬間――。
「イ゛……イ゛ィイイイイイイッ!」
リューの氷を内部から溶かし、土人形が次々に動き始めた。
「ほぅ、驚いたな……」




