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最強のおっさんハンター異世界へ~今度こそゆっくり静かに暮らしたい~  作者: 月島 秀一
第三章:マグマに覆われた世界

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十二、火の精霊サラマンダー


 マカロさんの家の前には、ガタイのしっかりとした四人のウンディーネが集まっていた。その腕には独特の装飾が施された長い槍が握られており、戦意に満ちた目をしている。


(ん……四人?)


 道案内として同行をお願いしたのは、確か一人だったはずだが……。

 とにかくマカロさんに話を聞いてみよう。


「おはようございます、マカロさん」

「おぉ、ジン殿――と、水神様っ! いや、ご足労をおかけして、申し訳ございません! 今からそちらへ向かおうと思っていたのですが……っ!」

「「「「申し訳ございませんっ!」」」」


 マカロさんを始めとしたウンディーネたちが、すぐさまアイリの前に(ひざまず)いた。


「い、いえいえ! そんなお気になさらずにっ!」


(今日も水神様(アイリ)は大人気だな……。しかし、今はそんなことよりも――)


「ところでマカロさん、こちらの方々は……?」

「えぇ、この里でも腕利きの者たちです! ヨーンの討伐への大きな助けになるでしょうっ! ――さらにっ! この里一番の槍使い――この豪槍(ごうそう)のマカロもおとも致しますっ!」


 すると彼は身の丈以上の大きな槍を豪快に振り回してみせた。


「そ、そうですか、ありがとうございます」

「いえいえっ! 水神様を守護するのはウンディーネの務めっ! ぜひっ、大船に乗ったつもりでいてくださいっ!」


(……困ったな)


 さすがにこれほどやる気に満ち溢れている彼らに「一人で大丈夫です」とは言えない。


(……やむを得ないな)


「それではマカロさん。早速ですが、ヨーンの居城までご案内をお願いできますか?」

「承知しましたっ! ――いくぞ、お前たちっ!」

「「「「はっ!」」」」


 こうして俺たちは、彼ら五人を加えた合計九人になる大所帯でヨーン討伐へと向かうことになった。



 数時間後。


「うー、やっぱりこっちは暑いー……」

「そうですね……少し厳しい気温になってきました……」

「……んー……そう?」


 南へ南へと下り、昨日訪れた湖を越えたあたりで、一気にむせ返るような暑さが猛威を振るった。


(ふむ……ウンディーネたちも、さすがにつらそうだな……)


 敬愛する水神様(アイリ)がいるからか、彼らは決して弱音をあげることはなかった。しかし、その額に浮かぶ大粒の汗が、彼らの窮状を何よりも雄弁に語っていた。


(そろそろクールドリンクを使うか……?)


 俺がそんなことを考えていると、先陣を行くマカロさんが突如立ち止まった。


「こ、こんなところにまでマグマがっ!?」


 見れば、視線の先には溢れんばかりのマグマが広がっていた。それはジワジワと、しかし確実に水の里へと迫っている。


「じ、ジン殿、昨夜は問題ないと言っていたが……。このマグマをいったいどうやって乗り越えるんだ?」

「大丈夫です、ちゃんと考えてあります――リュー」

「……ん? どうしたの……ジン……」

「<氷の息吹/ブリザードブレス>だ。……ちゃんと加減はしてくれよ?」

「あいー」


 彼女は少しだけ、大きく空気を吸い込み――。


「ふーっ」


 ゆっくりと息を吐きだした――次の瞬間。


「な、なんとっ!?」

「す、すごい……っ!」


 辺り一面が白銀の世界に――透き通るような氷に包まれた。

 そこには灼熱のマグマも、うだるような暑さもない。どこまでも広がる氷の世界だ。

 すると――。


「あ、あなた様は……氷の神でいらしたのかっ!?」


 マカロさんの鋭い瞳が、リューを真っすぐにとらえた。


「……?」


 事態を全く飲み込めていない彼女は首を傾げ、助けを求めるようにして俺の方を見た。


「あー……。はい……実はリューは氷の神なんですよ」


 助け船とも呼べない、半ば投げ槍なカミングアウトをすると――マカロさんは顔を伏せプルプルと震え始めた。


「あの、マカロさん……? 大丈夫ですか……?」

「……なんという……なぁんというっっ!! 水神様のみならず、氷の神までもが……っ! 我らウンディーネの窮地に立ち上がっていただけるとはっ! あぁーっっっ! 我々の先祖はいったいどれほどの徳を積み、善行を重ねたのかっ! 繁栄のときは――約束のときはきたっ! ふふっ……ふぅうはははははははははっ!」


 ……どうやら彼の中の大事な何かが壊れてしまったようだ。

 突如マカロさんは身をよじって、狂ったように笑い始めた。

 同時に残りのウンディーネたちも、それにつられるようにして笑い始めた。


「……行こうか」

「「はーいっ!」」

「は、はいっ!」


 軽いトリップ状態に陥っている彼らを置いて、俺たちは南へと向かって進む。氷に覆われた大地を真っすぐに。


「おぉ、神よ――いや、神々よっ! お待ちくださいっ!」


 その後、そのままずっと南へと下っていくと――。


「――見えてきました。あれが火の里です」


 前方にサラマンダーの集落、火の里が目に入った。


「ほぅ……ここが火の里か」


 遠目からでも多くのサラマンダーが右往左往している姿が見える。

 どうやら彼らは突然の環境の変化――マグマが、大地が一瞬にして凍り付いたことに驚いているようだった。


「ジン殿。魔人ヨーンの居城はこの先です。……ここは迂回しましょうか?」

「いえ、このまま突っ切りましょう」


 下手に迂回したルートを選ぶと、最悪の場合魔人ヨーンとサラマンダーに挟撃される恐れがある。彼らが素直に通してくれるならばそれでよし、通してくれない場合は眠ってもらえばいい。

 そのまま火の里へ足を踏み入れると――。


「な、なんだ貴様らはっ!? 火の里に何の用だっ!」

「この氷は貴様たちの仕業かっ!?」

「お、お前はマカロっ!? ウンディーネめ、性懲りもなくまた攻めてきたのかっ!」


 赤い髪に赤い瞳をした男たち――サラマンダーが矢継ぎ早に質問を投げかけてきた。彼らの手には既に長い刀が握られており、明確な敵対姿勢を示している。


「ねぇねぇ、ジンー。あれ、食べていい?」

「いいわけないだろう?」

「うぅ、そっか……我慢する」


 食欲旺盛なスラリンを押しとどめ、俺はこの一団を代表して一歩前へと出る。


「あー……すまない。ここを通してくれないか? あなたたちサラマンダーと争うつもりはない。俺たちは、ただヨーンを討伐しに来ただけなんだ」

「……火神(ひのがみ)様を討伐する……だと?」


 サラマンダーたちの目に危険な色が宿った。


「我らが神に牙を向くとはいい度胸だっ! その愚かさ、無謀さ、罪の重さをっ! その身をもって知るがいいっ! ――かかれぇっ!」


 一人の放った大きな号令とともに――。


「うぅぉおおおおおおおおおっ!」

「ヨーン様へ信仰を捧げるのだぁあああああっ!」

「愚かなウンディーネがぁあああああああっ!」


 刀を手にした大勢のサラマンダーが一斉に襲いかかってきた。


「じ、ジンさんっ!?」

「み、水神様を守れぇえええっ!」


 このような事態に慣れていないアイリあg一歩たじろぎ、その周囲をウンディーネが固めた。サラマンダーは、必然的に先頭に立つ俺へと迫ってくる。


「はぁ……残念だ……」


 俺は仕方なく大剣を手に持ち、そのまま横一線に薙ぎ払うと――。


「ぐはっ!?」

「うぅっ……」

「かはぁ……っ!?」


 襲い掛かってきたサラマンダーたちは、たったの一撃で遥か遠方まで吹き飛んだ。


「「「……は?」」」


 残されたサラマンダーの口から、言葉にならないつぶやきが漏れ出た。


「――安心しろ、命まではとらんさ」

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