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最強のおっさんハンター異世界へ~今度こそゆっくり静かに暮らしたい~  作者: 月島 秀一
第三章:マグマに覆われた世界

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九、重い? 軽い?



「早速なんだが、ニョーンはサラマンダー……ということでいいのか?」


 マカロさんの話では、この世界に存在する人型の種族は四大精霊のみらしい。ということは、身体的特徴――その赤い髪から察するに彼女はおそらくサラマンダーだろう。

 するとニョーンは、ガシガシと頭をかきながら――。


「んー……。まぁ全然違うけど、そんな感じー」


(全然違うのか、そんな感じなのか……果たしてどちらなのだろうか……)


 ずいぶんと適当な返事を返してきた。


「それでおっさん、どしたの? あたしに何かよう?」

「いや、この近くにウンディーネが大勢来ていてな。ニョーンが彼らに見つかる前に、警告ぐらいはしようと思ってな」

「えー……、そうなの? うーん、ウンディーネかぁ……。今はちょっと会いたくないなぁ……」


 彼女は苦い顔をすると――。


「はぁ……。よっこいしょっと……」


 まだ若いというのにずいぶんおっさんくさい、掛け声とともに立ち上がった。


「おっさん、教えてくれてありがとね。あたしは、ウンディーネに気付かれる前に帰るとするよ」

「そうか、気を付けてな」

「ん」


 ニョーンはバケツに入った魚を全て湖に逃がすと、そのままどこかへと歩き去っていった。


(食べるために釣っていたわけではないのか……。変わった奴だな……)


 彼女を無事に逃がすことが出来たので、俺はアイリたちのいる場所へと戻った。


(アイリは……っと、まだ頑張ってくれているのか……)


 そこでは先ほどと同様に熱狂的な踊りを繰り広げるウンディーネと、その中心で一人けなげに魔法を発動し続けるアイリの姿があった。


「ジン、さっきの赤髪の子……なんだったの……?」


 口を開いたのは、木陰に腰を下ろし、周囲の警戒をしてくれているリューだ。


「おそらくだが、サラマンダーの少女だな」


「……逃がしたの?」

「まぁな。俺たちの目的はヨーンの討伐だ。それにサラマンダーたちも被害者だからな」

「そうなんだ……了解……」


 それから数分後――。


「はぁはぁ……。少し、休憩をいただいてきました……」


 肩で息をしたアイリがウンディーネの集団をかきわけて、こちらへ向かってきた。


「おつかれさま。――スラリン、水とグラスを出してくれ」

「はーい」


 スラリンはお腹のあたりから、水がなみなみと注がれたグラスを取り出した。


「疲れただろう、水でも飲んで少しゆっくりとするといい」

「あ、ありがとうございますっ!」


 アイリはそれを本当においしそうにごくごくと飲み始めた。


「んぐんぐ……あぁ……。生き返ります……」


 この蒸し暑い気温の中、異様なテンションで踊り続けるウンディーネに囲まれ、一人でずっと魔法を使い続けていたんだ。疲れるのも無理はない。


「どうするアイリ? 今日はこのあたりでいったん里に戻るか?」


 別に今日一日で湖の水を元通りにする必要はない。明日や明後日と分割すれば、体力的にも楽だろう。

 しかし、彼女はぶんぶんと首を横に振った・


「い、いいえっ! 絶対に! 何としても! 今日で終わらせますっ!」


 アイリははっきりと強く宣言した。


(今日で終わらせたいんだろうな……)


 どうやら彼女は嫌なことはその日の内に――可能な限り早く終わらせてしまうタイプらしい。


「……そうか、それなら俺たちはここから陰ながら応援しているぞ」

「ありがとうございますっ! それでは……行ってきます」


 そうして彼女は神妙な面持ちで、再びあの狂気の場所へと足を踏み入れた。


「はいっ! はいっ! はいはいはいっ!」

「「「――はいっ! はいっ! はいはいはいっ!」」」

「さーっ! さーっ! さっさーっ!」

「「「――さーっ! さーっ! さっさーっ!」」」

「そいやっ! そいやっ! そいそいそいそいっ!」

「「「――そいやっ! そいやっ! そいそいそいそいっ!」」」


 その後、アイリは何度かの小休憩を挟み――そしてついに。


「お、終わりました……っ」


 見事、日が暮れる前に湖の修復を完了させた。


「――うぅぉおおおおおおおおおおおっ!」

「さすがは水神様だっ!」

「たった一日で――いや、半日でこの大きな湖を蘇らせるとはっ!」


 ウンディーネは歓喜の声をあげ、大喜びで湖へ飛び込んで行った。


「や、やりましたよ……ジンさん……」


 そういって彼女は、俺の横にどてっと倒れ伏した。


「あぁ、おつかれさま。よくやってくれたな」


 疲労でぐったりとした彼女の頭を優しく撫ぜてやる。


「はふぅ……」


 彼女はため息をもらすと、そのまま俺の方へすり寄ってきた。


(本当に疲れたことだろう――主に精神的に)


 とにもかくにもこれでウンディーネの願いは聞き届けた。本来ならば、この場で聞き込み調査を開始したいところだが。


(さすがにアイリの疲労が大きいな……)


 ポーションで回復させるのもありだが、今回の場合は精神的な疲労によるところが大きい。こういうときは、静かな場所でゆっくりと体を休めるのが一番だ。


「――よし、それじゃ一度里に帰るか」


 情報収集はアイリを部屋で寝かしつけてから、俺が一人でやっておくことにしよう。


「賛成ーっ!」

「……帰ろーっ!」

「はい、わかりまし――あ、あれ……? ――いたっ!?」


 スラリンとリューが元気よく立ち上がったが――いったいどうしたというのか、アイリは立ち上がろうとした勢いをそのままに、前のめりに倒れてしまった。


「お、おい、大丈夫か!?」


 すぐさま彼女を仰向けにしてあげる。


「す、すみません。どうやら魔法を使い過ぎてしまったみたいで……。ちょっと体に力が入らないみたいです……」


 アイリは申し訳なさそうにそういった。


(確か魔法の発動には、周囲のマナと身体エネルギーが必要という話だったな……)


 となればこれは、長時間にわたり魔法を発動し続けたことによる身体エネルギーの欠乏……とみるべきだろうか。


「いや、気にするな。そんなことよりも、この状態は大丈夫なのか?」


 正直魔法について全く知識のない俺では、対処に困る状況だ。ここはポーションを飲ませるべきなのか? それとも強壮剤を飲ませるべきなのか? 判断に困ってしまう。


「はい……。少し休めばちゃんと元気になります。前にもお母さんに魔法を教えてもらっていたとき、一度こうなったことがあるので……」


 なるほど……。どうやら、ここは『体を休める』が正解のようだ。


「そうか、それはよかった。……それじゃ、俺がおぶっていこうか?」


 既に太陽は東の地平線に沈もうとしている。

 それにこんな吹きっさらしの平原では、休まるものも休まらないだろう。


「い、いいんですかっ!?」

「あぁ。アイリが嫌じゃなければ、だがな」


 すると――。


「は、反対っ! おんぶするなら、暑さにやられたリンがいいと思いますっ!」

「二人とも……駄目……っ! ここは今日一日見張りを頑張った……私が適任……っ!」


 どういうわけかスラリンとリューが猛反対の姿勢を見せた。


「……いや、二人とも歩けるだろう?」

「「……むぅ」」


 反論の余地がなくなったからか、二人は同時に口をつぐんだ。

 いったい何だったんだ……。


「どうするアイリ? 嫌なら、別に構わないんだが……」


 その際は少々荒療治だが、ポーションを飲んでもらうつもりだ。そうすれば、肉体的疲労は回復するので、里まで歩いて帰ることぐらいはできるだろう。


(まぁ何にせよ、夜はモンスターの活動が活発になる。この場に長く、留まることは危険だ)


「い、いえ! ぜひ――ぜひお願いしますっ!」

「そうか、それじゃ――乗っかるといい」


 アイリに背を向け、しゃがんだ姿勢をとるが――。


「……どうした?」


 どういうわけか彼女は、何かをためらうように俺の背をジッと見て固まっていた。


「わ、私……その……。少し重いかもしれません……」


 アイリは顔を赤くして、ポツリとつぶやいた。


「ははは、大丈夫だ。俺はこう見えて力には少し自信がある」


 年を重ねるごとに、体は言うことを聞いてくれなくなっている。俊敏さも体力も、昔に比べればずいぶんと衰えてしまった。しかし、幸いなことにまだ腕力だけは、今も全盛期……のつもりだ。


「気にせずに、ドーンと来るといい」

「そ、それじゃ失礼して……っ」


 そういって彼女は静かに俺の背にもたれかかった。

 彼女が俺に体重を預けたことを確認して――。


「よっと」


 そのまま立ち上がる。


「ん? なんだ、軽いじゃないか」

「そ、そうですか……?」

「あぁ、俺の大剣よりも遥かに軽いぞ!」

「そ、それは……喜んでいいんでしょうか……?」

「……ん? ま、まぁともかく、しっかりと俺に掴まっててくれよ?」

「はいっ!」


 そうして俺はアイリをおんぶしたまま、水の里へと向かった。


(こ、これは役得……ですねっ!)

(ず、ずるいずるいっ! リンだって疲れてるのにっ!)

(……うらやましい)

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