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最強のおっさんハンター異世界へ~今度こそゆっくり静かに暮らしたい~  作者: 月島 秀一
第三章:マグマに覆われた世界

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三、いい男


「「……っ!」」


 スラリンとリューの目の色が変わった瞬間――。


「はい、ストップ」


 彼女らの後頭部にチョップを加える。


「「むぎゅうっ!?」」


 すると二人は涙目になりながら抗議の声をあげた。


「ど、どうして!? リンは悪くないでしょ!?」

「悪いのは……ウンディーネ……っ!」


 俺は他のウンディーネに聞こえないように、小声で耳打ちをする。


「彼らはようやく見つけたこの世界の原住民――つまりは貴重な情報源だ。それをやっつけてどうするつもりだ?」

「「食べるっ!」」

「……そうか」


 やっつけた後にどうするかを聞いたのではなく、『やっつける』という行為自体の是非を問い正したつもりだったんだが……。残念ながら、この思いは届かなかったようだ。


「はぁ……。とにかく、向こうが明確に攻撃を加えてくるまで反撃はなしだ。わかったな?」

「「はーい……」」


 俺が説得を終わったころ、ラフィーネもなんとかウンディーネたちの説得に成功したようだ。


「すまなかったな、ジン。彼らはこの街を守る戦士なんだ。どうやらあなたたちを魔人ヨーンの使いの者だと誤解してしまったらしい。族長の娘として彼らの非礼を詫びさせてくれ」


 そういってラフィーネは頭を下げた。


「構わないさ。タイミング(・・・・・)も悪かったのだろう」


 武器を持ったウンディーネたちの体に目をやる。

 包帯を脇腹に巻いている者、片腕を添え木で固定している者、杖を突き片足立ちの者。多くの者が、最近負ったとみられる傷を抱えていた。


(ふむ……魔人ヨーンとやらにやられたのだろうな)


 その真新しい生傷から、彼らが『ヨーン討伐隊』のメンバーに加わっていたことが推測される。


(そして傷も癒えぬうちに現れた見知らぬ異邦人……。彼らが必要以上に警戒するのも無理はない。これはタイミングが悪かったと言わざるを得ないな)


 俺が一人、この里の現状を推測する。


「ありがとう、そういってもらえると助かる。さぁ、私の家はもうこの近くだ。付いてきてくれ」



 敵意と強い警戒をもってこちらを睨むウンディーネたちの間を分け入って進んでいくと――。


「さぁ、ついたぞ。ここが私の家だ」

「ほぅ……」


 それは木造建築の二階建て、奥行のある広い家だった。族長の家という割には、目立った装飾はない。これはウンディーネが四大精霊の一つ――自然と共に生きる精霊だからだろう。彼ら精霊は可能な限り、『自然』な状態を好む。

 そのまま俺たちは、家の最奥に位置する扉の前まで招き入れられた。


「ジンたちは、ここで少し待っていてくれ。私は父上に――族長に話を通してくる」

「あぁ、わかった」


 その後、扉の前で待つこと十分。

 ようやく扉が開き、ラフィーネが姿を見せた。


「すまない、待たせてしまったな。こっちだ、入ってくれ」


 大きな扉を開け、部屋に入ると――一人の大男がどっしりと部屋の最奥に位置するソファに座っていた。


(ふむ、この男が族長のマカロさんか……)


 青い瞳に、オールバックにした青い髪。堀が深く、鋭い目付きをしている。年齢は五十代半ばといったぐらいか……。俺よりも少し老けて見える。凝った衣装などは着ていないが、家の中だというのに軽めの鎧を身に付けていた。後ろに立てかけてある大きな槍と合わせて考えると、まぁ俺たちを警戒しているのだろう。


「貴殿らがルーラル王国から来たという旅人か。――客人としてもてなそう。既に娘から聞いていると思うが、私がこのウンディーネの族長マカロだ。よろしく頼む」


 そういうとマカロさんは立ち上がり、握手を求めてきた。


(ふむ……いい体をしている……)


 マカロさんは何もただ体が大きいだけではない。

 鍛え上げられた大胸筋に、発達した上腕二頭筋と三頭筋。また力強さを感じさせる大腿四頭筋は獣のそれを思わせた。


「これはどうもご丁寧に。俺はジン、長年ハンターをしている者です」


 俺はそれに応じて、彼の手をがっしりと掴む。これは建前上互いを信じるというポーズだ。

 すると――。


「……いい手だ」


 不意にマカロさんがそんなことをつぶやいた。


「ん?」

「いや、失礼。『手は口ほどにモノを語る』というのが、私の考えでな。握手をすれば、その相手がどんな人物なのか、おおよそながらわかるというものだ」

「へぇ……そうですか。それで、俺は合格でしょうか?」

「あぁ、もちろんだ。何度も何度も武器を振るい、膨大な時間を鍛錬に費やしたのだろう。分厚く力強い、まさに理想的な剣士の手だ」


 そこまで面と向かって褒められると、少し恥ずかしくなるな。


「ふっ、娘からうさんくさい男が来たと聞いたときは、いったいどんな輩かと思えば……。存外にいい男ではないか」

「ちょ、父上っ、何をっ!? い、いや、ジン殿! これはその……っ。す、すまない……」


 ラフィーネは、しどろもどろになって、最後には素直に謝罪した。


「ふふっ、いやいや構わないさ」


 彼女のような若人(わこうど)から見たら、俺のようなおっさんはうさんくさく見えてしまうのだろう。それもまぁ、仕方がないことだ。


(何はともあれ、少しは信用してくれたようで助かる)


「――さて、それでは本題に移らせてもらおう。娘からは貴殿たちが、魔人ヨーンを討伐するために参られたと聞いているが、相違ないか?」

「はい。正確にはその魔人ヨーンとやらが『七つの大罪』ではないかと睨んでおります」

「七つの大罪……聞きなれぬ名前だな」

「恐ろしい力を持った七体の化物の総称です。私たちはこの七つの大罪を打ち滅ぼすために、旅を続けています」

「なるほどなるほど、事情はわかった。――しかし、貴殿らに魔人ヨーンを打ち倒す力があると?」


 マカロさんがこちらを品定めするようにジッと見つめてきた。


(ふむ……。ここで引くのは悪手だな……)


 あまり荒事は好きではないが、男として避けてはならない場面もある。


「――試してみますか?」

「……なんだと?」


 マカロさんは眉を吊り上げ、鋭い殺気を放ち始めた。

 先ほどの和やかな空気から一転――お互いの間に緊張が走る。


「ち、父上!? ジン!?」

「じ、ジンさん!? 喧嘩はよくないですよ!?」


 ラフィーネとアイリが急いで仲裁に入ると――。


「くくくっ……。――はっはっはっ!」


 突如、マカロさんは大声をあげて笑い始めた。


「いや、凄まじい胆力(たんりょく)だ! 私の殺気を受けて、これほど涼しい顔でいられるとはな! いったいどれほどの死線を越えてきたのだ?」

「まぁ、いろいろとありましたから」


 過去何度もあった修羅場が思い起こされる。特にスラリンとリューの討伐は、それはもう凄まじいものだった……。


「さて、先ほどの話に戻るが――ジン殿よ。ぜひ、我らウンディーネに、そのお力を貸していただきたい」


 そういってマカロさんは、真摯な態度で頭を下げた。


「もちろんです。こちらこそ、よろしくお願いします」


 こうして俺たちは無事に、この異世界での協力者を手に入れることができた。






「――ときに、ジン殿。貴殿は現在独り身か……? もしよければ私の娘なぞ――」

「「「だ、駄目ーっ!」」」


 何故かスラリン・リュー・アイリの三人が、同時に大声をあげた。



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