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最強のおっさんハンター異世界へ~今度こそゆっくり静かに暮らしたい~  作者: 月島 秀一
第三章:マグマに覆われた世界

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二、水の精霊ウンディーネ


「その、何というか……。とにかく安心してくれ。別に君をどうこうするつもりはないんだ」


 彼女に近づくことをやめ、少し離れた場所から声をかける。

 すると彼女はおそるおそる立ち上がり、口を開いた。


「き、貴様らはいったい何者だ……? 見たところ、サラマンダーの奴等ではないが……。魔人ヨーンの使いの者か……?」


(魔人ヨーン……?)


 これまたずいぶんと怪しげな名前が出てきたな……。

 その名をしっかりと記憶し、彼女から更なる情報を引き出すために会話を続ける。


「見ての通り、サラマンダーでもないし、魔人ヨーンとやらの使いでもない」

「だ、だったら! それこそいったい何者だっ!」

「ふむ……」


(さて、どう説明したものか……)


 馬鹿正直に「異世界からきた」と言って、信じてもらえるわけがない。余計に怪しまれるだけだ。ここは無難に旅の者とするのがいいだろう。


「俺たちは、ここから遥か遠方にあるルーラル王国から来た旅の者だ」

「ルーラル王国……だと……? ふざけるな、そんな国の名は聞いたことがないぞ!」


(まぁ、そうだろうな)


 当然ながらここは異世界。元の世界に存在するルーラル王国など、彼女が知るわけもない。


「ここから遥か遠方にある小国の名前だからな。知らないのも無理はないだろう」

「……まぁいい。それで? そのルーラル王国のものが水の里に何の用だ?」


(水の里……。ふむ、あの集落の名前か)


「このあたりに『七つの大罪』の一つが現れたという情報が入ってな。そいつを仕留めに来たんだ」

「七つの大罪……?」

「あぁ、とんでもない力を持つ化物のことだ。最近この辺りに――」

「――ま、魔人ヨーンのことかっ!?」


 質問を投げかける前に、わかりやすい反応が返ってきた。


「すまない。名前などは正確に把握していないんだが……。その魔人ヨーンとやらのことを、詳しく聞かせてくれないか?」


 するとウンディーネの少女は、すぐさま口を開くことはせず、無言でこちらを見つめた。おそらく、俺たちが信用に足る人物かどうかの判断に困っているのだろう。


(……うさんくさい。さっきからこの冴えない顔をした男は、どうにも信用ならない……)


 彼女の視線は俺からスラリンへと移る。


(……しかし、恐ろしい凶悪な化物を従えている)


 その後、彼女は目をつむり、苦しい表情で黙り込んだ。


(もし奴らが魔人ヨーンの使いの者だったとしたら……。――水の里は終わりだ。悔しいが……あの黒い影を操る化物には逆立ちしても勝てる気がしない)

(しかし、逆にもし、もし本当に奴らが魔人ヨーンを滅ぼすためにやってきた旅人だとしたら……。これは千載一遇の好機となる!)

(……それにどのみち、あの青髪の化物が向こうにいる以上、私たちに選択肢はない。うさんくさいが、この中年を信じるしかない……か)


 ようやく思考がまとまったのか、彼女はゆっくりと重い口を開く。


「――私の名は、ラフィーネという」


 するとどういうわけか唐突に、自分の名を名乗り始めた。


(これは……信用してくれた、のか……?)


「そうか、覚えておこう。俺はジン。長年ハンターをしているものだ」


 俺の自己紹介にならい、みんなも次々に自己紹介を始めた。


「リンは、スラリンだよー。一応言っておくけどねー。次、ジンにあんなことしたら、今度は本当に食べちゃうよ?」

「……リュー。スラリンに同じく……次はない……」

「アイリです。よろしくお願いします」


 約二名ほど、ずいぶんとドスの効いた挨拶が混じっていたが……、まぁ二人の性格を考えれば仕方ないだろう。


「こ、心得た……っ」


 青い顔をしたラフィーネが、首を何度も縦に振った。


(もしかしなくとも……、スラリンのことを怖がっているな……)


 無用に怖がらせてしまったことは大変申し訳ないが、そちらから先に矛を向けてきたのだから、ここは『おあいこ』としていただきたい。


「さて、それじゃお互いに自己紹介も済んだことだし、そろそろ魔人ヨーンについて聞かせてくれないか?」

「あぁ、もちろんだ――。と言いたいところなんだが、残念ながら私はヨーン討伐隊に加わっていない。詳細な情報は、私の父であり族長のマカロに聞いてほしい」


 ふむ……。見ず知らずの俺たちを、族長に――それも自分の父親に会わせるとは……。


(……罠か?)


 残念ながら、俺はまだこの目の前のウンディーネのことを信じているわけではない。敵地のど真ん中にいる現状、知り合って間もない相手を「信じろ」という方が無茶だ。

 俺は少し警戒を強め――。


「なるほど、わかった。それじゃ、早速だがそのマカロさんと話しをさせてくれ」


 彼女の提案に乗ることにした。



 そのままラフィーネを先頭にしながら歩くこと数分。


「さぁ、着いたぞ。ここが私たちウンディーネの集落――水の里だ」

「ふむ……近くで見ると、素晴らしい眺めだな」


 なんとも不思議なことに、水の里は小さな湖の上にできた集落だった。どういう建築技術を有しているのか、民家も売店も舗装された道も、その全てが水に浮いている。まさに水上都市と言っていいだろう。


「すごいねー、ジン! みんな水の上に浮いてるよー!」

「なんだか……不思議な感じ……っ!」

「お、落っこちてしまいそうで、少し怖いですね……」


 スラリンとリューは楽しそうに、水の上に浮く道の上をピョンピョンと飛び跳ねた。一方のアイリは、おそるおそるといった感じで、一歩一歩慎重に歩みを進める。


「私の家はこちらだ、付いてきてくれ」


 そのままラフィーネの後ろをついていくと――。


「――誰だ貴様らっ! 両手を挙げて、(ひざまず)けっ!」


 里の中心付近で、武器を持った大勢のウンディーネたちに包囲された。


「や、やめろっ、みんなっ! 今すぐ武器を降ろせっ!」


 青い顔をしたラフィーネの悲痛な声が、水の里全域に響き渡った。

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