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最強のおっさんハンター異世界へ~今度こそゆっくり静かに暮らしたい~  作者: 月島 秀一
第二章:おっさんの世界

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九、大聖典


「そうだな……どこから話したものか……」


 タールマンさんは腕組みをしながら、頭を捻った。


「まず大前提として――現在発見されている謎の穴は五つ。じきに残りの二つについても見つかるだろう」


(……残りの(・・・)二つ?)


 まるで全ての穴の数を把握しているような口振りに違和感を覚える。


「……王国は謎の穴のことを既に知っているのですか?」


 すると彼はニヤリと笑った。


「さすがはジン君、察しがいいな。その通りだ」

「詳しくお聞きしても?」

「もちろんだとも。しかし、これは各街のハンターズギルドのギルド長及び、王国の重鎮にしか知らされていない国家の最重要機密だ。当然ながら、他言無用で頼むぞ?」


 俺は無言でコクリと頷く。


「よし――それでは少し長くなるが聞いてくれ。このルーラル王国には遥か古から伝わる『大聖典(だいせいてん)』と呼ばれる一冊の不思議な本がある」

「大聖典……?」


 そんなものはこれまで一度として耳にしたことがない。


「そうだ。こいつがいつから存在したのか、誰が何のために記したのかは不明だ。そのうえ一体何で出来ているのか、水につけても火を放っても破ろうとしても――どんな手段をもってしてもこの大聖典を傷つけることはできなかったそうだ」

「ふむ……」


 果たしてそれは本当に『本』と呼んでいいのだろうか。


「まぁ、そんなことよりも問題はこの大聖典に書かれている内容だ。それは――」

「それは?」

「将来に発生する事象の大まかな概要――つまりは予言だ」

「予言……ですか……」


 つまり大聖典とは平たく言えば『予言の書』ということだ。

 全くの眉唾物の話だが……おそらく本当なのだろう。タールマンさんは嘘をつくような人ではない。何より、俺に不利益を与えるような人じゃない。彼の人となりは、俺が一度ルーラル王国と揉めに揉めたあの(・・)事件(・・)のときに知っているつもりだ。


「まぁ、信じられない気持ちはよくわかる。しかし、全て事実だ。この街の前任のギルド長にも、国王からも同じ話を聞かされている」

「なるほど……。そしてその大聖典に謎の穴のことが書かれていたと……?」

「うむ……。まぁ、そうなんだが。この大聖典には一つ大きな問題があってな」


 そういいながら、タールマンさんは苦い顔して頭をボリボリとかいた。


「書かれてある文字が読めんのだよ」

「文字が、読めない……?」

「そうだ。大聖典は、過去存在したどんな文字言語とも合致しない未知の言葉で記されている。王国はその解読に日夜励んでいるというのが現状だ」

「なるほど……。それで解読はどこまで進んでいるんですか?」

「正直、あまり進捗はよろしくないようだ……。現在判明している記述は、このルーラル王国全土に七つの穴が発生すること。その先は異世界に通じていること。その世界に君臨する『大罪』と呼ばれる化物を倒さなければ、元の世界に帰還することができないということだ」

「ふむ……」


『七つの穴』に『大罪』。何より元の世界に帰還できないという点は、聞き捨てならない。


「少し話が戻りますが――。その大聖典とやらを信じるならば、調査に向かったハンターたちが戻らないのは『一、落とし穴の先はどこか別の――帰還玉の機能しない異世界に繋がっている』ということになりますね」

「正確には『大罪を倒すまでは帰還玉の機能しない異世界に繋がっている』だな」

「ふむ……」


 危険だ、というのが率直な感想だ。

 未知の世界に行ったうえに、その世界にいるとされる姿も形も知らない大罪を探し出して討伐する。いったいどれほどの時間がかかるか検討もつかないうえに、その強さも不明とている。

 俺が黙り込んだのをどうとらえたのか、タールマンさんはゴホンと咳払いをしてから、話しを進めた。


「我々はその化物たちを便宜上『七つの大罪』と呼んでいる。そして我々王国がなぜこの問題にこれほど本腰を入れているか。その理由は――七つの大罪を全て葬らなければ、この世界が滅びるからだ」


(世界が滅びる……ね)


 口振りからして、それも大聖典とやらに書かれていたのだろう。しかし――。


(これまたスケールが大きい話だ。正直に言って、俺の手にはあまる)


 どう考えても三十路のおっさんに頼んでいい依頼の範疇を越えている。


「いきなりこんなことを言われて、さぞ困惑していることだろうと思う。しかし、全てうそ偽りのない事実だ」


 俺はここまでの情報を頭で整理しながら、この特級クエスト受けるべきかどうか思案する。


(危険過ぎる……か? いや、しかし報酬もあまりに魅力的だ……)


 俺がそんなことを考えていると、タールマンさんは追加である情報を付け足した。


「この件に関することで、一つ朗報があってな。先日、ようやくその七つの大罪に関する記述の解読に成功したんだ」

「ふむ、何が書かれてあったんですか?」

「七つの大罪の一つ――強欲の魔龍ゼルドドンについてだ」


(……あっ)


 つい最近何度も聞いた名が飛び出てきた。


「何でもこいつは周囲の『マナ』と呼ばれる力を吸収し、絶大な威力を誇るドラゴンブレスを吐くらしい」


(ふむ……そうだったのか……)


 有無を言わさずに首を刈り取ってしまったので、全く知らなかった。

 俺が何の問題もなく、帰還玉を使って帰ってこれたのは、異世界転移初日に七つの大罪の一つ――ゼルドドンを狩ったからというわけだ。


(七つの大罪……もしかしてあまり大したことがないのか……?)


 ……いやいや、油断は禁物だ。たまたまあの小型飛龍ゼルドドンが、七つの大罪で最弱のモンスターだったという線も可能性としては大いにあり得る。

 俺は一人、緩みかけた気持ちを引き締めた。


「すみません。……スラリンとリュー、それにアイリと相談したいので、少しお時間をいただけますか?」


 さすがにこれだけ大きな問題をこの場で即座に決断を下すわけにはいかない。しっかりと、身内と相談してから決めるべきだ。


「あぁ、もちろんだ。それに危険だと判断したなら、断ってくれても一向に構わない。その場合は、まぁ……王国は強く反発するだろうが、私が丸め込んでおこう」

「ありがとうございます」


 その後、俺はギルドを後にし、自宅へと向かった。


(さて、みんなはどういう反応を返してくれるだろうか……?)


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