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最強のおっさんハンター異世界へ~今度こそゆっくり静かに暮らしたい~  作者: 月島 秀一
第二章:おっさんの世界

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六、ジンの友達



(っ!?)


 ボロンは驚愕に言葉を失い、大きく銀髪の少女から距離を取った。


(こ、この俺が後ろを取られる……だとっ!?)


 彼はS級クエストを一人でこなすやり手のハンター。そんな自分が背後を取られたことが、信じられなかった。


(ジンのことに気を取られ過ぎたか……くそっ、つまらねぇミスを……っ!)


「……どうしたの? もしかして……ジンの友達じゃなかった……?」


 銀髪の少女――リューは少し困り顔で首を傾げた。

 彼女は家の周りでゴソゴソと不審な音がするので、少し様子を見に来たのだ。するとそこにいたのは見知らぬおっさん。いったいどうしたものかと、非常に困惑していた。


「あっ、い、いや! なんでもない! そ、そう、おじさんはジンの友達なんだよ。今、ジンはいるかな?」


 ボロンは会話を繋ぎながら、リューをつぶさに観察する。


(こいつがジンの娘の一人か……? いや、それにしても、あの腰に生えた一対の白い羽……獣人族か。少々、厄介だな)


 獣人族はその体に獣の特性を宿す種族。その宿す獣の力を自由に行使できるため、人間よりも単純な戦闘力は上だ。


(どう見てもただのガキだが、念のため正面からの戦闘はやめておくか……。隙を見て一撃で意識を奪うのがベストだな)


「残念……ジンは今、お仕事中……」


(知ってるよ)


「どうする……家で待つ……?」


(っ!)


 ボロンは突然降ってわいたチャンスに、内心ほくそ笑む。


「おっ、いいのかい? それじゃお言葉に甘えようかな」

「ん……。それじゃ、こっち……」


 そういって、リューはボロンに背を向け、家の方へと歩いていく。


(馬鹿めっ!)


 彼がそんな絶好のチャンスを逃すわけもなく、両手を重ね合わせて、そのまま一思いにリューの後頭部を殴りつけた。その瞬間――。


「い゛っづっ!?」


 まるで巨大な岩石を素手で殴りつけたかのような、あり得ない感触と衝撃が両腕を襲った。大声で泣き叫びたいのを、何とか鋼鉄の意志で押さえつける。


(いってぇぇええええええっ!? 何だこのクソガキ、頭に鉄板でも入ってんのかっ!?)


「……どうしたの?」


 リューはいきなり奇声を上げたボロンへ問いかける。彼女に『殴られた』という認識は全くない。それも当然のことである。今リューは少女の形態をとっているだけであり、真の姿はこの数百倍の大きさを誇る。小さな人間が全力で殴りつけようとも、何の痛痒(つうよう)も感じない。


「あ、い、いやっ! な、なななんでもないよっ! ご、ごめんね、急に変な声だしちゃってっ!」


 ボロンは苦しい言い訳を並べ、赤く腫れあがった両手を後ろに隠した。


「そう……? それじゃ……行こ……」


 そういってリューは再び歩き始めた。

 彼女の「何かあったんですか?」と言わんばかりの態度に、ボロンは激しく動揺する。


(……誘っている、のか? 気付いていない……わけはない……。ならばどうして俺を屋敷に招き入れる……?)


「……来ないの?」

「あ、あぁすまない、今行く」


(俺は本当に入っていいのか……? この屋敷に……)


 漠然とした不安を抱きながらも、ここで退くわけにはいかないボロンは、ジンの屋敷へと足を踏み入れた。



「お、おじゃまします」


 普段ならばそんな礼儀正しいことは、絶対に言わないボロンであったが、今ばかりは自然と口に出た。


「こっち……」


 そのままボロンは、リューの案内に従って家の中へと進んでいく。


(見た目以上に中は広いな……。俺は帰れるんだろうか……)


 鉄のように固い頭を持つ少女と一緒に化物(ジン)の家の中にいる。なんとも言えない不安感が、ジリジリと彼の精神をあぶっていく。

 そのまま歩いていくと――。


「お腹すいたー……。お腹すいたよー……」


 前方からそう言って歩く青い髪をした少女――スラリンが現れた。両手をお腹に添えて、目が虚ろになっている。極度の空腹にあえいでいるのだ。


(この娘は……見たところ普通の人間だな。よし、隙を見てこっちのを(さら)っちまおう)


 彼がそんな算段をつけていると――。


「あー腹すいたー……。お腹へったー……。腹へった……。何か食わねぇと……死ぬ……」


(……あれ? 何か言葉遣いが……)


 スラリンの言葉遣いが本来のものへと戻っていった。大好きなジンもおらず、空腹も中々のものとなっているため、化けの皮がはがれてきているのだ。


「スラリン……猫かぶれてないよ……?」

「うるせぇ……。こっちはもう限界なんだよ……」

「ふふっ……この姿をジンに見せてあげたい……」


 はるか昔から因縁が続く二人は、いつもすぐに険悪な雰囲気を作る。


「……食い殺すぞ」

「……やってみろ……燃やし尽くしてやる」


 次の瞬間、スラリンの足元から黒い影のようなものあふれ出した。影は廊下をどんどん浸食していく。リューはそれに触れないよう、すぐさま腰に生えた唾で空を飛んだ。


「えっ、ちょ、何だこ――っ!?」


 彼は摩訶不思議な現象に動揺を見せたが――すぐさま自身が死の淵に立たされていることに気付いた。いったいどういう仕組みなのか、床が壁が棚が――あの黒い影に触れたもの全てが一瞬にして消えた。幸いにして影の矛先はリューに向いているが、影は今もその範囲を広げている。

 リューが反撃にドラゴンブレスを繰り出そうとしたそのとき――。


「ひ、ひぃいいいいいっ!?」


 ボロンは今まで築き上げてきた自信・プライドをかなぐり捨て、悲鳴をあげて逃走した。しかし、その逃げ先が悪く、どんどん屋敷の中へ中へと入っていってしまう。


「……しまった。……ジンに怒られる」


 リューは青い顔して、ポツリとそう呟いた。

 敏感に『ジン』というワードに反応したスラリンは、一時攻撃の手を止める。


「……どういう意味だ?」

「あれ……ジンのお友達……」

「え゛……っ」


 スラリンから伸びていた黒い影は一瞬にして引っ込み――。


「「……どうしよう」」


 二人は仲良く頭を抱えた。

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