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最強のおっさんハンター異世界へ~今度こそゆっくり静かに暮らしたい~  作者: 月島 秀一
第二章:おっさんの世界

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四、ギルドからの評価


「ちょっとそこのハンターさん、ギルドの壁を壊さないでください。いったい誰が直すと思っているんですか?」


 ハンターズギルドの受付嬢が、感情を読み取らせない乾いた声でそういった。しかし、その額には青筋が浮かんでおり、怒っていることはすぐに見て取れた。


「す、すみません……」


 吹っかけられた喧嘩とはいえ、あの壁を破壊したのは、間違いなく俺だ。反論の余地がないことは明白なので、素直に謝罪する。


「全くもう……。今度やったら、弁償してもらいますからね」

「……はい」


 それは何としても避けたい。ただでさえ想定外の出費が重なり、我が家の家計は火の車となっているというのに……。


(それにしても見たことがない受付嬢だったな。新しく入った人だろうか……?)


 俺がそんなことを考えていると、横からアイリが耳打ちをしてきた。


「ジンさん、何というか災難でしたね……」

「はぁ……全くだ」


 俺がそろそろアイリを連れて家に帰ろうとしたその時――。


(そういえば、俺への依頼はどうなっているんだ……?)


 ポッとそんな疑問が浮かんだ。

 ここ三日ほど、一切依頼を引き受けてない。


(もしかして……)


 何とも言えない、嫌な予感がする。


「アイリ、ちょっと受付まで来てくれ」

「はい」


 どうしても気になったので、先ほどの受付嬢に聞いてみることにした。


「すみません、少しよろしいでしょうか?」

「またあなたですか……。今度はなんです?」


 問題を起こしたばかりだからか、彼女は妙に冷たかった……。


「いえ、私への依頼がどれぐらい溜まっているかと思いまして……」

「はぁ?」


 受付嬢は、露骨に顔をゆがめた。


「あなたねぇ……。個人宛ての依頼というのは、王都でも活躍するような一線級のハンターだけにくるものなんです。あなたのような……。いえ、まぁ仕事ですから、一応確認はしましょうか……お名前は?」

「ジンというものです」

「ジンさんですね……えーっと、あなたご指名の依頼は……はぁっ!?」


 俺宛ての依頼を確認した受付嬢は、突如奇声を発した。


(……そんなにあるのか)


 その反応を見て、俺は悟った。


「やはり……相当あるみたいですね……」


 嬉しいような、悲しいような……。


「そ、そんな、こんなの王都の超一流ハンター並み……。いえ、それ以上……」


 そういいながら受付嬢は俺の前に、三つの依頼書の山を置いた。


「……これが、全部ですか?」


 あまりの量にさすがの俺も息を呑む。ざっと見るだけでも百や二百はくだらない。


「は、はい……。それもこの周辺の街だけでなく、王都に住む貴族からもたくさんの依頼が指名で入っています。あなたは……いったい……」


 呆然と立ち尽くす彼女をよそに、俺は手前の方にある依頼書を何枚か確認する。


(『雷竜の討伐』『豪雪地帯での護衛』『謎の落とし穴の探索』か……)


 どれも区分はS級クエスト。そのうえ中々にこうばしい香りがするものばかりだった。


「はぁ……とりあえず金もないしな……。すみません、この手早く終わりそうな『雷竜の討伐』に行ってきます」


 俺は一番手間にあった討伐クエストの依頼書を受付嬢に手渡した。


「何をもって『手早く終わりそう』と評価を下したのかは、非常に気になるところではありますが……。わかりました、お手続きをいたします。達成見込み時期は、いつごろになりますか?」


 俺はギルドに設置されている時計を見て、現在時間を把握する。


(えーっと、今は夕方の五時だから……)


 って、そういえば雷竜はどこにいるんだっけ?


「あっ、すみません。雷竜の出現場所ってどちらになっていましたか……?」

「ラゾール高原ですね。通称『雷神の遊び場』と呼ばれるここは――」


(ラゾール高原か……。片道二時間の往復で合計四時間だな……。これからアイリを家に送って、少し部屋の掃除もする必要があるから……)


「そうですね、それじゃ達成時間は今夜十時ごろでお願いします」


 ありがたいことに、ハンターズギルドは二十四時間営業だ。これは国の法律で定められている。


「かしこまりました。今夜十時ごろで……って、今夜っ!?」

「はい、そうですが……何か?」


 この新しく入ってきた受付嬢は、さっきから一人芝居でも打っているかのようだった。はたして疲れないのだろうか? それともこういったサービスなのだろうか?


「……ジンさん、あなたがただ者ではないことは、あの指名された依頼の量でわかりました」


(いや、ただのおっさんなんですけど……)


「――ですが、私は嘘が嫌いです。ラゾール高原まではここから片道四時間――往復で八時間はかかります。そのうえ雷竜は強い――S級クラスのモンスターです。いったいどうやって後五時間でクエストを達成するおつもりですか?」

「行って、見つけて、狩る――以上です」


 俺がいつも通りの完璧な狩猟計画を述べると、彼女は無言で首を振り、大きなため息をついた。


「……はぁ」


 すると――。


「はいはいー、交代の時間だよー!」


 以前、何度か見かけたことがある、顔馴染みの受付嬢がギルドの奥から姿を現した。


「ちょっと先輩聞いてくださいよ! このジンとかいう変な人が、さっきから変なことばっかり言ってくるんですよ」

「ほほぅ、どんな?」

「S級クエスト『雷竜の討伐』を手早く終わりそうって言ったり、クエストの達成時期は今夜九時とか言ったり……。ちょっと先輩の方から、きつく言ってくださいよ!」


 すると顔馴染みの受付嬢は腕を組み、うんうんと頭を振った。


「なるほどなるほど……。確かロゼッタちゃんは、ここに入ってまだ三日目だったっけ?」


 この見慣れない受付嬢の名前はロゼッタというらしい。それに就職して三日目なら、俺とちょうど入れ違いとなっている。どうりで彼女の顔を知らないわけだ。


「は、はいそうですが……」

「うん、それならロゼッタちゃんは悪くないね。じゃあ次から覚えておこう。この人はジンさん、この街一番の変人よ。やることも言うことも常識から離れ過ぎているから、ギルドの対応マニュアルは全く通じません」


 ……ギルドの受付嬢が顧客であるハンターを『変な人』呼ばわりするのは、いかがなものだろうか。せめて俺のいないところで言ってくれ……。いや、それはそれで嫌だな……。


「で、ではどうすれば……?」 

「簡単よ、そのままジンさんの言う通りにしておけばいいの」

「い、言う通りに……ですか……?」

「そ。幸いなことに彼は嘘をつくような人間じゃないわ。彼が『できる』と言ったら、それはできることなの。一々常識と照らし合わせて考えていると、こっちが疲れちゃうだけよ?」

「な、なるほど……」


 ふむ、なにやら全く聞きたくなかった会話を聞いてしまった。ハンターズギルドは、長年ずっと俺を変人として見ていたのか……。


「それではジンさん、先ほどは大変失礼いたしました。『雷竜の討伐』、クエストの達成時期は今夜九時で承りました」


 ロゼッタは先ほどとは打って変わって、営業スマイルを維持したまま、流れるように――全て俺の言ったとおりに手続きを完成させた。


「……あぁ、ありがとう」


 そうして俺はなんとも微妙な心持ちのまま、ひとまずアイリを自宅へ送り届け、雷竜の討伐へ向かった。

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