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十四、穏健派のハンター、ジン


 アイリの道案内のおかげで無事にレイドニア王国へと到着すると――武装した多くの衛兵たちに出迎えられた。

 彼らは、その手に刀やハンマー、槍にこん棒など様々な武器を持っている。その内の半分が敵意のこもった鋭い視線をこちらに向け、もう半分は不安げな表情でこちらを――主に大剣に刺さっている岩を見ていた。


(魔法部隊とやらは……あそこか)


 武装した衛兵の背後に、黒装束に身を包んだ男たちが立っていた。これから戦いに臨むというのに、武器一つ持っていないその姿は、この場において異様なものだった。


「じ、ジンさん……っ」


 こんな大勢から敵意を向けられる状況には慣れていないのだろう。震える声でアイリがそうポツリと俺の名をつぶやいた。


「大丈夫だ、アイリ。俺がちゃんと守るから」


 優しく声をかけ、彼女を背に隠すようにして一歩前に出る。

 すると――。


「貴様が、ジンとやらか……?」


 武装した衛兵たちの先頭に立つ男が、俺の目を真っすぐ見たままそういった。その男は大きく盛り上がった筋肉に、スキンヘッドの大男。背に俺のと同じような大剣を背負い、その頭にはモンスターに襲われたのか、大きなひっかき傷があった。


「あぁ、そうだ」

「やはりそうか。……俺の名はロンゾ。本件の総指揮を任されている」


 手短にそれだけ伝えると、ロンゾは背の大剣を手に取った。それにならって、彼の周囲の衛兵たちも武器を構える。


「おっと、少し待ってくれ」


 俺は右手を前に突きだし、制止の声をかける。


「……なんだ」


 ロンゾは姿勢を低くしたまま、口だけを動かした。

 ……今から攻め込む俺が言うのもなんだが、少し警戒し過ぎではないだろうか?


「確認しておきたい。エルフの森に火を放ったのは、お前らで間違いないんだな?」

「あぁ、それがどうかしたか?」

「いや、ただ確認したかっただけだ」


 一暴れした後に『人違いでした』では、シャレにならないからな。


「最後にもう一つ――それだけ準備が整っているということは……市民の避難は既に完了していると考えていいんだな?」

「当然だ。遥か遠方に巨大な岩を持つ化物が見えたんでな、すぐさま緊急警報を鳴らせてもらったよ」


 化物とはひどい言われようだな……。これぐらいの岩なら、あまり腕力に自信のないスラリンでも軽く持ち上げられる。

 まぁ、それは今おいておくとして――。


「そうかそうか、それを聞いて安心した」


 ホッと胸をなでおろす。無暗(むやみ)な殺生はあまり好きではない。

 俺はどちらかというと、ハンターの中でもいわゆる『穏健派』と言われる部類に入る。俺はただ『奪われたものを奪う』だけだ。


「さて――それじゃ、はじめようか」


 俺は開戦の狼煙(のろし)をあげるために、大剣を大きく後ろに振りかぶる。


「く、くるぞっ! 総員、回避に集中しろっ!」


 ロンゾの野太い声が響き渡り、衛兵たちに一際大きな緊張が走る。

 しかし、安心するといい。別にこれはお前たちにぶつけるために、持ってきたわけじゃない。そう、ほんのちょっとしたお土産だ。


「そらよっとっ!」


 俺が勢いよく腕を振り下ろすと――大剣に刺さった岩は、その速度に耐え切れず、王国の中心あたりに見える大きな城目掛けて一直線に飛んでいった。


「なっ!?」


 すると次の瞬間――耳をつんざく凄まじい破砕音(はさいおん)とともに、城が木っ端みじんにはじけ飛んだ。


「ストライク――という奴だな」


 我ながら中々に正確なコントロールだな、うん。

 俺が瓦礫の山となった城を満足気に眺めていると――。


「あっ……、あぁ……」


 幾人かの衛兵たちが腰を抜かし、その場で動けなくなっていた。


「ひ、(ひる)むな! ――第一射、放てぇえええええっ!」


 ロンゾが野太い声で号令をあげたその直後――彼の背後に位置する物見台から、大量の矢が射られた。

 一目見て、数えるのが馬鹿らしくなるほどの量だ。


「い、いや……っ」


 背後に立つ、アイリからそんなつぶやきが聞こえた。


(アイリの言う通りだ……。確かにこれは、いやになってしまう……)


 矢の数は多い。俺の予想をはるかに超える数だ。そこは認めよう。しかし――。


(……何をふざけているんだ、こいつらは? もしかして、俺を馬鹿にしているのか?)


 圧倒的に速度が足りない。

 俺が無造作に大剣を一振りすると、その風圧に負けた矢はあちらこちらへと散ってしまった。


「なにっ!?」


 それを見た衛兵たちから、驚いたような声があがる。


(『なにっ!?』は、こっちのセリフなんだけどな……)


 俺はお手本を見せてあげるために、足元に転がる一本の矢を手に持つ。


「矢を射るときはな、もっと力を込めるんだ。ちょうど――こんな風に、なっ」


 しっかりと力を込めて、物見台目掛けて矢を投げつける。

 すると矢は素手で放った割には、まだ(・・)まともな(・・・・)速度で飛んでいく。

 そして目標に命中した一本の矢は――ものの見事に物見台を吹き飛ばした。


「う、うわぁあああああっ!?」


 物見台の上で次の矢の準備をしていた衛兵たちが、ボロボロと地面に落ちていく。


(しまった、少し力を込め過ぎたか……?)


 かなり加減をしたつもりだったが……。ここ二日ほどクエストを受けていないからか、体のキレ(・・)が悪い。自分が頭で思い描く動きと、実際の動きに微妙な差が生まれている。


(しかし、あんなちんけな矢、一本で壊れるとは……)


 この世界はあまり建築技術が進んでいないのだろうか……?


「な、なぁ……あいつは今、いったい何をしたんだ……?」

「何かを……投げた……?」

「ま、全く見えなかった……」


 俺がこの世界の建築技術に考えを巡らせていると――。


「くっ、魔法部隊、強化魔法を俺たちに――最前線の衛兵たちにかけろっ! 今すぐにだっ!」


 ロンゾが背後に控える黒装束に命令を飛ばした。


(やはりあの黒装束たちが魔法部隊か……。それにしても『強化魔法』? 言葉通り受け取るなら、何かを強くする魔法ということか……?)


 いや、実に興味深い。

 俺が少々目を凝らして、衛兵たちを観察していると――。


「<筋力強化/パワー・ストレングス>」

「<敏捷性強化/アジリティ・ストレングス>」

「<防御強化/ディフェンス・ストレングス>」


 黒装束の男たちが、ブツブツと何かを呟いたかと思うと、不思議な緑の光が武装した衛兵たちを包み込んだ。


(ふむ……なんとも不思議な光景だな)


 一部のモンスターたちは、餌である動物をおびき寄せるために光を放つ。しかし、人間が光っているところなんて、見たことがない。


「――よしっ! お前たち、武器を構えろっ!」


 ロンゾが士気を高揚させるために、大きな声で勇ましく命令を下すが――衛兵から返ってくる声はまばらで、どこか弱々しさを感じさせた。


「何を怖気づいているっ!? どれほどの馬鹿力であろうとも、しょせん敵は一人っ! 数の利はこちらにある――俺に続けぇええええっ!」


 そういうとロンゾは獣のような雄叫びを上げながら、まっすぐ俺の方へと突き進んできた。その右手には大剣がしっかりと握り締められている。


(正面突破か、嫌いじゃないな)


 ロンゾの雄叫びと、その決死の突撃に勇気づけられたのか、衛兵たちも次々に雄叫びをあげ、俺の元へ突き進んできた。


「う、うぉおおおおおおっ!」


 うんうん、その意気だ。俺とて無抵抗の衛兵に攻撃を加えるのは、さすがに少し気が引ける。別世界とて、彼らは俺と同じ人間なんだから。

 俺が少し温かい目で、衛兵たちを見ていると――。


「どこを見ているっ!」


 すぐ目の前に、ロンゾの姿があった。

 右手は既に大剣を振りかぶっており、後は力いっぱい振り下ろすだけだ。一方の俺はいまだ背に大剣を背負ったまま――状況は圧倒的に不利だ。


「もらったぁあああああっ!」

「――よっと」


 俺はロンゾが大剣を振り下ろすよりも早く、抜刀し、刹那の内に切りかかった。

 ロンゾは遥か後方にある建物まで吹き飛び、激しく背中を強打する。


「がふっ……。この、ばけも、の……め……」


 それっきり、彼はうめき声すらあげなくなった。かなり手加減をしたので、おそらくは死んでいない――気を失ってしまったのだろう。


「ジンさん、す、すごい……っ!」

「ろ、ロンゾ…様……?」


 すると先ほどまでの鬼気迫る勢いはどこへやら、衛兵たちはみな足を止め、呆然とその場で立ち尽くした。


「さぁ、お次は誰だ?」


 そしていよいよ、俺は本格的に侵攻を開始する。

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