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みやびな神隠し  作者: くろがね潤
16/17

16話 雅くんの推理


そういえばと思い、ポケットからケータイを取り出して確認して見たが、画面の右上には圏外の2文字。


たかだかこの程度の小山で圏外になるような回線でよくも携帯会社なんか名乗れたものだ。


「ねえ雅くん、好きって言ったよね。絶対言ったよね」


不満に思ってもここではケータイを使って連絡をとることが出来ないという事実は変わらない。

これは、僕たちが他からの助けを得ることが出来ないことを意味していた。

それはそれで絶望的ではあるのだが、一方で助けを呼んだところでこんな危険な森の中へと入ってこれる人間はいるのだろうか、という思いもある。


呼ばれて出動するが途中で虫に襲われ命を落とす。すると僕らは再び助けを要請し、次の救急隊員達がやってくるも、それらもまた失敗して帰ってこない。

これが続くと僕らの立場もだんだんと危なくなってくるのではないだろうか。

命からがら山から生きて出てこれても、次は命からがら警察から逃げなければならなくなるのではないだろうか。


それは考えすぎか。


あまり明るい考えが浮かばない。


空腹だからだろうか。


そういえば自分はまだ夕飯を食べていない。


「ねえねえ雅くん。聞いてる?さっき」


何か手はないだろうかとケータイの画面を眺めていると、ふとメールの欄に目が止まった。

新着メールが届いている。

僕はいかがわしい動画もサイトも見ていないので、迷惑メールの類は一切届かない。

つまり、このメールは僕が知る誰かから送られてきたものだ。


すぐに受信フォルダを開く。

だが、圏外のせいでメールは表示されなかった。

新着メールが1件あるという情報しか分からない。


誰だろう。

そもそも友達の少ない僕にメールを寄越すような人間は限られているのだ。


こんなこと考えている場合ではないことは分かっているのだが、どうも何か大切なヒントがここに秘められているような気がしてならない。


「みーやーびーくん!!」


「花沢さんがカツオを呼ぶときみたいな呼び方で呼ぶな!」


思わず反応してしまった。

せっかくここまで無視を決め込んでいたのに。


するとやっと返事をしてくれたことが嬉しかったのか、海道は急に笑顔になった。


「みーやーびーくん!

野球しようぜ!」


それは中島くんのセリフだろうが!


と、叫びたくなるのをなんとか堪えることに成功した。


いつまでも海道の暇つぶしに付き合ってはいられない。

とにかく今はこのメールの送り主を考えなければならない。


と言ってもこれはそれほど難しいことでもないのだ。

僕のメアドを知っている人なんてものは本格フレンチの皿の上のように少ない。


...高校生とは言え、まだまだ食べたい盛りの人間なのでフレンチの量の少なさを不服だと思っていることぐらい許してほしい。


あとはその少ない僕のメアドを知る人物の中から、今このタイミングで僕に対してメールを送ってくる可能性の高い人間を考えるだけで良い。


候補を挙げるとすれば、


「なんで無視するの?!

雅くんもしかして見てないの?!

国民的アニメって言われてるものを見てないってことは雅くんは国民じゃないってこと?!」


そう言いながら海道は半狂乱で僕の方を揺さぶる。

一回黙らせなければいけないようだ。


一度大きく息を吸う。

これが僕流の口喧嘩前のルーティーンだ。


「おい、考え事の邪魔をするな」


火蓋は切られた。まずは様子見としてジャブを放ってみる。奴はどう出るか。


「考え事って何よ?!

私のこと?!私のことでしょ?!

さっき私に好きって言ったことに関係してるでしょ?!

だったら一人で考えてないで私も一緒に考えさせてよ!!

私としては2人の家は8LEDが良いと思うんだけどどう?!?!」


「眩しいわ」


何を言ってるんだこいつは。

思いっきり脱線してしまっている。


「何言ってるかよく分かんねえけど、そんな8LDKの高級住宅に住めるような金持ちな人間にはならねえよ僕は」


「いーや、それが実はすごく安い値段で売ってたんだよ」


安い値段と言っても8LDK。

手が届くはずがない。


「50万円だったよ!」


「安っ!?

どんなやばい曰くがついてんだ?!」


「あるみたいだけど大丈夫だよ。

別に霊とかそういうのじゃなくて、ただ活火山の火口付近に建ってるだけだから」


観測所か!


「そんな年中自然災害みたいなところに住めるわけがないだろ。

夢のマイホーム生活が数日で悪夢になるわ」


「雅くんは家が欲しくないの?!」


極端すぎるだろ。


「普通の家が欲しいよ僕は。

理想としてはそうだな。

1人で暮らすのに充分だったらそれで良い。

1Kの家で全然構わないと思ってる」


必要以上に家賃やらなんやらでお金を使いたくないのだ。

別に家に人を呼ぼうとも思わないし贅沢な暮らしに憧れもない。

だったら、家なんか小さくても良いわけで。


「ほうほうそうですか、でしたらこんな家とかどうでしょう」


お前はいつから不動産屋になったんだ。


そんな心中を察することもなく、なりきったまま不動産屋ごっこを続けようとする海道さん。


「海沿いに建っているオシャレな2階建の家なんかどうでしょう。

屋上テラスからは広い大海原が一望でき、夜は満天の星空を眺めることが出来ます!

ここに恋人を呼べばロマンチックな夜を過ごせることは間違いなしですね!」


「おい不動産屋。

僕は1Kって言ってんだから条件に沿った物件を紹介してくれよ。

2階建の屋上付きって、どう考えたって1Kじゃないだろ」


「いえいえお客様とんでもありません。

2階の寝室に、大昔にこの近くで沈んだ海賊船の海賊が1人浮かんでいるので1Kで間違いありませんよ?」


「そんな1K嫌だ!」


なんだかもう口喧嘩という雰囲気でも無くなってきた。

肩の力が一気に抜ける。


「ではどの1Kがよろしいのですか?

1Kの種類の指定がないとこちらとしてもお客様に合う物件の紹介が難しいのです」


「1Kに種類なんかねえんだよ。

ていうか」


完全に本題を忘れていた。

こんなことに時間を割いてる暇はないのだった。


「とにかくお前のことなんかこれっぽっちも考えてねえよ。自惚れるなバカ。

だから大人しくそこに正座しとけ」


「え?!」


驚嘆して固まる海道。


「それよりももっと大事なことを真剣に考えてるところなんだからとりあえず静かに...ごふぇっ」


ギャーギャー言いながら首を締めてくる海道の手を引き剥がした。


「人が話してる途中に首を絞めるな!」


人が話してなくてもダメだけど。


なんとか海道の両手を抑えながら、なおも手を首の方に伸ばそうとする海道を制止させる。


小学生ならばまだそこまで目立ちはしないが、高校生ともなると男女の筋力差というものは圧倒的になる。


動きを抑えられていることが悔しかったのか、目を潤ませながら悔しそうに、


「気は小さいくせに力ばっかり強くなって!」


と酷いことを言ってきた。


「はぁ?!僕の気量は別に大きいとは言わないけど小さくもない!そりゃあ未だに厨二病の抜けてない人間から見たら僕は気が小さく見えてもおかしくないけどな!」


「厨二病じゃないもん!!

何を根拠に言ってんの!?」


ふう、根拠ねえ。


「え、ちょっと待て。

うそだろ勘弁してくれよ、この森って虫だけじゃなくてドラゴンまでいたのか?!」


「どこ?!どこにいるの?!」


チェックメイト。


「いるわけねえだろバカ!

分かったか、お前は厨二病だ!」


唇を噛み締めて恨めしそうに僕を見つめる海道。


そうだこの光景を見るのが楽しいのだ。


だが、なんだが言い争いに勝つのは久しぶりな気がする。

僕が口喧嘩に自信があるのはもう言ったことだが、どうも勝率が低いようなきがするのはどうしてだろう。


よく僕が喧嘩する相手といえば、


「妹だな」


あいつはどんなに言い負かしても最終的には実力行使に出る。


そうなると必ずあいつに軍配があがるのだ。


妹が暴力に走ったとき、兄が本気を出しては大人気ないだなんてこと、情けない話だか一度も考えたことはない。


いつも全力でぶん殴ろうとしているが敵わないのだ。


妹以外と戦うと僕はこうも強いのか。

改めて海道の顔をちらりと見る。


いや、こいつがバカなだけか。


赤ちゃんに睨めっこで勝っても自慢なんかしたら逆に恥ずかしい。


そういえば妹といえば、


ケータイを開き、メールフォルダを確認した。

送信フォルダなら圏外でも開くことができる。


やはりあった。

完全に忘れていたが、僕は神社に登る前、妹にメールを送っていたのだった。


内容は、早く帰ってこい、という一言。



僕が家の外に出た理由はなんだっただろうか。


それは妹が夕飯前だというのに勝手に家を飛び出したからだ。


そんな妹を家に連れ戻すために僕は外に出た。


じゃあ、妹はどうして外へ飛び出していったのか。

僕はどうしてあの憎たらしい妹のためにわざわざ外に出たのか。


どうして妹が神社にいるだなんて思ったのか。


黒い木々が不気味に揺れる。


「なあ海道」


僕の呼び声に海道は拗ねているのか、返事をせずにちらっと横目で僕を見た。


聞いているのならそれだけで充分だ。


絞り出すように言葉を続けた。


「俺たち、行方不明になったんじゃないか?」

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