表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/14

託されたバトン

「なあ、永遠が元村んとこ行ってから何日経った?」

省吾が美和に聞いた。


『まだ3日よ。どうして?』


「いやあ。そろそろ迎えに行こうかなぁと……」


『あちらにお世話になりっぱなしっていうのも、確かにね……』


「永遠、俺の事嫌いなのかな?嫌いだよな……」


『まだ親子になりたてなのよ。分かり合える方がおかしいわよ』


「美和ちゃんは?俺と一緒になって後悔してない?」


『してないわ。あなたこそ、私なんかで良かったの?

子持ちの中古品よ。しかも友達の元嫁って……

あなたが、結婚しようって言い出した時、正気かと思ったもの。

だって付き合ってもないのに、私の事なんて何も知らないくせに、

どうしてそんな事言い出したのかって……

永斗さんの遺言とは言え、とんでもないお荷物背負っちゃったわね』


美和が申し訳なさそうに笑った。


「俺は…… ずっと見てたよ。美和ちゃんの事 ……

美和ちゃんが幸せになってくれれば、

それが俺の幸せだと心の底から思ってた。だから、美和ちゃんには

幸せでいてもらわなきゃ困るんだ。もちろん、永遠にも……

永斗に託されたんだから!」


『3人で作ろう!みんなの幸せ!』


「そうだな。うん。ありがとう……

ところで、何であの夜、永遠は出てったんだ?

なんか心当たりあるか?」


『グローブ』


「グローブ?ああ、あのボロいやつ?あれがどうかした?

新しいの買ってやるって言っただけなのに……」


『永斗さんが買い与えた物なのよ。永遠が小さい頃、時間を見つけては

2人でキャッチボールしてた。確かにボロいし、サイズも合わないけど、

あの子にとっては唯一無二の思い出の品なの』


「……俺、最低な父親だな……謝らなきゃ、永遠に……」


省吾は押入れから古いグローブを取り出して、改めて眺めた。

その汚れや傷の数だけ、永斗と永遠が親子だった頃の

歴史が刻まれていたのだ。


「ゴメン……永斗、永遠……」

省吾はグローブを抱きしめたまま泣いた。

笑顔の永斗が、小さな永遠を相手にキャッチボールする姿を思い浮かべながら……


省吾自身は、父親との温かな思い出とは無縁の環境で育った。

殴られて悔しかった事しか思い出せない。

そんな自分が父親に?

託されたバトンの重さを、改めて痛感していた。


『いきなりお父さんじゃなくてもいいじゃない?』

美和が言った。


確かにそうだ。

永斗と永遠の築いてきた深い絆に、割って入る余地などない。


『永斗さんには永斗さんの、あなたにはあなたにしかできない

愛情表現って絶対あると思うの。違うかな?』


確かに、永遠の事は大切に思っている。

この家族を愛し、大切にしていかなきゃならない事は、

頭では理解しているつもりだ。

その事を永遠にどう伝えたらいいのか……


それが分からなくて、1人で空回りして、永遠に辛く当たってしまった。

「お父さんじゃなくてもいいか……」


永遠のお父さんは、永斗ただ1人だ。

自分は戸籍上の保護者でしかない。

そう。ただの紙切れ一枚の関係……

永遠が自分を求める日が来るのだろうか?

この家に俺の居場所なんかあるのか?


まずは何よりも、永遠をひどく傷つけてしまった事を謝らなければ……

そう思う省吾だった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ