固い約束
「ねえ、おじいちゃん。もう一つ聞きたい事があるんだけど……」
『うん。何だ?』
「おじさん……今のお義父さんが、なんでお母さんと結婚する事になったの?
だって、お父さんとお義父さんは、親友だったんでしょう?」
『永斗と、省吾は高校も同じ所へ通っていた。その2学年後輩として
入学してきたのが美和さん、お前のお母さんだ』
「じゃあ、あの3人はそんな前から知り合いだったんだ」
『そうだなぁ。何でも、永斗も省吾も、ひと目ぼれだったらしいぞ。
おっと、こんな事、息子の前でする話じゃないか、ははは……』
***
「ねえ省吾、美和ちゃんの事どう思う?」
高校3年の夏、唐突に永斗が省吾に質問した。
『へ?どうって?』
「その……かわいいよなぁ……僕、美和ちゃんの事好きかも……」
『えっ?』
「おかしいかな……僕も不思議なんだ。こんな気持ち、初めてだし。
どうしたらいいのか分からないんだよね」
『それ、美和ちゃんに言っちゃえば』
「え?ムリムリ絶対ムリ!!」
『思い切ってさあ。俺応援してやるから!』
「う……うん……」
永斗は学校の帰り道、美和を神社の境内に呼び出した。
美和も、大人しいが優しくて聡明な、永斗の人柄に惹かれていた。
永斗の告白を素直に受け入れ、2人は付き合いはじめた。
省吾は自分の気持ちは一言も口に出さず、2人を祝福した。
幸福そうな2人を見て、省吾も幸福な気持ちになっていた。
月日が流れ、永斗と美和は結婚した。
その時も1番喜んだのは省吾だった。
その後、永遠が生まれ、順調に見えた結婚生活だったが、
ある日、省吾の元へ一本の電話が入った。
永斗からだった。
相談があると言うのだ。
「折り入って話があるんだけど……」
永斗はいつになくかしこまっていた。
『何?』
「これから頼む事を、何も言わずに引き受けて欲しいんだ」
『何か怖いな……何だよ、頼みごとって……』
「僕に何かあったら、美和と……一緒になってやってくれないか?」
『何それ?何の冗談だよ。お前、ふざけてるのか⁈』
「真剣だ!こんな頼み、お前にしかできないし、
できる事なら僕だって美和とずっと一緒にいたいさ。でも……」
『だったら一緒にいればいいじゃないか!』
「だから、できないんだって‼︎」
珍しく永斗が声を荒げた。
「僕、癌なんだ……」
『は?』
「胃癌だって。会社の定期検診で見つかったんだけど、結構進んでて……
長くないみたいなんだ」
『嘘だろう……』
信じられなかった。
永斗がいなくなるなんて……
『美和ちゃんはこの事?』
「病気の事は話してある。ただ、お前に頼んでる事は知らせてない。
僕が居なくなった後、美和は1人で永遠を育てていかなきゃならない。
お前なら、昔から美和の事を知ってるお前なら、僕は安心して託せる」
『勝手に安心すんな!もう切るぞ』
「頼んだぞ、省吾」
『うるさい‼︎ お前はしっかり生きる事を考えろ!
ずっと美和ちゃん達を守ってく事を考えろ!』
それから1年程後……
梅雨の晴れ間の、雲ひとつない空の下、
抜ける様な青空の下、
お別れの日がやって来た。
いつに間にか空に掛かった虹を見上げて、
『永斗さんが笑ってるみたい……』
と美和が濡れた瞳で微笑んだ。
***
『省吾はな、永斗に頼まれたって言っとったぞ。自分に何かあったら、
美和さんと一緒になって欲しいと。
永斗が亡くなってから3年ほど経った頃、わたしの所へ挨拶に来てな、
自分には父親なんて大役、務まらないかもしれないが、精一杯
お前達を守るから、だから家族になる事を許して欲しいと、そう言っとった。
省吾なりに色々悩んだろうと思うよ。親友の嫁さんと結婚して、
その子を育てるなんて……
生半可な覚悟じゃできる事じゃない。
ま、わたしは感謝しとるがなあ』
永遠には突然に思えた母の再婚。
そこには永斗と省吾、それぞれの覚悟が詰まっていたことをこの時知った。




