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お父さんとお義父さん


****



永遠とわ、そこのお皿取って』

母の美和が催促する。


美和の菜箸の先には、揚げたての鯵フライが

モウモウと湯気を立てて挟まっている。


「また、鯵フライ?」永遠がおえーっと舌を出す。

『だって、あの人これ出すと機嫌いいんだもん』


美和が「あの人」と呼んだのは夫、待田 省吾の事。

つまり、永遠の父親である。

ただ、この父親と永遠は血が繋がっていない。


本当の父親、元村 永斗(えいと)は、永遠が5才の時

病死した。


その後5年間、母は1人で永遠を育ててきた。

母1人、子1人で支え合って生きて来た。

なのに……


何を思ったか美和は突然この男を連れてきて、

『この人と結婚しようと思うの』と紹介されたのが半年前。


それから美和は待田 省吾という男と入籍し、彼女と永遠は元村から待田姓に変わった。


「僕は鯵フライきらいなんだけど、母さん知ってるよね?」

永遠が不満そうに美和に言った。


『……』


「なんで、あいつの機嫌ばっか取ってんだよ‼︎」


何も答えず、ひたすら鯵フライを揚げている美和に永遠は

腹が立って仕方がなかった。


『あいつじゃなくて、お父さんでしょ?』

美和にたしなめられた。


「お父さんなんかじゃないよっ‼︎」そう言うと永遠は、鯵フライを1匹引っ掴んで

ベランダへ走った。


そこから持っていた鯵フライを外に向かって投げ捨てた。


「何で再婚なんかしたんだ!僕は母さんと2人でよかった。

その方が幸せだったのに……」


ベランダの手すりに両肘をのせ、永遠はそう思っていた。

夕焼けの赤から藍色に染まっていく空を見ながら、永遠は少し泣いた。


その様子をアパートの外構のブロック塀の上から見ている者が……


でっかいカラス……

永遠が今迄見た中で、一番大きくて強そうなカラス。

おまけに胸元には、ブーメランを逆さまに、V字みたいにした白い模様が入っている。


暫く互いに睨み合っていたが、やがてカラスは さっき永遠が放り投げた

鯵フライを、さっと嘴に咥えると あっという間に飛び立ってしまった。


「かっこいい!しかも僕の嫌いな鯵フライを代わりに食べてくれる」

永遠は静かにほくそ笑んだ。


やがて省吾が帰宅した。

『あなたお帰りなさい』

どことなくよそ行きな声で美和が省吾を迎える。


永遠もベランダから部屋へ戻ったが、省吾と目を合わせない。

ダイニングテーブルのいつもの席に座った省吾は、

好物の鯵フライをアテに、ビールを飲み始めた。


『あんまり飲みすぎないでね……』

美和が困ったように笑う。


『お前、宿題終わったのか?』

美和の言葉は無視され、話題はなぜか永遠の方へ向いた。


「今からやる」

永遠は、相変わらず目を合わせる事なく返事をした。



『愛想のないガキだな……』省吾の言葉に、永遠が思わず

睨み返す。


『やっぱりあれか、男親がいなかったから、な、躾ができてないって言うか……』


「お母さんは悪くない‼︎」


『うるせークソガキ‼︎』


永遠に向かって、ビールの空き缶が飛んで来た。


『あなた、乱暴はやめて!』

美和が慌てて仲裁に入る。


『俺が食わせてやってるんだぞ!何か文句あるのかっ‼︎』

確かに、仕事はできる人らしく、職場の人からの信頼も厚い。

経済面も美和が生計を立てていた頃にくらべれば、随分良くなった。


何よりも、美和が毎日家に居てくれるのが、永遠にとっては嬉しかった。

前みたいに仕事で疲れてヘトヘトだった時より、笑顔が増えた気もする。


それでも、あんな横柄な男のどこが良くて再婚を決めたのか、

永遠にはさっぱり分からなかった。






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