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お魚祭り

ずぶ濡れで元村家に帰った2人を、おじいちゃんは笑顔で迎えてくれ、

美味しい夕飯を用意してくれた。


2人はそれをペロリとたいらげ、縁側で夕涼みをしていた。

永遠はスイカをかじりながら、省吾はビールを飲みながら……


庭先では、さっきまで2人が着ていた服が風に吹かれて揺れていた。


ボンヤリとそれらを眺めながら、省吾が唐突に言った。

『今度の休みに海へ釣りに行かないか?』


「え?2人で?」

永遠はキョトンとした顔で尋ねた。


『そう』


「別にいいけど……」


今迄2人きりで、どこかに出かけた事なんかないのに……

永遠は少し緊張していた。



布団に入った後、ビールが効いたのか、

グーグーいびきをかいて眠っている省吾の横で、


永遠はなかなか寝付けずにいた。

今夜に限って、カエルの声や虫の鳴き声が耳につく……


「はあーーー……」

永遠は小さく溜息を落とした。


ーーーー


翌朝。

本日も晴天なり!


『もう少しゆっくりして行けばいいのに……』

おじいちゃんが、少し寂しそうに笑った。


『仕事があるんで、そう言うわけにも……お世話になりました』

省吾が深々と頭を下げる。


『いやいや。何にもできんかった。また近いうちに遊びにおいで!』


「はい!」

おじいちゃんの言葉に、永遠が元気に返事をした。


省吾の運転する車に、永遠が乗り込み、大きく手を振った。


ーーーー


2人きりの車内は静まり返っていた。

昨夜の寝不足からか、急激な睡魔が永遠を襲う。


『寝てていいぞ。着いたら起こしてやるから』

永遠はあっと言う間に深い眠りに落ちていた。


アパートに着くと、美和が2人の帰りを待っていた。


『お義母さんの腰の具合どうなの?』

省吾が気遣う。



『当分は動かせないわね〜。しばらくは様子見に通わなきゃ』

美和が困ったように微笑む。


『大変な時にあれなんだけど、今度の休みに、

永遠と釣りに行こうと思うんだけど……』


『へえ。いいじゃない!行ってらっしゃいよ』

美和がとびきり嬉しそうな声をあげた。



(僕と省吾さんが出かけるのが、何でそんなに嬉しいんだろう)

永遠はそう思ったが、黙っていた。


『あと、今夜のおかず何?』

省吾が聞いた。


『うーん……カレーとか……?』


『いいね!しばらく鯵フライはいいや。釣りに行ってから、たらふく食べてやる』


永遠は、そっぽを向いてげんなりしていた。


****


ーー休日ーー


気持ちよく晴れた朝。

早朝から、省吾の車に乗り込み、片道2時間弱の道程を、

港を目指して走り出した。


トランクには二本の釣竿とクーラーボックス、その他の道具が、

車体が揺れるとカタカタと鳴っていた。


堤防からも釣りができる場所へ着くと、ポジションを決め、そこへ撒き餌をした。

潮の香りが鼻の奥まで染み渡る。


二人共、終始無言のまま、そこへ釣り糸を垂れる。

お互いに何を話していいのか分からないまま、時間だけが過ぎて行く。


ふと気がつくと、すぐ側にカラスの姿が……

カースケだ。胸の白い模様、間違いない。

永遠の顔がパッと輝く。


「カースケ!お前、どこにでも現れるなあ」


『まあ暇だったし……鯵、釣れるかもしれないし』


「どうかな。さっきから1匹も釣れてないし、僕は期待もしてないけどね」


『永遠!引いてる!』

省吾が叫んだ。


「え?」


『ゆっくり巻いて』

省吾にいわれるまま、永遠はリールをゆっくり巻いた。


小ぶりだが、綺麗な鯵がかかっていた。


『やったな‼︎』

省吾に満面の笑みで言われ、思わず嬉しさがこみ上げた。


振り向くとカースケも嬉しそうに羽根をバタつかせている。


「まだ、1匹しか釣れてないんだからダメだよ!」


『チェッ‼︎』

カースケがつまらなそうに言った。


その後は省吾の竿にも鯵がかかって、2人共ハイスピードで

釣りができた。


思いの外大漁だ。


「母さん喜ぶかな?」


『喜んで、フライにしてくれるよ。新鮮だから、きっと美味いぞ!

刺身もいいなあ』


気がつくとカースケはいなくなっていた。


こんなに釣れたんだから、1匹くらいやればよかった。

永遠は少しだけ後悔した。


家に着くと、美和がクーラーボックスの中を見て驚いた。


『こんなに!まあ、どうしよう!』

早速調理に取り掛かった。


大きめの鯵は刺身で、中くらいので鯵フライを作っていた。


今夜の食卓はお魚祭りだ。

永遠は溜息混じりに刺身を口に運んだ。


(あれ?美味しい!)

思い切って、フライにも箸を伸ばした。


ガブリと一口やってみた。

いつもの生臭さが全く感じられず、外はサックリ、中はふっくらとして、

あまりの美味しさにびっくりした。


『お、お前も大人になったじゃん』

省吾が嬉しそうに笑う。


夢中で食べていて、ふと思い出した。

そう。カースケの事を……


フライをそっと掴むと、永遠はベランダに走った。

「カースケ!カースケ!鯵フライ、やるよ。来いよ‼︎」


何度か呼んだが返事がない。

外へフライを放ってみたが、カースケは現れない。

(もしかして、すねた?)


その内食べに来るだろうと、永遠は部屋へ戻った。


ところが翌朝も、鯵フライは手付かずでその場にあった。

結局、違うカラスがさらって行った。


カースケは一体どこへ行ってしまったんだろう……

永遠にはさっぱり見当がつかなかった。







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