プロローグ
庭先では1人の少年と、一羽のカラスがおしゃべりに夢中……
「昔はさ、カラスと人間はすごく仲が良かったんだ」
『今は嫌われてるね。ゴミ荒らすし、黒くて、なんか怖いし……』
「お前は?俺が怖いか?」
『ううん。ちっとも!胸の模様もカッコいいと思うよ』
少年は笑顔で答えた。
『でもさ、君はカラスなのに何でしゃべれるの?なんて名前?』
「俺もいつから喋れるのか、ハッキリ覚えてないんだが……
多分、友達のおかげだ。
名前は……ユキって呼ばれてた。もう随分昔だけど、庄吉がつけてくれた名前だ」
『ショウキチ?誰、それ?』
「俺の昔の友達。一番の友達……」
『ふーん。何でユキなの?君は真っ黒じゃん』
「昔な、俺は真っ白なカラスだったんだ」
『真っ白なカラス?見た事ない!』
「お前が生まれるずっとずっと前の話だ……」
***
遡る事、数百年前……
カラスは人々に愛されていた。
賢く、よく人に懐き、餌を与えられ、誰も邪険にする者はいなかった。
海沿いのこの小さな村でも、人とカラスは共存していた。
ところが、時折見かける白いカラスだけは、「不吉」「滅び」
など良くない印象が強く、虐げられていた。
俺も、真っ白な身体のせいで、虐げられていた中の一羽だった。
ところが、その村の庄吉という5歳くらいの男の子は、どういう訳か
俺を気に入ってくれ、海で釣り上げた小アジをくれたもんだ。
村のみんなは俺を見ると、石を投げつけたり、しつこく追い払ったりしたが、
俺は庄吉に会いたくて毎日村へ出かけて行った。
庄吉は、俺に言葉を教えてくれた。
そして、名前をつけてくれた。
『雪みたいに真っ白で、綺麗だから、お前の名はユキ』
俺は庄吉が大好きだった。
庄吉が行く所ならどこへでも付いて行った。
ところが、小さなその村を飢饉が襲った。
雨が降らず、作物が育たない上に、魚の水揚げも激減した。
村人が次々に飢えと渇きで倒れた。
俺たち、白いカラスのせいだと罵られ、仲間が殺された。
それでも、庄吉は俺を可愛がった。
自分は何にも食べてないのに、腹が一杯だからと、
なけなしの芋や、小魚を分け与えてくれた。
ある日、いつも通り庄吉に会いに村に行くと、
庄吉が動けなくなっていた。
ふっくらしていたた頬はこけ、はだけた着物の胸元からは、
肋がくっきり浮いているのが見えた。
「どうしたんだよ‼︎」
俺が声をかけたら、細い声で
『もう無理だ……ユキに食わせる物、何もない……ごめん……な……』
「庄吉⁉︎庄吉、おい!しっかりしろ‼︎」
庄吉は二度と目を開けなかった。
二度と喋らなかった。
俺は庄吉の側で何日も泣いた。
泣き続けているうちに、俺の身体は黒くなっていた。
この胸の模様の部分を除いて……
***
「この胸の模様は俺の心の傷なんだ。庄吉を助けてやれなかった
あの時の辛さ、悔しさ、忘れられない傷なんだ。
まあ、お前はまだ小さいから分からないだろうけど……」
『君の友達は死んじゃったんだね……
大好きな人がいなくなるのは、きっと悲しいね。僕にはまだ分からないけど』
「こんな痛みは、できれば一生知らなくていい。そうもいかないがな」
『おーい!誰と話してるんだ?』
少年の父親が、部屋の奥から彼を呼んだ。
「友達ー!今行くよ!」
少年は部屋の奥に向かって返事をした。
『友達……?』
部屋の奥から、少年の父親が顔を覗かせた……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇




