二十六話 「嫌悪」
約三か月ぶりの更新です、遅くなって申し訳ないです…。久しぶりすぎるので、以前の本編を読むのをオススメします 2019,9月12日
アリスとシリアーバはすっかり和解し、楽しそうに話で花を咲かせていた。
「おやおや、知らない間に先を越されましたねぇ。王子?」
「うるさいなぁ……。いちいち煽らないでよ」
「あははー、すみません」
いつも通りに平謝りするヴァイオレットを、ラパンは他人事のように見ていた。実際そうなのだが。
「アリス、帰ったぞ。お前達……いつの間に仲良くなったんだ?」
「ついさっきよ。話すと長くなるから、また次に話すわ」
「……分かった」
ラパンは、アリスとシリアーバの関係に心の中で嫉妬した。未来で夫婦になるかもしれないのに、他の男と話すのはやきもきする。今までのラパンならこんなことはあり得なかったのだが、元からある好意と少し意識を向けるだけで全く違う。
「何か文句でもあるのかしら?」
アリスが嫌味ではなく、何も知らない顔で首をかしげる。その様子が兄のレクスに若干似ており、ラパンはつい反論の一つでもしようとしたが、相手が相手なので慌てて口を閉じた。アリスに逆らえば何を言われるか分からない。
「なんでもない」
「そう? ならいいんだけど」
「あー、こほん。そろそろ情報交換をしよう。僕は母さ……女王陛下の所へ行ってきたこと。アリスと眠りネズミは、帽子屋くんについて言ってくれてもいいよ」
カルテはその光景を見てきたと言わんばかりの顔で、話の主導権を握っている。アリスの瞳には疑問が宿り、考えるよりも先に口が開いた。
「なんであんたが、私達に起きたことを知っているのかしら。まさか盗み聞きでもしたんじゃないでしょうね?」
「向かう時、魔法でちょっと」
「あんた……」
アリスはムッとしたが、カルテは楽しそうに話し出す。
「誰だって面白そうな話が聞こえてきたら聞きたくなるよね? そういうことだよ」
「趣味が悪いのね。魔法で聞いたのなら、私達が言う必要もないわ。こっちはあんた達に起きたことが聞きたいの」
「つまらないなぁアリスは。でもまぁ、君がそう言うのなら話してあげてもいいよ」
「さっさと言いなさいよ」
アリスはため息をつき、いちいち回りくどいカルテに適当に返事をする。以前のラパンといい、自分の周りにいる男はこうも面倒くさい性格をしているのだろう。
「それじゃあ言うよ。僕達は女王陛下のご機嫌を伺ってきたわけだけど、顔もケバいしいつも通り粘ついた口調で『アリスはまだか』って、うるさくてこっちまでイラついてきたよ。この調子だと僕の綺麗な顔にニキビができるから、早く地獄へ落ちてくれないかなぁあの人」
「そ、そこまで母親が嫌いなのね」
「何度でも言うけど、僕は母さんが嫌いさ。会うだけでも吐き気がするね」
カルテはわざとラパンに聞こえる声で言い、得意げな表情で鼻を明かす。そうとも知らないアリスはただただカルテの様子にドン引きする。これでカルテの好感度は下がったに違いない。
「とにかく、今は僕と一緒に女王陛下のところへ行ってほしい。元々そういう計画だっただろう? 忘れたとは言わないよね」
「えぇ、もちろん覚えているわ。あんたについていくけど、その代わりラパンも一緒よ」
カルテはそれを聞いた途端、アリスに駆け寄り嫌味を滑らせる。
「は、ちょっと待ってよアリス。こんな奴のどこがいいのさ」
「理由は知らないけど、あんた達仲が悪すぎなのよ。隠してるつもりだろうけど顔に出てるし。それに、ラパンは私の従者よ? 連れていくのは当然じゃない」
「確かにそうだけど、それとこれは」
「拒否権は無し。分かったなら挨拶ぐらいしなさい」
アリスの言い分を断るわけにもいかず、しぶしぶラパンとカルテは向き合って言葉を交わす。笑顔はひきつっており、本当に心の底から嫌っているのが伝わってくる。
「やぁラパン、会えて嬉しいよ。はらわたが煮え切るくらいにはね。今度君の家に白い菊の花を送ってあげるよ。君の部屋は殺風景だから映えるんじゃない?」
「素敵な提案をありがとう、気持ちだけ受け取っておく。それにしてもお前顔だけは綺麗になったな。性根が腐っていると社交場で後悔するぞ。特に人生経験の少ない『お坊ちゃま』はな」
火花が散り炎上しそうな空気で煽りながら、ラパンとカルテはアリスを先頭にして歩いていく。アリスはというと、女王の部屋までの道しるべをカルテの赤い精霊に案内されていた。
「これすごい便利ね……。あんたも主人をちゃんと選びなさいよ」
カルテが魔法で待合室の扉を開く。仲間であるはずのピッケには何も言わず、背を向いたまま軽く手を振った。
「何があってもすぐ対応できるように準備しろ。俺からは以上だ」
ラパンは様子を見ていたシリアーバ、ラネオン、ヴァイオレットの三人へ届くように呟く。暗殺者時代の癖が抜け切れていないが、昔とはまるきり成長している。
「じゅ、準備って言われても何をすれば」
突然の連絡にうろたえるシリアーバは、パニックで涙目になっていた。そんなシリアーバを師匠であるラネオンは的確に指示を出す。
「銃に弾が入ってるかチェックして。あと柔軟体操……。身体強化魔法は足にかなり負担とパワーがかかるから」
「しっ、師匠! ありがとうございます。僕も早く師匠みたいになれるよう、頑張ります!」
「そういう暑苦しいのいいから……」
「いつの間に師弟関係を組んだのですか? そこのところ詳しく聞きたいので、朝まで語り合いましょうー」
この光景を見たヴァイオレットは目を細くし、二人に茶々を入れる。他人をからかうことが趣味なヴァイオレットでも、今はシリアーバの緊張をほぐすためのものであった。
◇◇◇
静かな廊下ではアリス達の足音が響き、道案内役の精霊である炎が揺れている。騒ぎになってはいけないので、終始ラパンとカルテの睨み合いが続いていた。
しばらくすると精霊はいなくなり、アリスの一歩前にカルテが出る。目的地についたようだ。部屋の扉は他のものよりひときわ豪華で輝き、大きなサファイアの宝石が埋め込まれていた。
カルテは『君はそこで待機しろ』というジェスチャーをラパンにし、下がらせる。かなりイラついたラパンだが、ここは抑えて大人しくした。
アリスは相変わらず二人に呆れていた。大の大人が子供みたいだと、そういうものだと割り切った。
「失礼します」
カルテが三回ノックして、魔法は使わず手動でドアを開ける。もちろん、アリスを隣にいさせて。
「遅れてしまい申し訳ありません、女王陛下。例の娘を連れて参りました」




