表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/62

二十六話 「嫌悪」

約三か月ぶりの更新です、遅くなって申し訳ないです…。久しぶりすぎるので、以前の本編を読むのをオススメします 2019,9月12日

 アリスとシリアーバはすっかり和解し、楽しそうに話で花を咲かせていた。


「おやおや、知らない間に先を越されましたねぇ。王子?」


「うるさいなぁ……。いちいち(あお)らないでよ」


「あははー、すみません」 


 いつも通りに平謝りするヴァイオレットを、ラパンは他人事のように見ていた。実際そうなのだが。


「アリス、帰ったぞ。お前達……いつの間に仲良くなったんだ?」


「ついさっきよ。話すと長くなるから、また次に話すわ」


「……分かった」


 ラパンは、アリスとシリアーバの関係に心の中で嫉妬した。未来で夫婦になるかもしれないのに、他の男と話すのはやきもきする。今までのラパンならこんなことはあり得なかったのだが、元からある好意と少し意識を向けるだけで全く違う。


「何か文句でもあるのかしら?」


 アリスが嫌味ではなく、何も知らない顔で首をかしげる。その様子が兄のレクスに若干似ており、ラパンはつい反論の一つでもしようとしたが、相手が相手なので慌てて口を閉じた。アリスに逆らえば何を言われるか分からない。


「なんでもない」


「そう? ならいいんだけど」


「あー、こほん。そろそろ情報交換をしよう。僕は母さ……女王陛下の所へ行ってきたこと。アリスと眠りネズミは、帽子屋くんについて言ってくれてもいいよ」


 カルテはその光景を見てきたと言わんばかりの顔で、話の主導権を握っている。アリスの瞳には疑問が宿り、考えるよりも先に口が開いた。


「なんであんたが、私達に起きたことを知っているのかしら。まさか盗み聞きでもしたんじゃないでしょうね?」


「向かう時、魔法でちょっと」


「あんた……」


 アリスはムッとしたが、カルテは楽しそうに話し出す。


「誰だって面白そうな話が聞こえてきたら聞きたくなるよね? そういうことだよ」


「趣味が悪いのね。魔法で聞いたのなら、私達が言う必要もないわ。こっちはあんた達に起きたことが聞きたいの」


「つまらないなぁアリスは。でもまぁ、君がそう言うのなら話してあげてもいいよ」


「さっさと言いなさいよ」


 アリスはため息をつき、いちいち回りくどいカルテに適当に返事をする。以前のラパンといい、自分の周りにいる男はこうも面倒くさい性格をしているのだろう。


「それじゃあ言うよ。僕達は女王陛下のご機嫌を伺ってきたわけだけど、顔もケバいしいつも通り粘ついた口調で『アリスはまだか』って、うるさくてこっちまでイラついてきたよ。この調子だと僕の綺麗な顔にニキビができるから、早く地獄へ落ちてくれないかなぁあの人」


「そ、そこまで母親が嫌いなのね」


「何度でも言うけど、僕は母さんが嫌いさ。会うだけでも吐き気がするね」


 カルテはわざとラパンに聞こえる声で言い、得意げな表情で鼻を明かす。そうとも知らないアリスはただただカルテの様子にドン引きする。これでカルテの好感度は下がったに違いない。


「とにかく、今は僕と一緒に女王陛下のところへ行ってほしい。元々そういう計画だっただろう? 忘れたとは言わないよね」


「えぇ、もちろん覚えているわ。あんたについていくけど、その代わりラパンも一緒よ」


 カルテはそれを聞いた途端、アリスに駆け寄り嫌味を滑らせる。


「は、ちょっと待ってよアリス。こんな奴のどこがいいのさ」


「理由は知らないけど、あんた達仲が悪すぎなのよ。隠してるつもりだろうけど顔に出てるし。それに、ラパンは私の従者よ? 連れていくのは当然じゃない」


「確かにそうだけど、それとこれは」


「拒否権は無し。分かったなら挨拶ぐらいしなさい」


 アリスの言い分を断るわけにもいかず、しぶしぶラパンとカルテは向き合って言葉を交わす。笑顔はひきつっており、本当に心の底から嫌っているのが伝わってくる。


「やぁラパン、会えて嬉しいよ。はらわたが煮え切るくらいにはね。今度君の家に白い菊の花を送ってあげるよ。君の部屋は殺風景だから映えるんじゃない?」


「素敵な提案をありがとう、気持ちだけ受け取っておく。それにしてもお前顔だけは綺麗になったな。性根が腐っていると社交場で後悔するぞ。特に人生経験の少ない『お坊ちゃま』はな」


 火花が散り炎上しそうな空気で煽りながら、ラパンとカルテはアリスを先頭にして歩いていく。アリスはというと、女王の部屋までの道しるべをカルテの赤い精霊に案内されていた。


「これすごい便利ね……。あんたも主人をちゃんと選びなさいよ」


 カルテが魔法で待合室の扉を開く。仲間であるはずのピッケには何も言わず、背を向いたまま軽く手を振った。


「何があってもすぐ対応できるように準備しろ。俺からは以上だ」


 ラパンは様子を見ていたシリアーバ、ラネオン、ヴァイオレットの三人へ届くように呟く。暗殺者時代の癖が抜け切れていないが、昔とはまるきり成長している。


「じゅ、準備って言われても何をすれば」


 突然の連絡にうろたえるシリアーバは、パニックで涙目になっていた。そんなシリアーバを師匠であるラネオンは的確に指示を出す。


「銃に弾が入ってるかチェックして。あと柔軟体操……。身体強化魔法は足にかなり負担とパワーがかかるから」


「しっ、師匠! ありがとうございます。僕も早く師匠みたいになれるよう、頑張ります!」


「そういう暑苦しいのいいから……」


「いつの間に師弟関係を組んだのですか? そこのところ詳しく聞きたいので、朝まで語り合いましょうー」


 この光景を見たヴァイオレットは目を細くし、二人に茶々を入れる。他人をからかうことが趣味なヴァイオレットでも、今はシリアーバの緊張をほぐすためのものであった。



◇◇◇


 静かな廊下ではアリス達の足音が響き、道案内役の精霊である炎が揺れている。騒ぎになってはいけないので、終始ラパンとカルテの睨み合いが続いていた。


 しばらくすると精霊はいなくなり、アリスの一歩前にカルテが出る。目的地についたようだ。部屋の扉は他のものよりひときわ豪華で輝き、大きなサファイアの宝石が埋め込まれていた。


 カルテは『君はそこで待機しろ』というジェスチャーをラパンにし、下がらせる。かなりイラついたラパンだが、ここは抑えて大人しくした。


 アリスは相変わらず二人に呆れていた。大の大人が子供みたいだと、そういうものだと割り切った。


「失礼します」


 カルテが三回ノックして、魔法は使わず手動でドアを開ける。もちろん、アリスを隣にいさせて。


「遅れてしまい申し訳ありません、女王陛下。例の娘を連れて参りました」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ