二十三話 「条件」
ハッピーホワイトデーです!
(※本編とは関係ありません) 2019.3.14
「……で。クーデターって、どういうことかしら。あと……金髪のあんたは何者なの?」
アリスは相変わらず高圧的な態度でカルテに尋ねる。
「ま、まぁ……。あんたがタイプかどうかって言われたら、嫌いっていうワケではないけど」
アリスが茶をにごすかのように呟いたが、カルテの耳元にはしっかりと聞こえていた。
「さっきも言ったけど、僕は……」
カルテは嬉しさでどうにかなりそうで、つい頬が緩んでしまう。
それをダシにしたヴァイオレットは、すかさずカルテに茶々を入れた。
「王子は生粋のロリコンなんですか? 単純にお姫様を愛しているんですか? どちらにしても、相当気持ち悪いですよ」
一瞬にしてヴァイオレットの頬に血が垂れる。
斬殺魔法の一つとも思われるそれは、確かな殺意と怒りがこめられていた。
「次。僕のことロリコンって言ったら、首は繋がってないと思え」
カルテの圧力をみじんも恐怖を抱かないヴァイオレットは、笑顔で平謝りをする。
「あははー、申し訳ありませんでした。王子」
カルテは咳払いをすると、アリスに偽りのない優美な笑顔を見せる。
「改めて自己紹介をしよう。僕はカルテ。カルテ・ソミュール。本当はこの国の王子だけど、訳あって今は従者になっている」
アリスは考える素振りを見せると、ラパンとは少し違った質問をした。
「どうしてわざわざ従者になったのかしら。クーデターと何か関係があるワケ?」
アリスに言葉を交わすごとに、カルテは頬を赤く染めて笑顔を見せる。
本当に心の底から嬉しい気持ちが伝わってくるが、ラパンはかつての自分を見ているようで目をそらした。
「うん、うん……! 気になるよね、そうでしょう? 僕が分かりやすく教えるから!
かの者達に幻を見せよ、投影させよ……。『小さな人形劇場』≪リトル・ドールシアター≫」
カルテは流れるままに幻術魔法を唱えた。すると、可愛らしいアリス達の人形が現れる。
「へぇ、可愛いのね。欲しいくらいだわ」
アリスが呟くと、ラパンは「似たような物なら作れる」と意外な言葉を口にした。
「さぁ皆、もっと近寄って。全員で見ないと計画が台無しになるから」
アリス達は人形を囲み、全員でカルテの説明を聞いた。
「最初、君達は僕の部屋に隠れていてほしい。もちろん、仲間以外に認知されない魔法をかけるから」
カルテが言うとアリス達の人形は部屋に隠れ、カルテの人形が魔法をかける振りをする。
「僕は女王陛下に用事があるから、いったん君達とはここでお別れ。後で合流する形になる」
「ねぇ。あんたがいない間、私達はお城で待っていればいいの? 退屈しそうだわ」
アリスがあくびをする。しかし、カルテは変わらず笑顔で対応を続ける。
「その辺りは問題ないよ。僕の仲間が来ると思うし……。あんまり下手に動いたら、僕の首が飛んで行っちゃう」
アリスは事情をなんとなく察し、「続けて」とカルテを急かした。
「あ、そうだ。言うの忘れていたけど……。この計画にはアリスが必要不可欠なんだ。これ、絶対条件ね」
アリスという言葉に反応したラパンはすぐさま噛みつき、カルテを睨む。
「お前……。そう言って、アリスを独り占めするんじゃねぇだろうな? だとしたらぶん殴る。それか刺す」
「あー、はいはい。そんなことはしないって。あのね、人の話は最後まで聞いてよ」
カルテがため息をつくと、何かを諦めたような暗い目で口を開く。
「母さん……。女王陛下は、『アリス』を利用すれば若返るって思い込んでるんだよ。まぁ実際、母さんは『魔女』と言われるほどの実力者だし」
「『魔女』……。陛下の他にもいましたよね、確か……」
帽子屋が話を続けようとした時。お約束だと言わんばかりに、ヴァイオレットは魔法で帽子屋の口をチャックした。
「……続けるよ。僕はアリスをさらう振りをして、実際に女王陛下の前に差し出す。けれど、女王が油断しきったその時に、あの人の首を吹き飛ばさせる。
もし上手くいかなかったとしても、他の対策があるから問題ない」
カルテは一通り説明を終えると、ため息混じりに口を開いた。
「これでだいたいの説明は終わり。とにかく。僕は母親である女王陛下を殺して、僕がこの国の王だと宣言する」
決意した目付きでカルテはアリス達に告げる。
「それが、僕にとっての復讐だ」
「……。あんたの覚悟は分かったわ。計画にも協力するし、いざとなれば私の従者を貸してあげる」
思ってもみなかった発言を聞いたラパンは、アリスに歯向かい反論する。
ラパンにとって、仇敵でもあるカルテと一緒だなんて死んでもごめんだ。
「おいアリス……! こいつは口先だけの嘘つきだ、本当にどうなるか」
「分かってる。私も正直、嫌な予感とか胸騒ぎがするのよ」
アリスは「だけど」と前置きして、口ごもりつつラパンに言う。
「あんたは私の従者。たった一つ覚えていることだけれど、それだけで安心するの」
それを聞いたラパンは何を思ったのか、しばらく呆けていた。
「なっ、何よその顔!? 何度も言わせないでちょうだい!」
ラパンはしばらくすると我に返り、薄い笑みを浮かべた。
「あぁ……すまない。成長したな、と思って」
「あんた、私の何が分かるっていうの!?」
「それはノーコメントだ」
アリスとラパンの痴話喧嘩は、帽子屋とラネオンの心を和ませる。それをよそに、ヴァイオレットはカルテに近づいた。
「あのお二人、なかなか似合ってますねー。さすが主従と言うべきでしょうか。絆が違いますね」
「貴方とは違って」
カルテも貼り付けの笑顔を浮かべながら、ヴァイオレットの心を踏みにじる。
「本当に頭が来るよ。殺すだけしか能のないヴィオさんに言われたくなかったなぁ」
「おやおや、それは心外です」
その時、突然アリスが首を突っ込んできた。痴話喧嘩に収拾がつかないのか、少しだけ怒っているようだった。
「ちょっと、金髪のあんた! 今すぐ準備よ準備!」
「僕はいつでも大丈夫だけど……。あと、僕の名前はカルテだよ、アリス」
アリスはいらだちとむずがゆい様子でカルテに指示をする。
「あーもう分かったわよ! カルテ!」
「何なりと」
「出発よ! 城に案内しなさい」
次回、ついに城に侵入しちゃいます