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アリスは外の世界へ行きたいようです  作者: 吐 シロエ
1章 エタンセル王国編
3/62

三話 「外の世界」

「……。そこまで言うのなら、ボクは責任を持って君を送り出す。()()()にも言われているからね」


「なら早く準備して。こっちは待ちきれないの」


「仰せのままに」


 パチン。


 白ウサギが指を鳴らすと同時に、視界が真っ白になる。あまりの眩しさにアリスはおもわず目を閉じた。


「ッ――!」


 耳鳴りのような音が絶えず響き、気を抜けばこの世ではないどこかへ吹き飛ばされそうで怖い。けれど、我慢すればすぐに終わるはずだ。


「私は」


 アリスは無意識に手を伸ばす。光の先に美しい世界が広がっていると信じて。


「私は、自分の目で確かめるの――!」


 途端、急に視界が開けてアリスは外の世界へと放り出される。


「ひゃあっ!」


 転んでいく形で世界はアリスを歓迎する。幸い怪我はなかったが、道が石造りなため危うく大怪我をするところだった。


「どうしたら放り出されるのよ、ったく」


 土を(はら)って立ち上がると、そこは本の中でしか見たことのない世界が広がっていた。


 周りには人で埋め尽くされており、商人と取引をする旅人や忙しく働く国民達。とにもかくにも人の賑やかさで満ちあふれている。


「エタンセル王国へようこそ。アリス」


 アリスがアメジストの瞳を輝かせていると、白ウサギはアリスに向けて手を差し出し微笑む。


 差し出された手に導かれ、アリスは白ウサギの手を取る。そして、駆け出すように白ウサギの隣を歩いていった。



◇◇◇


「賑やかで楽しそうね。お祭りみたいだわ」


「朝市と夜店が週に三回あるんだけど、ちょうど今が朝市の時間みたい。この街自体が観光スポットになんだって。あと、『旅路(たびじ)の噴水』っていうのが王都への目印……。

 そうだ、アリス。この国には女王様がいるみたいだよ」


「女王ですって? それは本当なのかしら」


「本当だよ、ほら見て。”エタンセル王国の女王陛下、またもや従者を酷使(こくし)! 住民の不安が(つの)る”」


 白ウサギが話題に出したのは、新聞にある記事の一つだった。大きな見出しと共に、女王に対する不安や怒りが書かれている。


「えー、何々……。”女王陛下は人の心が分からない鉄の女性。本当に人使いが荒く、過労死寸前だった”……。ふーん、相当な女王みたいね」


 アリスは興味がないと言いたげに大きなあくびをする。それに負けじと白ウサギは大急ぎで話題を変えた。


「あっ! あと、この国にはスラム街もあるんだって。”食料や衣服の盗みが多発。寝る時にはご注意を”……。物騒な世の中だね」


「そうね。まぁ、私達には関係のない話よ」


 アリスと白ウサギが話していると、店の中でもひときわ大きな人だかりと黄色い歓声が聞こえてきた。何事かと二人が見れば、少年が(ひざまず)きながら女性達に薔薇(ばら)をプレゼントしていた。


「親愛なるマドモアゼル達に、美しい薔薇を捧げましょう」


 決め台詞とともに少年はにこりと微笑むと、女性達は笑顔に魅了されてため息をつく。一方、アリスと白ウサギは気に入らないのか、じとりとした目で少年を見た。


 アリスと白ウサギの視線に気づき、少年は二人のもとへ近づいた。彼のファンである女性達はさっと道を開け、少年を通れるようにする。


「やぁこんにちは。小さなマドモアゼルとジェントルマン。冷やかしはお断りのシリアーバ店へようこそ」


 少年はアリスにウインクし、薔薇をくわえて決めポーズをしてみせた。容姿に自信がなければ到底できないだろう。


「僕はただのしがない帽子屋の商人、シリアーバ・サヴィニー。気軽に『帽子屋』さんって、呼んでくれても構わないんですよ?」


『帽子屋』ことシリアーバの髪は茶色く切りそろえられ、フリルがついた長そでに革製の上着を着ていた。何より赤い宝石のネックレスが良く目立ち、裕福な家庭に産まれたのだとうかがえる。


「それは遠慮しとくよ。ボクは白ウサギ。そして隣にいる子はアリス。ボクの将来のお嫁さんなんだ」


「ちょっと、私でも自己紹介ぐらいはできるわよ! それに、あんたの告白なんてまだオッケーしてないんだから!」


「だってアリス友達少ないし、ボクとぬいぐるみ以外話したことなぶぅ!?」


「本当、白ウサギって余計な一言が多いのよね……」


 アリスは白ウサギにみぞおちを食らわせ、伸びている彼をよそに横目で帽子屋を見る。すると、帽子屋は感動で打ち震えていた。


「美しい……」


「は?」


「貴女のような美しい女性は今まで見たことがありません! ぜひ、僕と付き合ってくれないでしょうか!?」


 帽子屋はアリスの手を取り、跪きながら目を輝かせる。帽子屋の全力の告白に、アリスは一呼吸置いてきっぱりと言い放った。


「私は貴方の恋人にはならない。絶対によ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 3話まで拝読させていただきました。 アリスちゃん、モテモテですね。白ウサギのセリフで内心は照れながらも自分に言い聞かせているところ、可愛かったです。 アリスが失くした記憶がどんなものなの…
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