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二十話 「追走劇の終幕」

事情により、番外編ではなく本編になりました…!このまま楽しめて頂ければ幸いです

「……さて。最初は誰にしようかな?」


 ジャックはラパン、ラネオン、帽子屋を値踏みするように眺めた。三人は警戒し、何が起きても大丈夫なように体勢を整える。


 そして、ラパンが一歩前へ出た。


「俺が相手だ。ピエロ野郎」


「あぁ、ラパンか。大事なお姫様も守れなかった、哀れな従者さん?」


「……ぶっ殺す!」


 血が上りやすい短気なラパンはジャックの口車に乗り、瞬時に彼の目の前にまで移動し、ナイフを振るう。


「あはは! 本当に分かりやすい奴だな!」


 ジャックはそれをかわし、アリスを抱えながらラパンめがけて破壊魔法を発動させた。


「ぐっ!?」


 木がクッションの役目を果たしてくれたが、ラパンの体は悲鳴を上げている。立ち上がろうとしても、体は言うことを聞いてくれない。


「何だよ、もう終わり?」


 ジャックは薄ら笑いを浮かべ、夢の中にいるアリスを木にもたれさせた。


「……お前、本当に弱くなったよな。前みたいに僕を楽しませろよ。なぁ!」


 ジャックがラパンの顔を蹴り上げると、そこにはヘンテコな顔をしたウサギのぬいぐるみが笑っていた。


「はぁ?」


「そのぬいぐるみはダミーだ」


 振り向いた時には、ラパンがジャックを締め上げていた。ラパンの手には殺意がこめられている。


「くそっ、こんなやつに負けるなんて……屈辱でしかない」


「早いところ、現実を受け入れるんだな」


「現実だって? 冗談言うなよ」


 ジャックはラパンの拘束をすばやく解いてみせる。さらに、森の木ごとごっそりとラパンを魔法で切り裂いた。


「がはっ!?」 


 血があふれ出て止まらない。ゆっくりと死の足音が近づいてくる。呼吸が上手くできない。ラパンは血を吐き出し、もだえ苦しんだ。


「あははっ、はは! そうだ、その顔が見たかったんだよ!」


 ジャックは頬を赤らませ、光悦した表情を浮かべた。何とも言えない幸福感が彼を満たしていく。


「盛り上がっているところ悪いですが、ここで『警察官』さんの登場!」


 空中から赤髪の青年が降りてくる。そして青年は有無を言わずジャックを踏んづけ、魔法で拘束させた。


「くそ、なんでお前がこんなところに……!?」


「なんでって、そりゃあ……」


 赤髪の青年はスミレ色の瞳を歪ませ、笑顔で答えた。


「お前みたいなやつを取り締まるためでーす」


 どこからともなく青年が拳銃を取り出し、ジャックの心臓めがけて打ち抜く。それは、彼が死んだと言うには余りにも説明できうる代物だった。


「うっ……!?」


 その光景を見た帽子屋が口もとを抑え、恐怖で腰が抜けてしまう。帽子屋は血の気が引き、この光景は嘘だと現実から逃げたくなった。


「あーらら、やっぱりお子様には刺激が強すぎたかな? これは失礼しましたぁ」


 へらへらと笑う青年は、先ほどの事件を物語るかのように全身が返り血に染まって真っ赤である。


 短めな赤い髪にスミレ色の瞳と、まだ幼さが残る笑み。黒い軍服と帽子に黒い手袋。血の色と同じ赤いマントは、『カラス』であるディリット・サングリアの手先だと思われる。


 元暗殺者のラパンでも、彼は相当の手練(てだ)れだと感じさせた。ラパンは一瞬の間を開けてから口を開いた。


「お前……ヴァイオレット・ノワールか。昔、何度か出会ったはずだ」


 ヴァイオレットはラパンとは真逆で戸惑いもせずに、軽い口を開く。


「今と立場は違いますよね? ボクは処刑人として。貴方は……確か、そこのお姫様を守るための従者だったはず」


 ヴァイオレットはくっと笑い、ラパンは下唇を噛んだ。


「あはは、本当に笑えますね! ……と言いたいところですが、ボクは貴方と戦いに来たわけではありません」


 ヴァイオレットは怪しげな笑みを浮かべて、「今はですけど」と付け足した。


「いやー、すみませんね。お坊ちゃんからの命令でして」


「ディリットの野郎か……。今、あいつはどうしている?」


「それは直接お会いになられては? 手配はこちらから出しますから」


 そういうと、ヴァイオレットはクリーク帝国からの招待状をラパンに手渡す。ラパンは驚いて、少しの間体が固まった。


「久しぶりにご友人と話せば、心が軽くなるかもしれません。それに、なかなか面白いことになっているようですし。

 それでは、ボクはこれにて失礼しますよ」


 ヴァイオレットが背を向けると彼は立ち止まり、何かを思い出したのか一言呟いた。


「あぁ、それと。……盗み聞きは関心しませんねぇ、()()?」


 全員の空気が張り詰める。帽子屋だけはいまいちこの状況を呑み込めていなかったが、周囲を警戒する。


 すると、アリスがもたれかかっている木の周辺が変わり始めた。


「ヴィオさん、ネタばらしなんてつまらないことするね」


 カルテが姿を現した。こころなしか、彼の表情が暗く見える。


「あ、貴方は……。僕のお店に来てくれた……!」


「久しぶりだね、帽子屋くん。僕はカルテ。こう見えてれっきとした男なんだ」


「お、男の人だったんですか……」


 うなだれる帽子屋に、カルテは笑顔をこぼす。


「僕は誰かさんと一緒で、嘘つきだからさ。まぁ……この話はいいや。本題に入ろう」


 カルテはアリスをお姫様だっこし、ラパン達に提案する。


「君たちに、ついてきてほしい場所があるんだ」

次回からは新章に入ります……! 2019.2.18

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